第18話 キース・レックの店
【前話までのあらすじ】
ロス、ライス、リジはライス・コーグレンを探す旅に出発する。しかし、戦闘が予想される旅、決闘裁定の場で破壊されたリジの防具を新調しなければならない。3人は『銀鴉(ギンア)』通称・カラスを入手するためにセレイ村へ向かうのだった。
◇◇◇
【本編】
森の道を
途中、小さな魔獣が2匹でたが、今のライスとリジには良い練習になっていた。
しかし..
「まったく! 何てこと! 私の『聖なる空の剣』の先っぽが折れるなんて」
「また言ってる..」
ライスが背中を向け、呆れた声でポツリとつぶやいた。
「聞こえてるわよ、ライス! 『また』ですって! 『また』!? 何度だって言うわ。私の大切な剣なんだから! それがたかがバグジの爪に負けるなんて」
「だから、それは爪と張り合おうとしたリジがいけないって、ロスさんが」
「わかってる。でも知らなかったんだから仕方ないじゃない。バグジの爪が鋼鉄よりも固いなんて知らなかったんだから」
バグジとはモグラの魔獣だった。モグラの爪は地中を掘るためにどの動物の爪よりも固いのだ。その魔獣となれば鋼鉄よりも固くなるのは必然。そのため、上位冒険者の剣士ならば魔獣バグジの爪には剣を合わせてはいけないことは常識なのだ。
「でも、ひとつ勉強になったじゃないか」
「ふん、ロスさん、そんな言葉で気分が晴れるほど単純じゃありませんわ」
「そういうのを素直じゃないというのでは..」
「あなた、また何か言ったわね!」
まったく賑やかな旅路だった。しかし、ロスにはこの賑やかさが今は何より心地よかったのだ。
森を抜けるとそこには大きな湖が広がっていた。湖の名はそのまま「セレイ湖」だ。
セレイ湖に流れる清流に沿って歩道が続いている。
木々を抜け歩いていくとそこには小さな集落があった。
「セレイ村のことは噂でしか聞いたことなかったけど、思ったより小さな村なんですね」
村人の視線はあまり歓迎しているようには見えなかった。
しかし、ライスのもとに子供が集まると、村人の表情が和らいで、家に招き入れようと、それぞれの家主が自ら声をかけてきた。
「ロスさん、どういうことなの?」
「うん、ここセレイ村の住人は火の精霊の加護を持つ村なんだよ」
「加護を持つ村? 加護は人が持つものじゃないの?」
「ああ、そうだね。でも、君の聖剣はどうだい? 別に魔道具のように精霊をとじこめているわけじゃない。だけど精霊が剣の中にいるのは、その精霊にとって居心地がいいからだろ。だから精霊は持ち主である君に力を貸すんだ」
「ああ、そういうことなんだ。じゃ、この村に火の精霊が住んでいて村を守っているって事なんですね」
リジは初めて聖剣と精霊と自分の関係を知ったようだった。そしてそれを村に当てはめると合点がいった。
「うん、そういうこと。あの子供たちはライスと契約している火の精霊の声を聞いたのだろう。よっぽどライスは精霊に好かれているらしい」
「そっか。ライスらしいですね」
「はっはっはっは。これはこれは、大きな精霊の声が聞こえてきたと思ったら、珍しい客を連れてきたものだな.. えっと.. えっと.... お前の名前、何だっけ?」
豪快な笑い声に白髪の長髪、耳や眉、そして首や指にまでさまざまな装飾をつけまくった大柄な男が話しかけてきた。
「ロスだ。俺の名はロス・ルーラ」
「ああ、そうだった。ロス! 久しぶりだな」
2人はじゃれあうように腕を絡ませて握手をした。
「ロス、こちらのお嬢さんとあそこにいる無邪気なお嬢さんは.. そうか、ロス、見つけたのか? やっと、見つけたんだな」
「おいおいっ! キース、それはまた後でだ」
興奮気味なキースに驚くリジを見ると、ロスは言葉をかぶせた。
「あ、ああ、そうだな。すまん..」
キースは反省と同時に、リジに向けて自己紹介をした。
「俺の名はキース・レックだ。このセレイ村の長をしている。よろしくな」
「私はリジ.. リジです」
「リジか。良い名前だ。それに君もあそこのお嬢さん同様に精霊に愛されているね。君の聖剣に住むのは空の精霊だね」
その時、一瞬キースの眼がオレンジ色になったのをリジは見逃さなかった。
「なぜ、わかるのですか?」
「俺の店は武器や防具を扱っているんだ。これは目利きってやつさ。きっと君の用件は俺の想像しているものだろう。まぁ、少し待っててよ。あのお嬢さんにも挨拶してくるからさ」
そう言うとキース・レックは子供らと遊んでいるライスの所へ行った。
・・・・・・
・・
―セレイ村 キース・レックの店—
その店は都市ハーゲルにある武器屋に比べれば、はるかに小さなお店で品数も少なかった。しかし、どの防具も剣も洗練された良いものであることはリジにもわかった。
「すごい。私はそんなに武具には詳しくないけど、わかるよ。ここの武具はどれも唯一無二のものばかりってことは」
キースはロスの顔を見て納得した顔をしていた。
「なぁ、ロス。この子を連れてきたのは試すためだろ?」
「ああ、まぁな..」
「 ..試す?」
「悪い、リジ君。少し嘘をついた。銀鴉(ギンア)は入荷したんじゃないんだ。初めからここに置いてあったんだ」
「なぜ嘘を?」
「君のおじいさんはしばらく殺害されることはない。なぜなら犯人はワイズさんをその場で殺さず拉致したからだ。しかし、君の優先順位は、何においてもワイズさんの救出にある。この旅は危険だ。旅を前に、君には身を守る強力な防具を手に入れてほしかった」
「なるほど。伝説の防具・銀鴉が1つだけ入荷となれば、騎士ならば手に入れたい。その心理をついたってことね」
「すまないね」
「なんで謝るんですか? 私は銀鴉の防具の在りかを教えてくれたことを感謝してます。それよりも何をするかはわかりませんが、『試す』のなら早くしませんか?」
「ほぉ、この気の強さはエミに似ているなぁ。 何、難しいことじゃない。ただ防具を身に着けてみればいい。それだけさ」
キースは感心しながら店先に展示してある腕当てを手に取り、台の上にガシャリと置いた。
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