第17話 セレイ村へ
【前話までのあらすじ】
リジはヴァン国の政(まつりごと)を中央裁定所責任者・トレン・トリニットに任せ、ロスたちと拉致された祖父ワイズ・コーグレンを助け出すための旅にでるのであった。
◇◇◇
【本編】
ロス、ライス、リジはヴァン国から北西にあるペドゥル国領の『北の山』もしくは『山の民の山』に向かって旅立つことにした。
デリカ、レキは『山の民討伐隊』の一員だからだ。
山の民は国に属することを嫌う民族だった。中央都市ハーゲルには直接の被害はないが辺境の町では、農作物を荒らされることは多数報告されている。
その被害は『北の山』から離れた『ロスのすごい果樹園』でも起きたことがある。その時は、白虎の
基本的には好戦的な民族というわけではない。しかし、ヴァン国にとって友好的であるわけでもなかった。
—ハーゲルの食堂—
「でも、討伐なんて少しやりすぎな気がするけど..」
「そんなことないわ。実際にペドゥル国への交易人の馬車が襲われることだってあった。奴らは野蛮な獣だわ」
「う~ん..だけどさ、そんな野蛮な民族なのに、冒険者への討伐依頼を見たことないよね」
「だから討伐隊がいるんじゃない。彼らがいるから冒険者に依頼するまでもなかったのよ」
「でもさ、その討伐隊ってデリカみたいな奴らの集まりでしょ..」
デリカやレキに酷い目にあいながらもリジが討伐隊をわずかながらも英雄視するのも無理はなかった。実際、多くの国民が討伐隊を英雄として認識しているのだ。中には討伐隊を指揮している大隊長は、世界を救った後に姿を消した伝説の勇者・ソルトの子孫ではないかと口にする者もいる。もちろん根も葉もない嘘である。
ライスには、酷い目にあわされながらもリジが討伐隊に肩入れしていることに違和感しか覚えなかった。
「ところで、リジ君、その討伐隊は誰が選任しているのか知っているのかい?」
「ううん。討伐隊の選任はペドゥル国で決められているの。本当はうちの国からも選びたいところなんだけどね。剣士ヒューズとか戦士ボンゴとかいいと思うのに..」
やれやれ、リジの討伐隊への密かな憧れは止まらないようだ。
「まぁ、ともあれ、これから『北の山』へ向かうには準備が必要だな。リジ君の防具もデリカに壊されてしまったし」
「じゃ、武器屋に向かいましょう!」
「ああ、それなんだが、俺のお勧めの店があるんだ。そこに行かないか?」
「それって何処なの?」
「セレイ村なんだけどね..」
「ダメよ、ダメダメ! セレイ村ってどの国にも馴染めない変わり者が集まる村でしょ? あんなところの店だなんて、絶対にハーゲルの武器屋の方がいいって!」
「そうかぁ..残念だなぁ。あそこに『銀鴉(カラス)』が1つ入荷した噂を聞いたんだけどなぁ..仕方がないか」
『銀鴉』の名を聞くと、リジは手に持つフォークを食卓にパンと音を鳴らして置いた。
「ロスさん! 銀鴉って! それ本当!?」
「ねぇ、リジ。『カラス』って何?」
「ライス、あなた知らないの? 『3匹の銀鴉』よ! 騎士なら誰でも知っているわ。伝説の剣士が身に着けていた防具よ」
「何かよくわからないけど、凄いのかな」
「そうよ! 凄いんだから」
「どんな風にすごいの?」
「ん.. んんと.. とにかく伝説だから凄いんだよ!」
リジは心を落ち着かせるために一呼吸おいてロスに向き直した。
「ロスさん、本当でしょうね」
「ああ、たぶんな」
「なら、すぐ行く必要があるわ。 銀鴉が人の手に渡る前に!」
リジの銀鴉に対する想いの凄みを感じる言葉だった。
目を輝かせるリジを見て、魔法使いの装備を持たないライスは少しうらやましかった。
手早く食事をすませると、3人は西の門から南西方面にあるセレイ村へ向かうのだった。
パーティの門出だ。
遠ざかるハーゲルの都市を振り返ると、ロス・ルーラは再びパーティとして旅に出ることに、ようやく運命の歯車が噛みあった気がしてならなかった。
・・・・・・
・・
西の三叉路からセレイ村方面へ流れるクリル川沿いの道で、ロスが足を止めた。
「どうしたの? ロスさん」
「ああ、先に走らせていた白犬が何かをみつけたようだ」
道の安全を確認するためロスは白犬の式紙を先発させていた。
草原から森への入口で白犬は待っていた。
後をついて行くと白犬はクリルの河へ降りていきそのまま岩場を歩いて行った。
遠くに滝の音が聞こえる。
白犬がしきりに鼻を鳴らし始めた。
白犬の嗅覚に感じ取られたモノがロスの思念にそのまま伝わった。
「ここから先に来るかは君たち次第だ。おそらく見るに堪えないものがこの先にある。どちらでもいい。見なくてもいいものだ」
「いくわ」「うん、私も」
大きな岩を周り込むと滝つぼが見えた。
そして矢に射抜かれた人の亡骸だったものがそこにあった。
一部は森の獣に食い散らかされていたが、着ている服からそれが誰かはわかった。
裁定人キシだ。
知り合いの変わり果てた姿を眼にして、その腐敗臭にリジは吐いてしまった。
ライスはリジを連れて、少し離れた場所で待つことにした。
「これは、毒か..」
近くを見るとキシを食べた獣の死体もあった。
「くっ、罠か!」
ロスは2人に警告をだそうとしたが、既にどこからか矢が放たれ、それは確実にリジに命中する....はずだった!
—キンッ
固いものが割れる音がすると、両断された矢が地面に落ちた。
「身を伏せろ! 罠だ!」
即座に2人は岩陰に身を伏せた。
ロスは耳を澄ませ、気配を探るが滝の音と飛沫に阻まれて位置を掴むことが出来なかった。
懐から式紙を取り出すと、白狐を召喚した。
「うまく奴の気を引いてくれよ」
—きゅっ
白狐は岩陰から2度、3度飛び跳ねると、待ち受けていたかのように矢が飛んできた。
矢に射抜かれた白狐が大きく跳ねて倒れた。
「ぎゃっ!!」
男の悲鳴のあと—バシャン!—と水に人が落ちた音がした。
「リジ、ライス、もう大丈夫だ。出ておいで」
「ロスさん.. 敵は?」
ロスは滝に打たれて沈んでは浮かぶ男を指さした。
「あいつはおそらく討伐隊のひとりだ。気配を探りにくい滝つぼに誘い込むなんて、かなり戦い馴れしてるな」
「いったい誰が倒したんだろう?」
リジとライスが顔を見合わせていた。
「おいおい、君らはもうひとり仲間がいるのを忘れていないか? 森の中で彼女に勝てる人などいないよ」
「そっか! アシリアね! アシリアー! ありがとう!」
「 ....」
「返事帰って来ないね?」
「ははは、それは彼女の『どういたしまして』だよ」
「でも、ロスさん。どうして裁定人キシが殺されたの?」
裁定人キシと面識のあるリジは、悲しそうな顔をしてロスを見た。
ロスは首を横に振って返事を返した。
矢に打たれたふりをした白狐は立ち上がると、キシの亡骸に近づいていく。ズボンのポケットをまさぐると、七色魔石をくわえて持って来た。
七色魔石を手に取るとロスはポツリとつぶやいた。
「あなたの役に立ててほしかった。残念だよ、本当に..」
滝の音は騒がしいのに、それ以外聞こえない静けさがロスの背中に染みるようだった。
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