第19話 伝説の防具・銀鴉(ギンア)

【前話までのあらすじ】

危険な旅を前に、身を守るための強力な防具を身に着けて欲しいというロスの思いを素直に聞き入れたリジ・コーグレン。キース・レックの店で、試されるリジ。彼女は何を試されるというのだろうか。

◇◇◇


【本編】


 あの伝説の防具『3匹の銀鴉(ギンア)』のひとつを店先に置いているなんて誰が想像できようか。


 「し、信じられない.. そんな店先に置いているなんて!」


 リジは驚きと呆れで思わず言葉がこぼれた。


 「ははは。大切なもんってのは時に無防備の方が安全なこともあるんだ。お嬢さんも覚えておきな」


 「さぁ、リジ君、それを腕にはめてみるんだ」


 『これは試験だ。自分がこの防具を身に着けるにふさわしい者であるか』そう理解したリジは銀鴉の腕当てを装着した。


 いつの間にか店内に入ったライスは、目を皿のようにしてその様子を見ている。



 —  ......



 特に防具が輝くとか、とんでもない力が湧くとか、そういうのはなかった。



 「え、え? 何? これって失格なの、ロスさん?」


 「そう思うのなら外すんだな」


 キース・レックは素っ気なく言う。


 見る見るリジの顔が赤くなっていく。


 「な、なんなのよ。期待外れだからって、そんなに態度変えることないじゃない! わかったわよ。外せばいいんでしょ!」


 リジが腕当ての留め金を外して腕から抜き取ろうとするが、留め金が外れない。


 「ねぇ、これ留め金が壊れているんじゃない? 全然、外れないんだけど!」


 商品のクレームのようにリジはキースに文句を言う。


 「ああ、悪いがそいつはもう君からは離れないよ」


 「え! これって呪いの防具?」


 一瞬、リジの顔が青ざめる。


 「ははは。リジ君、違うよ。『銀鴉』が君から離れたくないって言ってるのさ」


 そうリジに伝えると『銀鴉』がだんだんと透けていく。そして最終的には..



 「あれ!? 腕当てがリジから消えたよ!」



 ライスが驚きの声をあげた。


 「リジ君、世界には意思を持つ道具というのが存在するんだ。それはペンであったり、大工の金づちであったり様々だ。その『銀鴉』も自らの意思を持つ防具で、君が戦いをやめない限り離れることはないんだよ」


 リジは腕当てを付けたはずの腕を触りまくったがそこには自分の腕があるだけだった。


 後ろを向いていたキースが突然、飾ってある剣を取り、リジの腕に振り下ろした。


 ― キィィーン


 剣をはじく音とともにリジの腕が銀色に光った。


 そしてキースの持つ剣は茶色く錆びついていた。


 「び、びっくりするじゃない!」


 「ははは、ごめん、ごめん。だけど、この通りだ。銀鴉は君を守るぜ」


 リジは自分の腕を見つめていた。


 「ねぇ、キースさん、この銀鴉の残り2つってどこにあるの? 腕当ての他にもあるんでしょ?」


 「おい、欲張りだなぁ。残念ながら俺はこのひとつしか知らない」


 「そっか。あと2つは行方不明なんだね。『3匹の銀鴉』がバラバラなのもかわいそうかなって」


 「ははは。言い方間違えたよ。俺は銀鴉がこれの他にあるなんて聞いたことないぜ」


 「 え?」


 「リジ君、『銀鴉』は唯一無二の防具なんだよ。昔、ある王国で銀鴉の偽物をつくって大儲けしようとした奴らがいた。その詐欺師3人が捕まったんだよ。王都の人々はその詐欺師を『3匹の銀鴉』といって揶揄したんだ」


 「じゃ、初めから『銀鴉』はひとつなの?」


 「そうさ、そいつは今は腕当てだったが『胸』『胴』『肩』、剣が当たる場所を守ってくれるんだ。ただし、ひとつだけ注意しろ。同時に二か所をやられるな。『銀鴉』は一か所しか守れない。忘れるなよ」


 リジはただうれしかった。伝説の防具に選ばれたことに。


 だが、彼女はわかっていなかった。道具は使い方を知らなければ役に立たないこともあるのだ。それは「銀鴉」も例外ではないということを。


 ・・・・・・

 ・・


 「なぁ、久しぶりなんだ。一晩でも泊っていったらどうだ?」


 「いや、そうしたいところだが、俺たちは先を急がなきゃいけないんだ」


 「そっか。そいつは残念だ。いや、お前がまた仲間と一緒に旅しているのは、やっぱりうれしいことだな」


 「ああ、今度来るときは泊まらせてもらうよ」


 店を出ようとするとキースはリジだけを引き留めた。


 ロスとライスが先に店から出ると、ライスが浮かない顔をしていた。というよりもいじけている顔をしていたのだ。


 「どうしたんだ、ライス? 何かあったか?」


 「え、うんとね。へへ」


 「どうしたんだ? はっきり言ってみろ?」


 「あのさ、ちょっと子供っぽいって思われるかもしれないけど、『リジばっかりいいなぁ』って思って..」


 「なんだ、そんなことか」


 「そ、そんなことって言っても。私だってなんか欲しいなって。でも魔法使いってそういう『伝説の何々』ってないから」


 ライスは子供のように石を蹴飛ばしてすねていた。


 「まったく.. 仕方がない奴だ。じゃあ、俺から君にこれをあげよう。これは大昔に大魔術師と言われた男が身に着けていた伝説の首飾りだ」


 ロスは自分の首から首飾りを外して、ライスに見せた。


 「え、え~、嘘くさいなぁ。今、取って付けた『伝説』でしょ」


 「なんだ。じゃあ、いらないのか?」


 「えっ、い、いるよ!」


 「ここに6つの星があるだろ。これは魔術師とある奴らの友情を示したものなんだ。これさえ身につけていれば、君の危機にそいつらが駆け付けてくれるよ」


 ロスはライスの首に手を伸ばし首飾りを掛けてあげた。


 ロスの顔が、体が、今までにないほどに近づいた。


 ライスは顔から火が出て、唇が震えるような、胸がなぜか落ち着かない、今まで感じたことない、恥ずかしいような、うれしいような..


 ライスはこのままロスの胸に顔をうずめてしまいたい気持ちになった。


 「おっまたせしました、お二人さん!」


 リジが元気よく店から出てくると、ライスはとっさにロスから離れた。


 そして、ますます顔が熱くなるのを感じた。


 「さぁ、ライス、行こう」


 「う、うん」


 ライスは首飾りの星を手で確認すると、うれしくて笑顔になった。

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