第14話 裁定決闘の行く末

【前話までのあらすじ】

デリカとライスの闘いは魔力勝負となった。ロスはライスの潜在能力を引き出すため眉間にある魔道点に集中するように助言をした。デリカの持つ『牢獄の魔道具』から精霊の悲痛な叫びが聞こえると、突如、ライスの額が二つに割れ黄色い魔眼が現れるのだった。ライスは自分を『天空の魔人ジャク』と名乗った。魔人ジャクは、リジの聖剣に住まう精霊を上位精霊へと昇格させた。

◇◇◇


【本編】


 思いもよらない凄い闘いに観客の歓声は割れんばかりだった。そして、観客の期待は次の展開だ。


 デリカへのとどめだ。


 「ちっ、やつら、最初はそのお嬢の血を望んでやがったくせに!」


 氷で固められた足で身動きの取れないデリカは唾を吐き捨てた。


 「デリカ、俺たちは命を取ろうとは思っていない。しかし、このままならお前の足は腐ってしまうだろう。俺の質問に答えろ。救ってやる」


 デリカは苦虫を潰したような表情を浮かべたが、すぐに他に道はないと自嘲するような薄笑いを浮かべた。


 「わかった。質問は『牢獄の魔道具』のことだろ」


 「ああ、その通りだ」


 「この指輪は北の領主国ペドゥルの行商人から買ったんだ。最初は『牢獄の魔道具』なんて眉唾に思っていた。だが、見てのとおりよ。しかし、レキはあの剣に触れた時から人が変わっちまった。知ってるのはそれだけだ」


 ロスはここにきてデリカが嘘をついて得をすることもないと判断した。


 「ライス、デリカの足元に火炎球を放ってごらん」


 ライスは言われるままデリカの足元に火炎球を投げた。


 —ポンッ とまるでビンからコルクを抜いたような音がすると、デリカの足を覆っていた氷が消え去った。


 「ククク。そいつは魔人ジャクがいたずらに使う魔法さ。効力は弱いのさ」


 「くそ! これなら俺でも砕けた」


 「デリカ、まだ闘うか?」


 「いや、もういい。どうせ俺の負けだ。レキも逝っちまったしな」


 「ああ懸命だ。お前がまだ闘う気だったら、今頃、お前の頭に矢が刺さっていただろう」


 —ドガッ


 ルースの矢がデリカの頬をかすめて地面に刺さった。


 「ロスさん、これで私たちの勝ちだね!」


 ライスが満面の笑みを浮かべた。


 「ああ、そうだな。帰ろうか」


 「ダメよ。まだ帰らせないわ!」


 そこには剣を構えて、ライスを見据えるリジ・コーグレンがいた。


 「リジ..」


 ライスはリジに手を伸ばそうとしたがすぐにひっこめた。


 「ライス、まだ私との闘いが残っているわ。もともとは私とあなたの問題だった。すまないけれど、コーグレン家として負けることは許されないのよ」


 リジは言った言葉に唾を飲み込んだ。


 ライスは目を閉じて大きく深呼吸した。


 「うん。わかった! やろう!」


 「 ..よし、なら、俺とアシリアが未届け人だ。だが、一つ条件がある」


 リジとライスはロスの言葉に耳を傾けた。


 「2人とも、以前の条件で闘うんだ。リジは精霊の力を使わない。そしてライスは俺の補助なしだ」


 「いいわ」「いいよ」


 2人は闘技場の真ん中で向き合った。


 木の葉が巻き上がるとアシリアの矢を合図に2人だけの決闘が始まった。


 火の精霊としか契約を結べないライスは火炎球しか出すことができない。


 飛んでくる火炎球をリジは聖剣で二つに割っていく。


 距離を詰めようとするリジに、そうさせまいと距離を取るライス。


 デリカとの闘いでライスは接近戦をする相手との距離の取り方を身に着けていた。


 一方、疲労で腕が思うように上がらないリジは唇をゆがめながら剣を振るっている。


 —ガッ


 割った火炎球の切れ端をよけきれず胸当てをかすめた。そしてリジはよろけた。


 ここぞとばかりライスは追い打ちの連続の火炎球魔法の詠唱を唱えた。


 [ —メドレス・ラン— ]


 連続で襲い掛かる火炎球にリジはふらつきながら薙ぎ払うのがやっとだ。


 ライスはリジがへたり込んだところで勝ち名乗りをあげようと思っていた。


 『勝者は自分だ!』そう思った瞬間だった。


 —ポコン.. ポロロ.. 


 石ころのような燃えカスだけがリジの前に転がった。


 ライスの魔力切れだ。


 あれだけのデリカとの攻防、その上、魔人ジャクまで憑依したのだ。無理もないことだった。


 リジの眼が光った! そして疲れていたのが嘘のように.. いや、嘘だったのだ。


 リジはいつかライスの魔力が切れると状況を分析していたのだ。そして、大げさに疲れたふりをして、その時を待っていたのだ。


 素早く間合いを詰めるとライスの腹を剣の柄で突いた。


 『カハッ..』と膝から崩れ落ちるライス。そして魔力切れと疲労でそのまま気を失ってしまった。


 その顔は出せる力を全て出し切って.. なんともだらしない顔だった。


 リジは観客に向かって大声で言った。


 「我が名はリジ・コーグレン! 正々堂々と決闘をし、我が汚名を振り払い、我が髪の無念も今晴らした! よってライスの罪は、今許されたのだ。 だから私の仲間であるライスにこれ以上文句があるなら私が相手になる!」


 これだけ盛大な闘いを見せられた観客は誰一人文句を言わなかった。それどころか観客からはリジへの声援と同じだけライスへの声援がやまなかった。


 「ふっ、今の言葉をライスが聞いたら、もっとだらしない顔で大泣きするだろうな」


 ロスは背中にライスを背負いながらつぶやいた。


 特別室からひとりの男が闘技場まで降りてきた。


 「私はハーゲル中央裁定所 最高裁定人トレンです。決闘は裁定所の規定通り行われた。そして原告の宣言通り今、示談が成立したものとする。よって、ライス・レイシャを不問とする!」


 しばらく観客からの盛大な拍手と声援がやむことがなかった。


 決闘裁定が正式に終わったのだ。


 デリカは禁止されている『牢獄の魔道具』を使った罪で取り押さえられた。


 ロスはライスを背中に、そしてリジに肩を貸しながら闘技場の門をくぐった。


 「まったく、俺も久しぶりにヘトヘトだよ。ライスは重いし、リジはボロボロだし」


 「ロスさん、何言ってるの。私たちみたいな花に囲まれて幸せでしょ。それに仲間は助け合うものよ」


 リジが片目をつぶってみせた。


 「ふ、ふふふ、ははははは。そうだな」


 『こんなに爽快な気分は....年ぶりだ』とロス・ルーラは思った。


 そして空にかつての仲間たちの顔を思い浮かべていた。


 「ねぇ、ところでアシリアはどこにいったの」


 「あいつ、また姿を隠したな。なんでいちいち隠れるんだか....」


 「ふふふ.. ほんとね」


 ロス、リジ、そしてライスを照らす夕陽はとてもやさしく暖かかった。しかし、遠くまで伸びる光と影は彼らの長い冒険の始まりを告げるようでもあった。

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