第8話 ライスの資質

【前話までのあらすじ】


決闘裁定が執り行われる事をライスに知らせるロス・ルーラ。弱気になっていたライスは、ロスが必死に動いてくれたことに涙をこぼす。そしてチームに加わってくれることになったアシリア。彼女はライスの今の実力が見たくて闘技場に処刑獣を放った。

◇◇◇


【本編】


 処刑獣トリュテスクローは知能が高い。2匹は左右に分散すると両方から弱そうなロス・ルーラを狙ってきた。


 「ライス、左の奴に火炎球を当てて足止めしてくれ」


 「わ、わかった。—メドレス・ラン—」


 空気が歪むと幾つもの火炎球がトリュテスクローの行く手を阻んだ。


 火炎球がちゃんと発生したことで緊張していたライスの表情がやわらかくなったのをロスは見た。


 (なるほど.. この子は闘いの恐怖も緊張感もごちゃまぜに、魔法を使う事を楽しんでいるのか)


 ロスはライスの魔素の光が他の魔術師よりも明るい理由を理解した。


 「光る牙よ、今ここに現れろ!」


 ロスが式紙を放つと大きな牙を持つ白犬が現れた。白犬は鋭い牙をトリュテスクローの鉤爪に突き立ててバラバラに砕いた。


 「ライス、これを唱えろ」


 ロスが式紙に念を込めると文字が浮かび上がり、ライスの目の前を漂った。


 「えっ? えーっと、ザラ・ジャイス・ローキ!?」


 式紙が勢いよく土中へ突き刺さり、地面が激しく揺れた。闘技場の地面が割れると、巨大な蛇の顔が現れた。


 『ギャー!』と叫んだのはライスだった。


 巨大蛇は白犬に足止めをされているトリュテスクローを頭から飲み込んだ。


 巨大蛇の頭に飛び移った白犬は、ジタバタするトリュテスクローが裂けた口に包み込まれるのを冷ややかに見ていた。


 —グギャ と猛獣の断末魔が聞こえると巨大蛇は土中に、跳躍した白犬は紙となってロスの手に戻った。


 「あと、1匹だ! ライス、お前の得意な火炎球魔法だ。詠唱の頭にルカをつけるんだ」


 「う、うん。—ルカ・メドレス—」


 すると赤い火炎球が闇色と白色が混じった小さな火炎球に変化した。火炎球は彼女の手の平で密度の濃い音を鳴らしている。


 ゆっくり舞い上がる火炎球は、瞬間的にトリュテスクローの体内に入る。


 —ギギ.. ギギャアアァアア


 トリュテスクローは体が膨張しそのまま爆発した。その肉片は全て灰となり骨ひとつ残らなかった。


 「う、うわわわ。エグイ」


 ライスは自分の魔法の威力に驚いて地面にお尻をついてしまった。


 [ 良い戦いだった。私は精霊ロイだ。ライス・レイシャ、また会おう ]


 「うん。またよろしくね」


 精霊の別れの挨拶が終わると、アシリアの放った矢が闘技場の壁にトンと突き刺さった。


 「試験は終わりかい、アシリア?」


 アシリアがロスの背後から現れた。


 「ねぇ、アシリア! ほら、ちゃんと勝てたよ!」


 素直な笑顔でライスが勝ちを伝える。


 「ええ、確かに勝ったわ。でも、ロス・ルーラ、なぜそのような古の詠唱を知っているの。あれはエルフ族の中でも知る者が少ない詠唱だ」


 「いや、たまたま見つけた古文書に書いてあったのさ。それに、あの詠唱はそんじょそこらの魔術師が唱えたって何も起こらないぜ。アシリア、君にもわかるだろ」


 「..確かに。そうか、それを見せるために、あなた、わざと策にはまったわね」


 少し不穏な2人を見てライスが割って入る。


 「ねぇ、ねぇ、せっかく勝ったんだから喜んでよ」


 「ライス・レイシャ! 確かにあなたの中に可能性を見たわ。今はそこだけは認めてあげるわ」


 そういうとアシリアは風で運ばれた木の葉の陰に隠れて消えた。


 「まったくいちいち姿を隠すなよ。でも、よかったな、ライス。合格だってさ」


 「本当に!? ..やったぁああ!」


 大きな声で喜ぶライスの声が闘技場に響き渡った。


 ロスは確信した。


 ライスは無邪気な子供なのだ。恐怖や緊張感よりも魔法を楽しむ心が上回る。今は火の精霊しか契約できていないが、やがて彼女は精霊に愛されるだろう。


 その時、きっと、あの大魔術師リベイルを超える存在に成るだろうと。

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