【ディスク10】アタシの意見
「……
不可思議な力で宙を漂う
問われた
何か言おうとしたのか、ふと口を開いた
「すぐに答えらえるような事じゃないヌミョよ」
アタシに背を向けたまま、
ま、だよね。
それが普通だよね。
「
カーテンは開かれており、夕方のオレンジの空が見えていた。
「姉ちゃーん。いっこ聞いていーい?」
今までずと黙っていた健太が、アタシと同じようにベッドに腰を掛けつつ、首を傾げてアタシの顔をジッと見ていた。
「何よ」
また突然、変な事を言い出すんじゃないだろうな?
アタシが若干警戒して返事をすると
「姉ちゃんはどうしたいのォー? みんなをゲームに追い返したいの? それとも一緒に現実世界に戻って欲しいの?」
まるで夕飯に唐揚げがいいのかハンバーグにするのかを聞くレベルの軽さで、健太がそう問いかけてきた。
「ハァ!? いや、アタシの気持ちは関係ねーだろ! 選択肢は用意したんだから、あとは選ぶのは本人──」
「えー。それってフェアじゃなーい」
アタシの反論を、アッサリ切り捨てる健太。
「確かに選択は選ぶ人間の意思だけどさー。自分の事を考慮に入れて欲しくないっていう姉ちゃんの打算が見えるよォー?」
そう言い募られて、アタシは思わず喉を詰まらせた。
「姉ちゃんは部下を抱える立場だしさー、俺なんかは十個下の弟で、頭ごなしに教え込まず、まず相手に考えさせるって癖がついてなーい?
でもさ、コレ、教育じゃねーじゃん?」
そう言われて、ハッとした。
部下に教育する時、当初やり方は教えるけれど、その後は自分で考えさせて、まず自分でやってみる癖をつける為に、そうしてた。
それで後輩や部下が失敗しても、自分が責任を被るだけ。アタシはその為に後輩や部下より高い給料を貰ってるのだと、納得して。
健太に対してもそうだった。
明らかに失敗すると分かってても、危なく無い限りは止めなかった。勿論失敗しても怒らなかった。
健太に、四苦八苦する、そして自分で成功させて、喜んで欲しくって。
だから、自分が思うところあっても、先に口出ししない癖が、確かについてた。
「ソレはいくらなんでもズルいよ姉ちゃんー。だってみんな、姉ちゃんの事が好きで一緒に生活してたんだろ? んで、一年も一緒にいたんだろー?
さすがに一年もいれば、姉ちゃん、情が移らないワケないじゃんー。
なんで自分の気持ちは相手に伝えないのォ?」
「いや、でも、アタシは現時点で、誰の事も好きじゃ──」
「恋愛感情抜きでは? みんな『ハイさよなら』ってサラッと簡単に、もう二度と会えなくなっても大丈夫なレベルなん?」
健太にそう突っ込まれ、何も言えなくなってしまった。
恋愛感情抜きとした時、簡単にハイさよならが出来るレベルなのかって?
その程度しか感じていない相手に、自分の貯金投げうって就籍許可申請なんてしねぇわ。
鬼のようにクッソ忙しい仕事でヒーヒーいいながら金稼いでこねぇわ。
でも──
「引き留める、権利なんて、ないっしょ」
アタシは、締まる喉からなんとか言葉を絞り出す。
すると、それを聞いた健太がアハハッと軽く笑い飛ばした。
「違うよ姉ちゃん! 誰も権利の話なんてしてないよォー!
ただ『姉ちゃんはこれからも同じ世界で暮らしたいのか、違うのか』の、意見を聞いてるだけだよー! 姉ちゃんの意見は意見だよ! 命令じゃないんだよォ?
ダメだよ姉ちゃん、命令し慣れちゃってて意見を言う事と命令がごっちゃになってるよっ!」
健太に明るくそう笑われ、アタシは目から鱗が落ちたような気持ちになった。
あ、そうか。
そうだ。
意見。アタシの感想。
そういえば。
アタシは相手にどうしたいかばっかり聞いて、自分の意見を言ってこなかった。
言うとした場合、それはほぼ命令ばっかりだった。
確かに。
「俺が聞いてるのは、周りの状況とか条件とか一切無視した、ただの姉ちゃんの個人的意見だよ!
みんな姉ちゃんの事が好きなんだよォ? 好きな人の意見は聞いておきたいじゃーん! 好きな人の意見を
少なくとも、俺だったらそうだなァー」
「……それはウソだろ健太。お前はアタシの意見とは無関係で自分の好き放題するじゃん」
「それは俺が、姉ちゃんが俺の事大好きだって、もう既に知ってるか・ら♪」
最後は、いつもの軽ーいノリで締める健太。
アタシの、意見。
アタシはどうしたいのか。
アタシは、みんなに、どうして欲しいのか。
……考えないように、していた。
現実世界に連れてきてしまったという負い目があって。
言えなかった。
おこがましいと、思ってた。
だからみんなには、今後は自由に生きて欲しかった。
アタシの事なんか、考えずに。
……。
覚悟を、また、決める時なのかもしれない。
「……
アタシはベッドに座り、自分の掌を凝視しながら、
「何を聞きたいギョリュ?」
ポインポインという行動音と共に、耳元で
「ハルトのイベントをキャンセルしなかった場合、ナーシルやスヴェンには、会うタイミング、ないの?」
「そうギョリュね……ハルトとの舞踏会イベントを成功させると、ナーシルのお部屋訪問イベントは発生しないギョリュ。その後に控えるスヴェンのイベントも。
そのままハルトのルートが確定して、ナーシルとスヴェンはモブになるギョリュ」
「なるほどね」
アタシは口元をさすって、考えた。
「……ハルトのイベントは、いつまで待たせられる? 時間経過ってあんの? 時間過ぎると勝手に発生すんの?」
「この部屋の扉を開けた瞬間に、イベントが進行して開始するギョリュ」
……ふむふむ。そういう仕組みか。イベント
アタシは無言でひとしきり考える。
そのあいだ、誰も口を開かなかった。
アタシの足にはピッタリと
どれぐらい時間が経った頃か。
「──ぃヨシッ!!!」
アタシは自分の両頬をパシッと叩いて気合いを入れた。
そしてベッドから立ち上がる。
「じゃ、行きますか」
驚いた顔をしてアタシを見上げるそれぞれに視線を這わせてから、アタシはニヤリと、そう笑った。
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