【ディスク3】ご飯タイム

「よし子! 俺は肉がいいって言っただろ!? 生肉よこせ生肉!!」

「私も、この『ドッグフード』とやらは飽きました。鳥のササミが食べたいです」

「小松菜じゃなくってヒマワリの種を寄越すピュシャ!」

 それぞれのご飯皿を見た元猫騎士ガブリエル元犬司祭ラファエル桃茄子ピエプがそれぞれ文句を垂れ流す。

 アタシはウンザリしながら三匹を見返した。


 土曜日の夕方、三匹のご飯の時間。

 元犬司祭ラファエルを散歩に連れてった後のこの時間は、この三匹いっつも文句タラタラなんだよなぁ。

 確かにさ、元人間型としたら毎日毎回同じご飯は飽きるだろうとは思うけれど、さ。

 限界があらぁ。

 アタシは腕組みして、喧々諤々けんけんがくがくと文句を垂れる三匹を見下ろした。


「ガブリエル。野生じゃないんだからキャットフードも食べろや。毎回トッピング変えてんだろ」

「いやだ! 生肉がいい!」

 ああ、たまの贅沢として白茄子エグプが買ってきてくれた馬刺しなんて食わさなきゃ良かった……


「ラファエル。犬は雑食性なの。肉ばっかりじゃバランス悪いんだって。トッピングの温野菜の何が嫌なんだよ」

「私は肉も好きなんですが……ああ、我儘ワガママを言う私をののしっていただけるなら、喜んでこれを食べます」

 そんな元犬司祭ラファエルの言葉は無視した。


桃茄子ピエプ。ヒマワリの種は太るから沢山あげちゃダメだって医者が言ってたんだよ。野菜も食え」

「飛び回ってるから太らないピュシャ! ヒマワリの種じゃないなら食べないピュシャ!」

「……また強制給餌きゅうじしたろか」

「ピシャア!!!」

 前に、アタシが鳥用の薬を無理矢理飲ませた時の事を思い出したのか、桃茄子ピエプは悲鳴をあげて飛び去って行った。


「なまじ喋る分、扱いが面倒くさいヌミョな」

 アタシと三匹のやり取りを見ていた金茄子ゴエプが、座卓の前に座った状態でヤレヤレと苦笑いしていた。

「好みを言葉で表現してくれるのは楽だけど……我儘に感じるのは、愛玩動物は人間の言う事を聞くべきだっていうおごりがあるからか、単純にコイツらが面倒くさいのか……」

 そうこぼしならがも『食べたくないなら食べなきゃいい、それしかやらんからな』と態度で告げて、アタシは三匹に背を向けて座卓の自分の座椅子に座った。


「終生飼育してくれるんだろ!? なら俺の言い分も聞け!」

 諦めたのか、ササミと鰹節トッピングが乗ったキャットフードをガツガツ食べる元猫騎士ガブリエルが、皿から顔をあげてそう言い募ってきた。ヒゲにめっちゃ鰹節ついてんぞ。

「里親も見つからないだろうし、終生飼育は飼い主の義務だから勿論だけど──」

 アタシは喋りながらジト目で元猫騎士ガブリエルの方へとゆっくり振り返る。

「言い分聞いてるだけじゃあ健康に生きてもらえないし。今後、生殖器系の病気を防止する為に、虚勢、した方が、いいよね」

 声だけは優しくそう伝えると、元猫騎士ガブリエルはその場でピョーンと飛ぶ。着地した瞬間、廊下を猛烈なスピードで逃げて行った。ジャンプ力すっげぇな。


「ああ、それ、もう一度、今度は私に向かって仰っていただけませんかっ……!」

 そう、うっとりとした声でお願いしてきたのは元犬司祭ラファエル

「……」

 アタシは露骨に顔を歪めてから元犬司祭ラファエルに背を向けた。

「私は神に仕えし身。結婚もしませんし子孫も残しません。ならば、私はを行った方が良いのではないでしょうか? どうでしょうか? よし子様、どう思われますか? 貴女の口から直接再度、私に仰ってくださいっ」

 なんで聖職者の分際でこういう嗜好持ってんの? 怖いんだけど。

 王弟殿下イグナートの『踏んでくれ』も嫌だけど、元犬司祭ラファエルのこの『言葉責めをしてくれ』っていう態度もマジ嫌だわ……


 なんでウチには、こんな変なのしか集まらないの?

 どういう事???


「よし子は、この三匹の終生飼育を決めたのか?」

 廊下から、捕獲したであろう元猫騎士ガブリエルたずさえた金髪王子ハルトが姿を現す。……元猫騎士ガブリエルの身体、ホントにめっちゃ伸びるな。金髪王子ハルトも別に背が低い方ってワケじゃないのに、元猫騎士ガブリエルの足が床につきそうだよ。ながっ。

「喋る猫と犬なんて、引き取り手ないっしょ。研究所とかで解剖はされそうだけど。それは流石に可哀相というか……」

 最初は『里親を探すまで』って言ってたけど、まぁ無理だよね。

 エルフショタスヴェンが『売っ払えばいいじゃん』って結構な真顔で言ってたけどさ。

 元の人間型とかを知ってる分、そんな残酷な事はできないし。

 いや、むしろ犬猫の姿をしてる時の方が抵抗感あるわ。可愛いし。


 畳の上に置かれた元猫騎士ガブリエルは、アタシにウーウー唸りながらも自分のご飯皿の所へと行く。尻尾をゴン太状態にしながらも、モソモソとご飯を再度食べ始めた。

「大丈夫か? よし子。変なトコ舐められたりとか、触られたりしてね?」

 そんな声で廊下から現れたのは商人息子ナーシルだった。これから居酒屋バイトへ向かうのだろう。身支度した姿だった。

「あー、大丈夫。今の所……たぶん」

 元犬司祭ラファエルに、ひたすら足の裏を舐められる事は言わないでおこう。

 最初気持ち悪かったけど、もう慣れた。実は実家で買ってた柴犬の柴太郎も、アタシの足を舐めるの好きだったんだよね。……アタシの足の裏から、犬のツボに入る何かが分泌されてんのか?

 元猫騎士ガブリエルはアタシの事をあまり舐めない。その代わり、頭突きかよってぐらいに頭をこすりつけてくるぐらいか。なまじっか身体がデカイから、ちょっと衝撃が強いけどね。前に、肘に突然すり寄られ、持ってたマウスが飛んでった事はあった。


「帰って来た時、またよし子の部屋にいてみろ。またシャンプーしてやるからな」

 そう笑顔で告げた商人息子ナーシルの言葉に、元犬騎士ラファエル元猫騎士ガブリエルが身体をビクッとさせる。

「……よし子の部屋? どういう事だ?」

 事情を知らない金髪王子ハルトが、座卓の前に座りつつ首をかしげていた。

「コイツら、寝る時よし子のベッドで一緒に寝てたんだよ」

「なんだと!?」

 商人息子ナーシルの言葉を聞いて、金髪王子ハルトが腰を上げる。

「ガブリエル! ラファエル! なんて羨ましい事を!!」

「ハルト殿下、本音が漏れてます」

 金髪王子ハルトの口をついて出て来た言葉に商人息子ナーシルがツッコミ。

「違った! なんて破廉恥ハレンチな事を!」

 破廉恥ハレンチって……久々聞いたわ、その単語。

「添い寝するぐらいいいじゃないか! 俺たちはよし子とイチャラブできないんだぞ!?」

「そうですとも。この身体では、本来出来てしかるべき事が出来ません。せめて身体をすり寄せるぐらい許して欲しいものです」

 元猫騎士ガブリエル元犬司祭ラファエルは、金髪王子ハルトの言葉にギャンギャンと反論した。

「何を言ってる! 例え人間の身体でも出来ないぞ!」

 ……金髪王子ハルト。もうツッコミ入れるのも疲れたわ。

「そりゃお前にまだ女を口説くスキルがないだけだろ! でも可能性はあるだろ!」

「そうです、我々はゼロです!」

「あ、でも分からないな!? よし子に獣──」

「ストップ。言わせねぇよ?」

 元猫騎士ガブリエルの言葉をすんでで止めた。仮にも乙女ゲームのキャラなんだから使う言葉は選べよ。


「……本当に売り払う気はないヌミョか?」

 金茄子ゴエプにそう問われ

「このままなら、気が変わるかもしれないね……」

 アタシは頭痛を感じる額を押さえ、座卓へと肘をついて溜息を吐き出した。

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