【裏イベント7】世界の統合

「うわああああ!!」

 アタシは思わず後ろへとズザザっと身を引く。

 まさか、そんな! って、事は……?


「オカシイ! 人間型にならないぞ?! 何故だ。獣化するのは新月の夜だけの筈なのに!」

 見た目に反してイケボな声でそう話すのは、山猫みたいな身体の大きさの黒猫。

「私もです。どういう事でしょうか? この世界には魔法についての制限が設けられているのでしょうか?」

 同じく、見た目に反してイケボで話す大型犬。


 あー……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ誰か嘘だと言ってくれ……っ!!


「……よし子、お持ち帰りエンドじゃないって言ったじゃん……」

 ゲンナリとした顔でそうボヤくエルフショタスヴェン

「お持ち帰りエンドじゃないよ! ってか、エンドがん無視して無理矢理帰ってきたんだもん!」

 アタシは首をブンブン横に振って否定した。

「しかも……喋る犬と猫と……インコギョリュ? よし子、どんなゲームをしてたんだギョリュ?」

「え、ええと……スローライフ系ハートフルケモ耳私TUEEEゲーム……?」

「形容詞が相殺しあってるヌミョな」

 分かってる。アタシもそう思う。

「ケモミミ?」

「あー。半獣人って意味だよ。ま、半分どころか、どうせ耳と尻尾ぐらいしか表現されない『半』どころか『微』獣人ぐらいなんだろうけどさ」

 腕組みして首を傾げる金髪王子ハルトの言葉に、エルフショタスヴェンがサラリとそう答えた。


「そうなんだピュシャ! 本来であれば、我々はケモ耳で表現されていたのに、この世界に来たら、何故か完全にケモノになってしまったピュシャ!」

 大型犬の頭の上で、そう叫ぶピンク色のインコ。

「なぜだ!? 本来の姿が人間型なんだから、そっちになるのが正解じゃないのか?!」

 大きめ黒猫が、背中を総毛立ちさせながらそう叫ぶ。

 そう言われましても。アタシがやったワケじゃねぇし。

「そうですよね! なぜ獣姿の方に寄ったのか……」

「しかも! 俺はケット・シーだぞ!? なんでこんな、ちょっと大きいぐらいの猫みたいな姿に!」

「私だって……っ! 私はクー・シーの亜種で金色のレア種だったのにっ……なんでっ……」

「ゴールデンレトリーバーに見える」

「それな」

 アタシのツッコミに、エルフショタスヴェンがすかさず同意した。

「ミーもピュシャ! なんでインコに!」

 甲高カンだかい声のインコが、羽根をバタつかせて抗議してきた。

「? お前は茄子の妖精ギョリュか? 人間型はないギョリュか?」

 白茄子エグプにそう問われ、首を九十度曲げて傾げる桃茄子ピエプ

「人間型もあるピュシャが……ゲームのコンセプトが『ケモ耳』の獣人系だから、人間型になると背中に羽が生えた姿になるピュシャ」

「「それが原因じゃね?」」

 アタシとエルフショタスヴェンのツッコミが綺麗にハモった。


「姿は置いておくとして。お前たち、どうやってこの世界に来たんだ。さっきよし子は『お持ち帰りエンドじゃない』と言っていたぞ?」

 珍しく金髪王子ハルトが話の本筋に戻してくれた。

 ……いかん! うっかりすっかり、ツッコミモードになってしまっていた!

 本題はそっちじゃん!

「それが……」

「私たちにもどういうことか……」

 大型猫と大型犬が、お互いの顔を見合う。

 そこで、ピンクのインコ(桃茄子ピエプ)が翼をクチバシの下に持ってきてウーンとうなった。

「おそらくピュシャ……聖女がゲームの世界を壊したからピュシャ」

「ゲーム世界を」

「壊した?」

 金髪王子ハルトエルフショタスヴェンが同じように首を傾げた。

「聖女が聖女の力を使って、世界を更地にしたピュシャよ」

 そう解説する桃茄子ピエプの言葉に、ジト目を向けてくる白茄子エグプ金茄子ゴエプ

 やめて、見ないで。


「ミーたち以外が全てゲーム世界から消えたピュシャ。そうしたら……気づくとこの世界にいたピュシャよ。

 たぶん……ゲームの世界が無になったピュシャから、異物として外の世界に叩き出されたピュシャ」

 桃茄子ピエプのその言葉を聞いて、白茄子エグプが大きなため息を漏らしてから腕組みをした。

「なんでそんな事をしたギョリュか?」

 まるでアタシを叱るような口調になる白茄子エグプ

「いやだって、この猫か犬を伴侶はんりょに選べって言うから」

「なるほど。それは拒否して正解だったな」

 アタシの言い訳に、速攻で同意してくる金髪王子ハルト

「俺という伴侶はんりょが既にいるからな」

「ちげぇわ」

 いらん言葉を追加してきたので、そっちは即否定した。

「選択肢があるようでないゲームなんて、『やらされてる感』があって好きじゃないんだよ。アタシは思う通りに進めたい。例え、外道っていわれる方法でも選べるんなら、一回はそっち選んでみたいし」

「RPGやってたらうっかり魔王エンドいくタイプヌミョな」

「仲間にならなかったキャラが敵として現れたら、自分の手で始末するタイプだギョリュね」

「あ、分かる。ボクもそのタイプ」

 金茄子ゴエプ白茄子エグプが入れて来たツッコミと、エルフショタスヴェンの同意は無視した。


「そんな嫌な事を延々をやらされるの嫌だったし。世界を更地にして壊せば、さっさと現実世界に戻って来れるかな、と思って」

 アタシがボソボソと言い訳していると、金髪王子ハルトがなるほど、と頷いた。

「ゲーム世界が無になった時に『無』とは相反する存在になった三匹が、現実世界に戻るよし子と一緒にこちらの世界に来たという事か。それならなんとなく理解できるな」

 理解できちゃうの!? この異常事態を!? それは分からんな! ゲーム世界に生きていた金髪王子ハルトだから分かる感覚なのかな!?

 し……しかし……


 アタシが困って言葉を探していると、フォローを入れるかのように白茄子エグプが口を開いた。

「理由はともあれギョリュ。この世界へ来てしまったからには、どうにかしないとギョリュな」

「え? 保健所の番号調べてくる?」

 処分する気満々か、エルフショタスヴェン

 でも確かに、もうこれ以上、扶養家族を増やすのは……

「ホケンジョ?」

 大型猫が小首を傾げる。

「飼い主のいない動物を連れてって、別の飼い主が現れれば引き渡して、もしいないようなら処分する所だよ」

 エルフショタスヴェンの解説に、大型猫、大型犬、ピンクのインコが身体をビクリと震わせた。

「処分とは……処刑するって事でしょうか!?」

 大型犬がアワアワとそう言い募ってくる。

「刑ではないので意味は違うが……殺されるという意味では、同じだろうな」

 金髪王子ハルトがウンウン頷く。

「そんなっ……」

 ピンクのインコが、目に見える形でガッカリとした。


 ……。

 ……。

「よし子」

 考え事をしていたアタシの背中に、エルフショタスヴェンの厳しい声がブッ刺さる。

「今、よからぬ事を、考えたでしょ?」

 え? 何の事でしょうか……?

「まさかよし子……飼う気ギョリュか?」

「やめとくヌミョよ。税金支払いも増えて、本当に家計が火の車ヌミョよ」

「そ、そうだよね……」

 結構、ヤバイ、状態だよね。分かってる分かってる。

 でも……


「聖女様……」

「聖女……」

 やめて。猫と犬の可愛らしい顔で、アタシの事を見上げないでッ!

「助けて欲しいピュシャ……」

 インコも間近で見ると可愛いんだな……


 ぐぅっ……

「さ、里親を見つけるまでは、どうかな……」

 アタシがなんとか声を絞り出すと。

「ありがとう聖女!」

「嬉しいです聖女様!」

「それでこそ聖女ピュシャよ!」

 三匹が喜びの声を上げたが

「何言ってんの!? 喋る猫とか犬なんて誰も引き取らないよ!?」

「子犬や子猫ならいざ知らず、大人の犬猫は引き取り手が少ないと聞いたぞ」

「ピンクのインコは珍しいギョリュ。個人売買アプリで売ったらどうギョリュ?」

「意思疎通できるインコっていうのも珍しいヌミョね。高額で売れるヌミョよ」

 四人が反論の声をあげた。

 ……一部、反論じゃなかった気がするけれど。


「お前たちは仲間じゃないピュシャ!? 同じ茄子の妖精だピュシャ!?」

「もう妖精じゃないギョリュ」

「それより自分の生活ヌミョ」

「ナビキャラが外道に成り下がってるピュシャ!!」

 白茄子エグプ金茄子ゴエプ桃茄子ピエプがギャイギャイと言い合う。

 そんな中、大型犬と大型猫は再度アタシへと飛び掛かって来て、顔中をベロベロと舐めてきた。

「お前! 元は人間型だったんだろう!? 舐めるな! よし子の柔肌やわはだけがれる!」

「動物型だからって調子乗らないでもらえる? ボク、マナが見えるから、お前たちが人間のソレとよく似てるの、分かってるからね? 気持ち悪いんだよ!」

 アタシに覆いかぶさる大型犬、そして大型猫を、剥がそうとなんとか躍起になる金髪王子ハルトエルフショタスヴェン


 アタシは、更に増えた扶養家族(?)を前に……


 もう、ゲームすんの、やめよっかなぁ。

 そんな事を、ボンヤリと考える事しか出来なかった。



『ハートフルケモライフ』編  了

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