【裏イベント5】選択のその後
「俺を選んでくれ、聖女。お前を必ず守る」
そうアタシに向かって手を伸ばすのは──猫を思わせる縦に切れた瞳孔と金色の瞳。
かたや。
「聖女様。私を……貴女のお
ゆるゆると手を差し伸べたのは──若干カールしたフワフワの金髪をボブにまとめ、透き通った
「さあ、選ぶピュシャ」
二人を交互に見つめていたアタシの背中を、
一歩前へと進まされた私は、一度自分の右
それをグッと握り締め、アタシは──
「え、どっちも嫌なんだけど──」
ズガァアアアアアアン!!!
拒絶のセリフと吐くのとほぼ同時に、物凄い雷鳴が轟いた。
「……申し訳ないピュシャ。返答が聞こえなかったピュシャ」
アタシの右斜め上辺りをフヨついていた
「さぁ、選ぶピュシャ」
さっきと同じ口調、同じ声、一言一句同じ言葉を再度吐く
「だから、どっちも嫌──」
ズガァアアアアアアン!!!
アタシも全く同じ事を言おうとしたら、再度雷鳴が轟き渡る。
「……申し訳ないピュシャ。返答が聞こえなかったピュシャ」
「どっちもい──」
ズガァアアアアアアン!!!
「……申し訳ないピュシャ。返答が聞こえなかったピュシャ」
「両方い──」
ズガァアアアアアアン!!!
「……申し訳ないピュシャ。返答が聞こえなかったピュシャ」
「いや、あの──」
ズガァアアアアアアン!!!
「……申し訳ないピュシャ。返答が聞こえなかったピュシャ」
「待って、あの──」
ズガァアアアアアアン!!!
「……申し訳ないピュシャ。返答が聞こえなかったピュシャ」
「あのさ──」
ズガァアアアアアアン!!!
「……申し訳ないピュシャ。返答が聞こえなかったピュシャ」
「そうじゃな──」
ズガァアアアアアアン!!!
「……申し訳ないピュシャ。返答が聞こえなかったピュシャ」
「……」
ズガァアアアアアアン!!!
「……申し訳ないピュシャ。返答が聞こえなかったピュシャ」
「何も言ってねぇよ」
ズガァアアアアアアン!!!
「……申し訳ないピュシャ。返答が聞こえなかったピュシャ」
「聞く気がねぇのか」
ズガァアアアアアアン!!!
「……申し訳ないピュシャ。返答が聞こえなかったピュシャ」
「どういう状況──」
ズガァアアアアアアン!!!
「……申し訳ないピュシャ。返答が聞こえなかったピュシャ」
「ええ加減にせぇよお前ら!」
ズガァアアアアアアン!!!
「……申し訳ないピュシャ。返答が聞こえな──」
「何回やらせるんだよこのやり取り!」
「ユ……ユーが騎士と司祭のどっちかを選ぶまでピュシャ……」
縦横にグイグイ揉んでると、気のせいか段々
「まぁ……薄々そんな気はしてたんだけど、さ」
アタシは、柔らかくなって茄子の形というより完全なる球体になった
力なくヨレヨレと空中へと戻って行く
「わ……分かってくれたピュシャ……?」
「ああ、分かったよ」
アタシは部屋の片隅に置いてあった鞄の方へとゆっくりと近寄ると、それを拾い上げて肩にかける。
ポケットから電子タバコ本体を取り出し、そこに煙草を差してスイッチを入れた。
暫くして煙草の水蒸気を深ァーく吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出す。
そして、薄く、ほんの薄くだけ、唇の片方を少し持ち上げて笑った。
「そうだなァ。アタシは猫も犬も好きだけど……今回は、犬を選ぼっかなァ」
ゆったりとそう答えると、
尻尾をユルユルと下げ、イカ耳にしてあからさまにガッカリと肩を落とす猫耳騎士とは反対に、耳をピンと立てて千切れんばかりに尻尾をブンブン振って喜びの表情をする犬耳司祭。
「って事は、ユーは世界を復興させてくれるピュシャ?!」
「うん。やるよ」
「よしピュシャ! そしたら我々は邪魔だピュシャね! あとは若い者同士で親交を深めてもらうピュシャよ!!」
新円の体をブルンブルンと震わせた
彼を立たせて部屋の扉の方へとユルユルと近寄って行った。
「聖女様……っ!」
感激に打ち震えている、といったテイの犬耳司祭が、腕を広げてアタシを抱き締めようと近寄ってきた。
なのでアタシは──
「あ、朝には迎えに来るピュシャよ! その時にでも、今後の世界復興の方法を──」
その動きをビシリと凍らせた。
「な……何してるピュシャ?」
アタシの行動を、信じられない、といった声音で問いかける
「え? いや。犬にはまず序列を教えないといけないでしょ? どっちがボスなのか、ちゃんと教え込まないと」
アタシは、床の上に四つん這いになった犬耳司祭の背中を踏んづけていた。
「せっ……聖女様ッ……」
四つん這いにさせられた犬耳司祭は、オロオロとしながらも小さく問いかけてくる。
「黙れ犬耳。誰が吠えていいと言った」
「キュウン……」
ビシリと返答すると、犬耳司祭の耳がイカ耳状態になる。が、何故か尻尾はブンブンと振り続けていた。
「想定外の
シャッとこちらへと飛んできた
ベリッと
「うるせぇ。朝チュンで濁されるなら、濁された最中に何がされてても問題ないだろうが」
「確かにプレイの内容に言及はされていないピュシャがっ……」
ベッドの上にポインポインと跳ねた
「それが
そんな
「ああ。だって、
「何言ってるピュシャ!?」
アタシの返答に、
「でも、さっき、ラファエルを選んで──」
「ああ。どっちか選べって言われたから選んだよ? でも、
そう吐き捨てて、アタシは吸い終わった煙草を鞄の中へとしまいこんだ。
そして、何故かさっきから尻尾が止まらない犬耳司祭の背中から足を下ろす。
アタシの足が背中から離れた瞬間、床へとベシャリと突っ伏す犬耳司祭のその身体は……小刻みに震えていた。
見なかった事にした。
扉の所でさっきまでガッカリ、といったテイだった猫耳騎士が、耳と尻尾をピンと立ててガバリと振り返る。
「じゃあ俺を──」
「黙れ猫耳。誰が喋っていいって言った」
何かを言い募ろうとした猫耳騎士を速攻で切り捨てる。
彼はふにゃあと言いながら動きを止めて座り込み、パタパタと不機嫌そうに尻尾を動かしていた。
アタシは凝った首をコキコキ鳴らしながら、大粒の雨が打ち付ける窓の方へと近寄っていく。
手首をほぐして指を鳴らしてから、窓の鍵を開けて開け放った。
その途端、猛烈な風が部屋の中へと吹き込んでくる。激しい雷鳴が聞こえつつ、雨がアタシの顔を打ち付けてきた。
「な……何をするつもりピュシャ?」
そんなアタシの背中に、
なのでアタシはゆっくりと振り返り
「……世界を、復興させるんだよ?」
優しくそう、微笑んだ。
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