【ディスク15】自立への後押し
「俺たちだけギョリュ?」
アタシから少し体を離した
「いや、実は全員分あるよ。直接受け取りに行ったの。支払い手続きもあったし。クリスマスプレゼントと思って秘密にしてた。みんなには寝てる間に傍に置いておく」
サンタさんみたいにしてさ。目覚めた時にあっと驚いて欲しくて。
「ただ、二人には特に普段から頑張ってくれてたから、直接手渡したかったんだ」
アタシがそう小さく答えると、再度二人にギュッと抱き締められた。強い強い。
最初の四人──
一括で申請する事により、多少金額もまけてもらえた。これは友人の茜の
本当に嬉しいのか、二人はアタシをギュウッと抱き締めたまま動かない。
さすがに苦しくなってきて、アタシは彼らの腕から逃れようとモゾモゾする。
しかし二人とも腕を緩めない。
どうしたもんか。
まさかここまで喜んで貰えるとは思ってなかったし、でも喜びに水を差すのもアレなので、アタシは脱出を諦めてされるがままにする。
そうしていてどれぐらい時間が経った頃か──
「よし子、愛してるギョリュ」
アタシの耳元に、そんなくぐもった小さな呟きが聞こえてきた。
一瞬ドキリとしたけれど、アタシは小さく笑って
「アタシもだよ。いつもありがとね、
アタシは笑って、いつものようにそう返事した。
「よし子、俺も愛してるヌミョ」
意外な声が、もう片方から放たれた。
「ハイハイ、アタシも。ありがとね
彼はアタシへの好感度は普通と言ってた。こっちは意味深ではない為ヘラヘラと返事をする。
しかし
「改めて、俺も目指すヌミョ。よし子の夫の座を」
そう続けられてアタシは驚き、そのままシュッと下へとしゃがんで二人の腕から脱出する。
ザッと二人から距離を取った。思わず眉根が寄ってしまった事は自分でも分かった。
「……今、何つった?」
聞き間違い、だよね?
アタシが腕から抜け出した事により、二人はキョトン顔をアタシの方へと向けてきた。
オイ。なんでそっちが『なんで?』って顔すんだよ!?
そりゃアタシが感じるべき感情じゃね!?
「聞き間違い、だよね?
恐る恐るそう再確認すると、
「? 何がヌミョ?」
まるでアタシが空耳したみたいな反応しないでもらえますかね!?
「今、
ホントに空耳?
「言ったヌミョ」
言ったんかい!!
やっぱり聞き間違いじゃなかったんかいッ!!!
「なんで!?」
信じられない状況に、アタシは思わず身構えてしまった。
「なんで……てヌミョ?」
マジで本当に、アタシが不思議な事を言ったかのような顔をする
しかも、
「いやいやいやいや! アンタここに来た時点では好感度普通だったじゃん! なんで今!? なんで今更!?」
アタシがコメカミを両手で抑えつつそう怒鳴ると
「よし子、俺たちはもともと乙女ゲームのキャラだったギョリュよ?」
腕組みした
「
同じく腕組みした
「しかも、他メンバーとは違って、直接手渡ししたかったとか可愛い事言われて、キュンとしないハズないギョリュ」
「好感度アップの効果音が脳内で鳴ったヌミョ」
「分かるギョリュ。俺もギョリュ」
「乙女ゲームの通常設定ヌミョな」
「乙女ゲームの王道展開ギョリュね」
そう、二人で狛犬よろしく立ってこっちを見る二人に、アタシは声が出せなかった。
いやだ……
やめてくれ……
この家で、
性的好意を向けてこない彼と対応する時だけが、気持ちが休まっていたのにッ!
アタシは信じられない展開に、立っていられなくなって、その場にズシャリと膝をついた。
もう……平穏な日常は……アタシには存在しないって、事、なのか……?
「なるほど。これがよし子が求めていた、逆ハーレムという状況だな」
そんな声が、少し離れた場所から飛ぶ。
声にそちらを見ると、開いた障子の所に
「イグナート! 寝たんじゃないのかよ!?」
「眠る前は読書の時間だ。よし子の嗜好を理解する為の勉強をしている」
「それで学習すんな! そりゃフィクションだッ!!」
「こういう目に遭いたいから、楽しんでるのではないのか?」
「非現実的状況を楽しんでたんだよ!」
現実世界で、一緒に住む男全員から性的好意を向けらえるとか、どんな地獄だよッ!?
「一つ屋根の下に暮らす全員から、好意を向けてもらってウハウハ。
……なるほど? よし子はの嗜好は、複数人といちどきに行為を行う、俗に言う──」
「違ぇよ!!!」
そんな趣味はねぇ!!!
「……うるさいなぁ。何、どうしたの……」
そんな声をあげたのは
見ると、
「逆ハー展開に、よし子が嬉しい悲鳴をあげていた」
「しれっと嘘を吹き込むなイグナート! コレは純然たる悲壮感たっぷりな悲鳴だ!!」
「俺が愛してると言ったら、よし子も『私も』と応えてくれたギョリュ。これはもう俺とのゴールイン寸前って事ギョリュな」
「そういう意味じゃない!」
「それを言ったら俺もヌミョ。俺の愛にも『私も』と応えたヌミョ」
「いつものノリじゃん!」
「さてはやはり、よし子。さては3──」
「言わせねぇよッ!?」
放送禁止効果音など入らない現実世界で、卑猥なワードなんか使わせねぇぞ
「ちょっと待ってよ。どうしてそういう流れになってんのっ!? ボクが寝てる間に何があったのっ!?」
飛び起きた
「あー……何、
どこか
「そうヌミョ。我慢できずに愛の告白をしたヌミョ。そして、受け入れられたヌミョ」
「だから違ェって!」
速攻で否定して、ふと気づく。
とうとう言っちゃったって言った!?
って事はまさか──
「……ッ、いつから!?」
アタシは信じられない気持ちが沸き起こってきて、そのままの気持ちで
「よし子、まさか、
座卓から起き上がって、首を痛そうに抑えた
「そりゃ、俺の気持ちの隠し方が完璧だったからヌミョね」
そう、少し恥ずかしそうに頬を崩す
「でも、よし子があまりに可愛くてついヌミョ」
「えー! ボクも可愛いよし子見たかったァ!」
「子供にはまだ早い」
「だから子供扱いしないでくれる!? イグナート!!」
「
「ハルト殿下。選ぶのはよし子だヌミョよ」
「やだなー……またライバルが増えたのかよ」
「ナーシルは最初から対象外だから、その心配は不要だギョリュ」
「そんなことはないね。よし子は俺を見直してる。さっき言ってたの、聞こえてた」
「起きてたんだギョリュ? 盗み聞きはイイ趣味じゃないギョリュね」
「裸族よりはマシだと思うよ?」
「俺たちは裸族じゃないギョリュ! お前達が被服族なだけだギョリュ!!」
全員が再度居間への集合し、ワイワイと騒ぎが始まってしまう。
アタシは一人、そこの中心に立たされつつも──
マジか。
もう、ダメなのか。
この家には、平穏な時間というものは、もう一秒も存在しないって事なのか。
その事に絶望を感じ……
棚の引き出しにとびつき、そこから複数の封筒を引きずり出す。
そしてソレを座卓へとバシッと叩きつけ
「オラ戸籍だ受け取れ! そしてさっさと自立せェー!!!」
胎の底からの怒号を、全力でその場で喉から絞り出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます