【ディスク10】知的好奇心充足イベント
「怪我、治ってないのに……無理しないでね」
「いつでも言ってくれ。抱いて歩く準備は出来ている」
「お気持ちだけで充分。ありがとね」
アタシは、心配げに見上げる
少し曇天の空の下、葉が落ちて寒々しい姿を見せる木々と、冬の間にも青々と茂る木々が並び立つ公園を三人で歩いていた。
でも、メチャクチャ似合ってる。似合ってる服を選べる
かたや
……なんか、親子三人のお出かけに見えてそうだなぁ、なんて、ふと思った。
前回、
通りで痛いワケだよ。
それを知った
実は。
あの時──アタシが男に絡まれてる時、
それを見た
褒めるか
確かに、乙女ゲームのキャラなら、それやりそう。物理法則無視してな。
大事をとってから改めてお出かけしようか? と
幸い、多少痛くても動かすに少し不便を感じるだけで、歩いたりする分には問題ないしね。
それに──
「今日は博物館でしょ? 腕が多少痛くても大丈夫だって」
アタシはそう笑い飛ばした。
「でも意外だったよ。博物館を行き先に選ぶなんてさ。てっきりスヴェンなら、遊園地とか選ぶかと思った」
アタシがそうケラケラ笑うと、
「みんなそう言うよね! でもボク、あんまり人が多いウルサイ場所って好きじゃないんだよ!?」
そう、プンスカと怒ってみせてきた。
「エルフだからか?」
「そう。もともと自然の中で自然と交わりながら暮らす民族だからね、エルフって。人間みたいに大人数で群れる性質もないし。だから正直ウルサイのって苦手」
へー。そうなんだ。
「その割に、ウチでは一番ウルサイぞ」
「一番ウルサイのはアホ王子だよ! それに、ボクがこうして声をあげるのは、アンタとかがやらかすからツッコミ入れてるだけ! 本来のボクは大人しいのっ!」
……それはどうだろうか?
ま、分かるよ。アタシも放置できない
つい声帯
「言っとくけど、自然と交わりながら生活してるからって、文化水準が低いワケじゃないからねっ!? マナの力を最大限利用して、ある意味自然科学的に生きてるんだよ!? 人間が野蛮すぎてツッコミ入れずにはいられないのっ!」
「野蛮? フッ。洗練された人間の生活が羨ましいのだろう? 無理をするな」
「してない! そうやってエルフを田舎者扱いする人間ってホント嫌い!!」
「短命種とこちらを見下すエルフがよく言う」
「はいはいそこまでー。喧嘩するなら帰るよー」
「こんなに仲がいいのにっ!?」
「ジャレてるだけだ。いつも通りに」
「そうだよっ!」
こういう時だけ突然息ピッタリになる
「そういえば、人が多くない場所として博物館を選んだっていうのは分かったけど、数ある人が多くない場所で、なんで『博物館』だったの?」
それ、気になってたんだよね。ついでに、イベントの趣旨の『アタシの知的好奇心を満たそう』っていうのも。
「よし子、好きでしょ? 博物館とか」
アタシの横を跳ねるように歩きながらも、キョトンとした顔でアタシを仰ぎ見る
「あ、まぁ、確かに好きだけど……」
あれ? そんな事、言った覚え、ないけどなぁ。
「なんで分かったの?」
そう尋ねると、アタシを挟んで
「よし子の書庫を見た。様々なジャンルの本が収納されていたので、色々な事に興味を持つのだろう──そういう、知的好奇心を満たすのが好きなのだろうと、予想したんだ」
低く落ち着いた声で、
書庫──ああ、本棚のあるアタシが物置にしてる部屋だね。
「ホント色んな種類あったねー! 漫画も小説も、美術書も専門書も、解説書も啓発本も! 何目指してんのっって感じだったもん!」
「いや、別に何も目指してないけど、面白そうだなって思ったヤツとかは、つい買っちゃうんだよねェ」
「だからあの量か。凄いな」
「アレでも、あの家に引っ越して来た時に随分減らしたんだけどねぇ」
今の家に引っ越すってなった時、本を段ボールに詰めてみたら凄い量になったから、さすがにコレは多すぎるなぁと思って、結構売っ払ったわ。
「売って……アレなの?」
そう言った
何、その顔。
「そんなにまだ量多い?」
「いや、量じゃなくって……」
言葉を継いだのは
「エロ本を後生大事に本棚に収納しておくのは、どうなのだろうな?」
輝くような優しい笑顔で、そう、アタシを見下ろしてきていた。
「は?」
エロ本? 何言ってんだ?
「アレはエロ本じゃない。レディコミとティーンズラブだよ」
ちゃんと正規で売ってる本だい。……年齢制限は、ついてると思うけどね。ネットで買った。
「しかもさ、専門書とかのお堅い本の横に並べとくのって、どうなの??」
「え? 作家名順に並べてるんだけど」
その方が分かりやすいよねぇ? あ、でも、作品名順の方が探しやすいかな?
しかし、
「ジャンル分けを推奨するよ、よし子。歴史小説の間に挟まるピンクの背表紙は、浮いていると俺も思ったよ」
「あ、アレはティーンズラブの小説。結構面白かった」
最初は
そう言うと、
「そうか……アレが趣味なのか。俺も履修しなければ……」
「やめて。これ以上脳みその中身をピンクにしないで」
真顔で呟いた
そんな風にワイワイと喋りながら公園を歩いていると、木々の向こうから博物館の荘厳な建物が姿を現した。
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