【ディスク8】海辺でのランチ
「ランチは
「ごめん。
「浜辺でピクニックだ!」
「……この寒さは想定外だったけど」
「俺たちが風から守るから大丈夫だ!」
「……全然風除けになってねぇよ。
ま、でも嬉しい。海を見ながら
ありがとう」
砂浜にレジャーシートを敷いて、その上にトートバッグやリュックから取り出した弁当箱たちを並べる
神社へ参拝した後、海の方へと戻ってきて砂浜でランチをとる事になった。
神社での参拝も……まぁツッコミどころ満載だったけどな。
お
『神への対応なのに、何故最上級の対応をしない?』と澄んだ目で問われて、
どうやらあの乙女ゲームの舞台である国は唯一神教らしくって、
その点、どうやら
ただし二人から『何故神様に現金を?』と問われて、流石にアタシも分からなくって返答に困ったわ。
一応、二人とも
鈴はなんである所とない所があるんだ?
二礼二拍手一礼はした方がいいという意見と、しない方がいいという意見両方あったが?
とかなんとか……
宿題として調べてくるから、今はアタシの真似をしろ、と取り敢えず二人にはお願いしたよ。
言われて確かに。改めて考えた事もなかったから、今度ちゃんと調べておこうっと。
意味がわかると理由が分かるから、今後忘れないし説明もし易くなるしね。
多分、同じ事を他メンバーにも聞かれそうだから……
おみくじも引いたよ。
なんなんだよ。
『縁談:
『恋愛:多くを望むべからず』
『待ち人:来るには来るが、遅い』
『家庭:苦労多し』
って。どういう事や!?
……ま、いいや。
今の状況で大吉とか出たら、危うく地面に叩きつけてるところだったわ。
そして、今に至る、と。
まぁこんな日もいいね。
温泉とまた全然違う意味で肩の力が抜けたし。なんか色々、自分の中にあった偏見みたいなものをブチ壊して貰えて、目から鱗の体験もいくつかできた。
これはさ、
三十五にもなると、人生ある程度
それだけでも、周りの見え方が変わって少し楽しくなって来たよ。
綺麗なカフェで豪華なランチじゃなくっても。
三人で砂浜に並んで、オニギリ片手に水筒から出した豚汁飲んで、並べられたタッパーからキンピラやら竜田揚げやら摘むだけでも、こんなに楽しいなんてさ。
今までじゃ、味わえなかった。
些細なことの中に感じる幸せ。
それを今、まざまざと体験させてもらっていた。
***
「トイレ行ってくる!」
そう言って
ランチが終わり、三人でまったりと海を眺めながら取り留めもなく話していた時だった。
「場所分かる?」
アタシが場所を検索しようとスマホを取り出すと、
「任せろ。地図を読むのは得意だ」
「マニュアル的だから?」
「その通り!」
鼻の孔を広げてフンスと得意げにする
「じゃ、俺はその間に珈琲でも買ってこようかな。飲みたいだろ? 食後の珈琲。あったかいのでいい?」
次いで腰を上げた
「ついでに俺もトイレ行ってくるし」
財布をポケットに戻した
「アタシはアンタらが戻ってくるまでここで荷物番してるから、先に行ってきていいよ」
彼の言わんとしていた事に気づいてそう返答した。
「じゃ、ちょっと待っててよ。すぐ戻る」
「寂しくて泣くなよ! よし子!」
「泣かねぇよ。行ってこい」
二人の言葉に、アタシは手をヒラヒラさせた。
各々が違う方向へ行く背を見送ってから、アタシは海の方へと視線を戻した。
二人がいなくなった途端、急に回りが静かになった気がする。
この隙にと思って電子タバコを取り出した。
この公園が一応、喫煙禁止されていない事はさっき調べた。
スイッチを入れて
自分の吐息の向こうに、波の音がハッキリと聞こえる。
大きく寄せる音、小さく寄せる音。サラサラと波が引いていく音。車が行き交うエンジン音、遠くで遊ぶ家族連れの子供の笑い声、人の歩く靴音──
あー。こういう環境音、普段意識する事がない音。
この音を不意に聞くと──寂しさを感じる反面、なんか、少し、ホッとした。
こういう時間、ホント普段感じる事がないからなぁ。
一人暮らししてた時は、不意にそういう時間が欲しくなって、テレビを消して窓を開け、ずっと外の音を聞いたりしていたなぁ。
……疲れてたんやな。マジで。
今も毎日、ある意味気が抜けなくって疲れてる。
ツッコミの嵐に絶え間ない
七人も暮らしてる家で静かになるのは、みんなが寝静まった夜中だけ。
でも。
一人暮らしの時は若干不眠症気味でなかなか寝付けなかったのに、今は帰宅後風呂入って軽く夜食を食べるとすぐに眠くなって寝ちゃうんだよね。
だから夜中の静けさを感じるタイミングも今はなく。
こういう時間を持つの、久しぶりだなぁ。
冬の灰色の海が不思議なリズムで寄せては返す。
それを見ながら煙草の煙を吐き出しつつ。
アタシは静けさを堪能していた。
──が。
「お姉さん、独り? 誰かにフラれちゃったの?」
そんな声が不意に、背中へと
途端に鉛のような物が
声の方には振り返らず
「いいえ。独りじゃないです」
そっけなくそう答えた。
「いやいや、独りじゃん」
「そうそう。俺ら、ちょっと見てたんだよ」
ヘラヘラとしたそんな二つの声がしたかと思うと、すかさずドカリとレジャーシートの両隣に二人の影が乱暴に腰を下ろして来た。
恐ろしいまでの嫌悪感が背中に立ち上る。
──やば。二人だったんか。しくじった。
アタシは体を固くして、素早く両隣の男たちの顔を見た。
歳はいくつだ。若そう。二十代前半ってぐらいか?
チャラそうな髪型に
……寒くないんか? 冬の海やぞ。風も強いのに。
「ここじゃ寒くね? あったかい所に行こうよ」
「そうそう、俺ら車あるよ?」
二人はこっちが警戒してるのを分かっているのか、一応まだこっちには手を伸ばしてこず、そう言いながらアタシの反応を見ているようだった。
面倒くさいのに絡まれたなぁ。
都心で道端で缶コーヒー飲んでる時とかにも、よくこういうのに声かけられたけど、まさか有名神社がある観光地でもこんなのがあるとは思わなかった。
しくじったなぁ。財布とか入ってる鞄は膝の上に置いてるからいいけど、アタシとトートバッグの間に座られてしまった。
あのトートバッグには
立ち上がって逃げようにも、
チッ。マジうっざ。きっも。
「独りじゃないんで。友達待ってるから」
アタシは二人を無視し、電子タバコに新しい煙草をブッ刺して再度スイッチを入れた。電子タバコの本体を凝視する。
「あれ? お姉さん、慣れてるね? もしかして、遊んでる系?」
「だよね。その体だし」
そんな言葉とともに、隣の男の腕が腰──しかも、コートの中へと侵入してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます