『荒波の断罪』ファンディスク編
【ディスク1】新たなる日常
「イグナートォォォォ!!!」
家で仕事をしていたら、怒りのオーラほとばしる
あの声は……十五・六歳の美少女に
そして、そんな彼が名前を呼び捨てにしていた『イグナート』とは、二つ目の乙女ゲームから来た
名前を吠えられてるって事は……イグナート、また何かやらかしたのか。次は何をやらかしたんだ……
アタシはノートパソコンをパタンと閉じて、声のした方へと足を向けた。
アタシが居間へと顔を出すと、銀色のゆるく伸ばした髪に若干の寝癖をつけたまま、呆れた顔で立ち尽くす商人息子──ナーシルがいた。
彼の視線の先には──板張りの廊下に、デカい身体を折りたたんで小さく正座させられた
精悍な顔を縁取る銀髪をハーフアップにして、キリリとした印象──いや、実際に表情をキリリとさせて、自分を怒鳴りつける
「どうやったらキャベツが
可愛い顔を般若のように歪ませ仁王立ちし、
……あー。なるほどね? さては……
「イグナート様、お使い行ってまた
若干まだ寝ぼけ
やっぱりか。何度目だ。
アタシも呆れて、
「……だって。よし子には
「
「よし子になんてね! 放置して生えちゃったネギの花で充分なのっ!!」
「オイ。とばっちりディスり、やめろや」
とんだ流れ弾に当たったぞコラ。どういう意味だ。
「ネギ坊主は食べられるから、貰った後も有効活用できるじゃん」
「……だとしても、『それ以外の花はアタシには不要』って言われてるみたいで気分悪いぞ」
「みたい、じゃなくて、そういう意味で言った」
「待てコラ」
まぁでも確かに、ウチの財政状況はマジで結構カッツカツだけどさ。
「スヴェン。それは違うぞ」
今まで
そして
「よし子には、
「イグナート。アタシをフォローしたついでにディスってる」
「彼女にはもっと美しい装いをさせるべきだ」
「ほっとけ。この格好が楽なんだよ。家にいる時ぐらい好きな格好させろや」
「こんなボロボロの上着とヨレヨレのズボンなど履かせてっ……」
「愛用の
「寒いなら毛皮のコートを用意しよう」
「そんな金ねぇわ」
ホント、
生活費、どっから出てると思ってんだろ。
「スヴェン。たぶん殿下にはお使いは無理だよ。金持たせたらよし子へのプレゼントで持ち金全部使っちゃうじゃん。物々交換ぐらいしか、もう無理だって」
アタシの隣で同じように傍観してた
「子供のお使いレベルも無理なの?!
すかさず噛み付く
「金銭感覚がオカシイんだって。
……結果的に
「だからってこのままじゃホントに役立たずのままだよ?! ウチにはすでにアホ王子っていう役立たずがいるんだから、これ以上役立たずはいらないよ?!」
アホ王子って。ハルトヴィッヒ──ハルトの事か。まぁ彼は、
かたや
最初の頃、
しかも真顔で『さぁこれで踏──』と言いかけた口は食パン突っ込んで黙らせた。
「そう言わないでくれヌミョよ、スヴェン。イグナート殿下は貴重な外貨稼ぎ要員だヌミョ」
そう言って奥の間から顔を出したのは、少し癖のある金髪が褐色の肌に映える
「裸エプロンはやめろって言ったろォが
アタシは思わず怒鳴りつけた。
「よくエプロンだけって気づいたヌミョな」
「お前、前も『エプロンつけてればOKヌミョな』とか言ってパンツ脱いでたろうが!!」
「覚えてたヌミョか。無駄な記憶力ヌミョね」
「振り返ったら男のケツが見えたとか、とんだトラウマじゃボケェ!!!」
「鍛えてるから大丈夫だヌミョ」
「何がだサッサとパンツ履けェ!!」
「仕方ないヌミョね」
そう言い、
何なんだよ全く
……何でこう、ウチには黙ってればイケメンで素敵で目の保養になりそうだし、声帯も超絶イケボ(※声充ててる声優さんと同じ声)で聴き触りも完璧なのに、何か行動させると致命的な何かを露見させる男達しかおらんの?
しかも、顔だけ男四人を扶養する覚悟した途端、二人増えるとか意味分からん。
もう破綻する、マジ破綻する、財政破綻する……
これはもう、アタシは乙女ゲームをしてはならないという、神の啓示なのかな……
──待て。
もしそうなら、神様がこの六人を遣わしたって事?
呪うぞ、神様。マジで。全身全霊で。一生をかけて。誠心誠意呪うぞこの野郎。
ああもう、本当に、どうすりゃいいんだよ……
アタシは全身に恐ろしいまでの疲れを感じて、ガッカリ肩を落とした。
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