【ディスク7】嵐の撤退
「キララの言葉で、俺は自信がついた」
それをアタシへと真っ直ぐに向けて、意を決したかのように、
「改めてよし子に伝える。
大好きだ。愛してる。今すぐにとは言わないが、結婚して欲しい」
アタシの前にズザァッと
「「ちょっと待てやお前ェ!!」」
意図せず、キララとアタシの声がハモった。
「ハルトきゅん、何言ってんのっ?! キララの言葉、聞いてた?!」
「ホントだよハルト! この子にソレ言われちゃ、お前オシマイだぞ?!」
「ああ勿論。キララの言葉があったから、俺は改めて自信がついたんだ」
「そうかもしんないけど! なんでそれが求婚に繋がるんだよ?! 『一緒に逃げよう』って言われたろ?!」
「俺は逃げない。『よし子に似合う男になる』という事から」
「ちっげえよ! そうじゃねぇよ!! そういう事じゃねぇよ!!!」
ヤバいな
このキララって子以上に会話できない人間かよ!!
怖いけど、なんか一周回ってちょっと可愛く見えてきたよ! 空回ってる三歳児見てるみたい!!
「確かに
あー。ごめんやっぱり普通に怖いわ。
アタシの手を離した
「だから余計に、恐ろしかったんだ。
俺にはまだ力が足りない。
よし子の力に、何も、なれていないのだという、事実に」
「あ、そこは気づいてたんだ」
いつも堂々としてっから、気づいてないんだと思ってたわ。
「しかし、このキララが。自分の良さを、改めて教えてくれた」
そう言い、
そして、彼女のその手をガッチリと握った。
「ありがとうキララ! お陰でよし子に求婚する勇気が持てた!! 本当にありがとう!!!」
彼女の手を握りながら、ブンブンと上下に振る
あっけにとられた顔をしていたキララは、段々と顔を真っ赤にしていき──
「騙したのね!!!」
そう叫んだ。
……騙した?
「そうやって、男はいっつもキララから搾取していくのっ!!」
搾取?
「キララの大事なキモチを利用して!! 酷いよ!!!」
……利用、してた? ま、まぁ、彼女がそう言うんなら、そうなんでしょ……
「最低ッ!!!」
そう叫び、キララが腕を振り上げる。
振り抜かれたキララの手は──
「フッ。残像だ」
いや、そこはビンタ受けてやれよ。
ビンタが空振りしたキララは、完全に顔を真っ赤にして
そしてガタガタとワザとらしく玄関の扉を開くと、ピシャッと閉めて出ていってしまった。
「はーーーーーーー……あの子、いっつもこんなんだよなー……」
そう、盛大なため息を漏らしたのは、
「あんな恥かいたら、バイト、辞めちゃうんじゃない?」
そうすると
「いっそ辞めてくれればいいんだけど、辞めないんだよね。次会うと、何事もなかったかのようにしてるし。
たぶん、あの子ん中で本当になかった事にして、忘れるんだと思う。
マジ怖いよ……」
……うーわー。そういうタイプか。
ある意味、羨ましいなぁ。その性質。見習いたい。
嵐が去った後のような、本当に
「……そろそろ、お昼にしよっか」
アタシも今起きた事を忘れるように、気を取り直してみんなにそう声をかけた。
***
「えー。そんな面白い事があったのー?! ボクも見たかったー!!」
縁側に座りつつ、スイカを手にした
夜の涼しい風が庭先を吹き抜けていた。少し湿り気のあるその空気は、明日雨が降る事を予感させる。
しかし、今は多少の雲が出つつも月が綺麗に輝いてた。
鈴虫の鳴き声も聞こえてくるし。
気持ちの良い夜に、我々は家の縁側に並んで座って、スイカを楽しんでいた。
「……その場にいないから面白いとか言えるんだギョリュよ」
上半身は裸、下には一応チノパンを履いた
そういえば
「今日がバイト休みで良かったわ。確かキララ、今日シフト入れてた
疲れた顔でそう愚痴るのは
「キララは何故怒っていたのだろう。俺の感謝が足りなかったのか?」
そう、キョトンとするのは
彼はスイカに
え。マジで彼女の好意に気づいてなかったん? ……って事は、アタシが毎回ウザがってたのも、本当に気づいてなかったんだな。
この子は……ハッキリ言葉にしないと、やっぱりダメなのか。
ヒュウっと、涼しい風がアタシの首を撫でる。
アタシはそれを契機にスイカを脇の皿の上に置き、ヒョイっと縁側から飛び降りて
そして、四人の前へと出て彼らの方へと向き直った。
「昨日までの数日、家を空けてごめんね。
気持ちを整理するまでの時間が欲しかったんだ」
アタシは改めて、四人へと頭を下げる。
すると
「いや……俺も、大人げない事、しちゃって。ごめん……」
「ナーシルは謝る必要はないよ。アタシの態度が大人げなかった。
ちゃんと、しないとね」
そう言って、アタシは
「今まで、ハッキリ言わずにいて、ごめん。
アタシ、腹を決めてきたよ」
少しだけ小さく息を吐く。
一度そこで言葉を止めて、四人の顔をそれぞれ見ていった。
全員が息を呑んで私の言葉に耳を傾けていたので、アタシは意を決して、口を開いた。
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