【ディスク6】嵐の渦中
「……………………………………………………は?」
彼女の言葉が脳に届いて意味が通じるまで、若干の時間が必要だった。
やっと意味が分かって、気の抜けた声が漏れてしまう。
アタシが?
家に閉じ込めてるって??
何言ってんの? この子。
ええ怖い。
薄々勘付いてたけど、この子ちょっと怖ぁーい。
「あ、あの……だからね。まずは自己紹介──」
「そうやって
「そうじゃなくて。そもそも、貴女誰──」
「ちょっと良い会社に勤めて稼いでるからって偉そうにして。ハルトきゅんは奴隷じゃないのよ?!」
「いや、別に会社は普通だし……奴隷っていうか、そもそもハルトは──」
「彼を手元に置いておきたいからって、彼を『ダメな人間なんだ』って洗脳して。それってDVっていうんだよ。知ってるんだからっ」
「待てって。まずはこっちの話を──」
「ハルトきゅん! もうこの女の言う事なんて聞かなくっていいんだよ?!
ハルトきゅんはハルトきゅんってだけで尊いし、素晴らしい人間なんだから!
ハルトきゅんは自由なんだよ!!」
「……」
一方的に猛烈に喋る彼女に困り、アタシは
しかし
──ああ、つまり、もとからこういう子なのね。はぁ〜〜〜〜〜……。
なんか面倒くさくなって、アタシは口を閉じた。
このタイプの子ってさ、会話しようとしても無意味なんだよね。知ってる。
理解させようとしても無理。
こっちの言葉は都合の良い場所しか拾わないし、曲解するし、勘違いするし、言ってない事を言ったと主張するし、意味を都合よく取り違えるし。
同じ言葉を喋ってるのに会話ができないタイプだ……
こういう子には、何も言わないのが正解。
「待ってくれ、キララ。キミは何か誤解している」
さっきまでずっと黙ったままだった
彼女に向かって、キリリとさせた
「よし子は素晴らしい女性だ。キミが言うようなヒトじゃない」
「それが洗脳なんだよ?! 目を覚ましてハルトきゅん!!」
「そんなことはないよキララ。よし子は優しい女性だ」
いや、それは
「だって監禁されてるじゃない!」
いや、監禁してねぇよ。見ろよ今を。してねぇじゃん。
暑いから窓も開けっぱなしだし、玄関も鍵かかってねぇよ。そもそも内側からは開け放題だ。靴もあるしお小遣いも渡してるしICカード乗車券もスマホも渡してるっつーの。車は運転できないけど、中古の自転車もある。さすが、運動神経はバツグンなだけあって、すぐに乗りこなせるようになって、いつもお使いとかで自転車で爆走してってるよ。
「俺は、俺の意思でこの家にいるんだ」
否定しろよ
「そう思わせるのが、この女の手口なんだよ……気づいてハルトきゅん……」
「キララ……」
あー。そういえば、冷蔵庫にスイカが半玉残ってたなー。
「キララはね。ハルトきゅんに、自分の凄いトコに気づいて欲しいの。キララはハルトきゅんの凄いトコ、沢山知ってるんだよ?」
「頭もイイし、運動神経もバツグンだし、優しいし、それに……カッコいい、し……」
「ハルトきゅんは、沢山沢山、良い所があるんだよ? あの女に、自分は価値がないんだって、才能がないんだって、ダメ人間なんだって、思い込まされてるだけなの」
ああ、だからここ半年でちょっと太ったんだな。やっぱり茜みたいに体鍛えよう。アタシは何がいいかなぁ。テコンドーとか習ってみたいなぁ。蹴りとか上手くできるようになると、なんか気持ちよさそうだよねぇ。
「そんな事ないんだからね? この家から出られないって思い込んでるの、ソレってあの女にそう思い込まされてるだけなの。逃げて、いいんだよ? こんな家から」
あれ? 待てよ?
「だから……一緒に……逃げよう? ハルトきゅん……」
「キララ……」
あー。でも
「よし子」
いや待てよ? まずは動画で少し筋トレしてみてからでもいいかもしれない。いきなり何処かに習いに行っても、身体動かないかもしれないし。
「よし子」
そういえば、筋肉芸人さんが良さげな動画をアップしててくれてたハズ。それを見てみよう。
「よし子」
最近便利だよなぁ。なんでも動画が上がってる。動きの解説動画って、やっぱり分かりやすいよなぁ。でも、普通のマニュアルも欲しい派だな、アタシは。
「よし子!!」
「え、あ、何? 話、終わった??」
聞く価値ないと思ってホントに話聞いてなかった。音としては聞いてたけど。
「俺は、決めたよ」
真剣な眼差しを、アタシはと向ける
女の子の方も、胸の前で両手をシッカリと握り込み、アタシを強い目で
アタシは二人へと身体を向け直す。
そして、彼らから次に発せられる言葉を待った。
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