【ディスク8】アタシの覚悟

「アンタたちの就籍許可申請をする事にした。戸籍を作って住民票作って健康保険に入れるようにする」

 アタシがそうハッキリ口にすると、四人はキョトンとした。


「……あ、そう、なんだギョリュね……」

 白茄子エグプが、なんとか絞り出したような声で、そう呟く。

「えっと。それが、腹を決めたって、事?」

 エルフショタスヴェンが、確認するかのように聞いてくる。

 アタシは首を横に振った。


「そうか! 戸籍を作れば、正式に結婚することも出来るな!! つまりそういう事か!!」

「違う」

 金髪王子ハルトの勘違い理解は、速攻で切り捨てた。


「じゃあ、どういう意味……?」

 少し不安げな表情をする商人息子ナーシル

 アタシはそれを、笑顔で返した。


「アンタらが自立できるように全面的に支援するって事。

 就籍許可は、日本国籍が証明できないとキツイ。見た目日本人に見えないアンタらは、許可が出にくいかもしれない。

 でも最悪、ハルト、ナーシル、スヴェンの三人はアタシが産んだとして母親として許可申請する。年齢的にはギリイケるし。

 白茄子エグプはソレが難しそうだけど、そこも弁護士に相談してなんとかするわ」

「待てよし子!!」

 そう声を上げたのは金髪王子ハルトだった。


「よし子の息子になってしまったら結婚できない!!」

「するつもりがないからね。

 アタシはアンタらと結婚しない。するつもりもない。

 でも、面倒は見る。アンタたちが独り立ち出来るまで支援する。その為の金は惜しまない」

 金髪王子ハルトの言葉を速攻で否定し、アタシは自分の考えを伝えた。


「でも……」

 金髪王子ハルトがなんとか言い募ろうとしてくる。

「俺は、よし子と一緒にいる事でしか、幸せに、なれないし、なりたくない……」

 彼にしては珍しく、小さく弱々しい声。

 アタシは少しだけ、体に力を入れた。

「自分一人を自分一人で幸せに出来ないのに、どうやってアタシと幸せになるつもりだ?」

 少しだけ厳しく、金髪王子ハルトへと言葉を向けた。

 喉を鳴らす金髪王子ハルト


「まず自分で自分を幸せに出来て、その上で誰かと一緒に更に幸せになる。それが健全な関係じゃないの?

 少なくとも、アタシはそう思うよ」

 アタシの言葉に、金髪王子ハルトは黙りこくってしまった。


「前にファミレスで言ったように、自分の気持ちは自分で解消できるようになれ。

 アタシの身体を利用するんじゃない。

 ただ、必要な支援──お金とか、立場とか、そういう今だとまだ自分ではどうにも出来ない難しい事についての支援は、さっき言ったように惜しまないよ。

 その覚悟を、してきたんだ」


 腹はくくった。

 マンションも諦める。

 ソレよりも、アタシはこの四人の方を優先する。


 正直、この半年。楽しかったよ。退屈する時間なんて一秒もなかった。

 ウザくて面倒臭くてアレだけど、情も湧いた。

 一人の人間として、この世界でも生きていけるようにしてあげたい。


「終生飼育してくれるって、事?」

 エルフショタスヴェンが、そうポツリと呟いた。

「……最後まで面倒は見るつもりだけど、基本、独り立ちさせる事が前提だよ。

 特にスヴェンは、アタシより遥かに長生きするでしょ?

 アタシがいなくなって生きるに困ったらヤバいよ」

 そう突っ込むと、エルフショタスヴェンはムゥと口をヒネった。

 彼は百歳を超えてると言っていた。知ってる筈なんだ、人間が自分より先に年老いて死ぬ事を。きっと何人かは、既に友人を見送ってるハズだよ。


「……俺は、よし子の息子には、なりたくない……」

 商人息子ナーシルが、そうボソリとこぼした。

「就籍許可は、母親以外だと本人からしか出せない。そう思うなら、自分でなんとか頑張りな。相談できる弁護士は見つけてきてある」

 ま、友達である茜のコネだけどね。

 そんなの相談できる弁護士知ってるとか、茜もかなり大変な目に遭ってきたな、さては。

 アタシの答えを聞いて、商人息子ナーシル

「はー。面倒な事って基本嫌いなんだけどなー。

 仕方ないから、やるかァー」

 そう言いつつ、伸びをした。

 何かを、決意したような顔だった。


「俺は、まぁ、今のままでもいいギョリュ。正直、よし子の家で、よし子の生活の面倒を見るので幸せだギョリュ。家事が性に合ってるんだギョリュな。

 勿論、家計を助けるために働きに出る事も必要ならするギョリュが、基本、家の事をしていたいギョリュ。

 今後、生まれてくるかもしれないよし子の子の、子育てとかも」

 子育てって。この年齢で産めるかも微妙なのに。意外と白茄子エグプは家庭的だったんだなぁ。

 裸族なのに。裸族は関係ないか。

「それで白茄子エグプが幸せならいいけど、アタシはアンタたちの気持ちに応えるつもりは、一ミクロンもないからそのつもりでね」

「分かってるギョリュ」

 白茄子エグプはそう、ははっと笑った。


「俺は……」

 金髪王子ハルトが、口を戦慄わななかせて言葉をこぼす。

「よし子の夫になりたいし、よし子の初めての男に──」

「それは無理だ。初めてじゃないからな」

「──最後の男になりたい。

 だから、よし子の息子にはなりたくないし、ナーシルやスヴェン、白茄子エグプにも、よし子は取られたくない」

 言葉を探すように、ポツリポツリと語る金髪王子ハルト

「ただ、今の俺ではやっぱり足りないのだな。俺は今、一人で幸せに、なる方法が分からない」

 ……そうかなぁ。金髪王子ハルトが一番、一人で幸せになれるタイプだと思うんだけどなぁ。

 周りに影響される事もないし、自分の考えを簡単には変えたりしないし。ってか、既に幸せな性格してると思うんだけど。

「まぁ『幸せ』って主観的な感覚だから、外から見て『幸せそう』と思っても、本人は違う事はあるし。これは本人が気づくしか方法はない。

 他人が誰かを『幸せにする』事なんて不可能なんだから。

 だから自分で見つけるしかないよ、ハルト。

 頑張りな」

 そう伝えると、金髪王子ハルトは決意したかのようなキラキラした目になった。

 うん。やっぱり彼はそういう人間だよね。


「そうと決まれば!!!」

 アタシはグッと右手で拳を作る。

「自立生活に必要な事を始めるよ!! まずは金! 何はともあれ金!! 自立に必要なのは金!!!

 就籍許可の為に弁護士に相談するから、相談料が必要! これが高いんだ! 今まで以上にアクセク働きつつ節約生活するからな!!! 覚悟しろよ!!!」

 たぶん、マンション頭金として貯めてた金は、それでほとんどが吹き飛ぶ。

 今みたいな毎月赤字生活はしてられん!!!

 商人息子ナーシルが困惑した顔で笑い、エルフショタスヴェンは『ビッシビシ倹約指導してくからねっ!』とドSに笑っていた。


「あと将来的に、ハルト以外には自動車免許とってもらうからね! 今はアタシが足をやってるけど、自分でもできるようになりな!

 その為には教習所へ通う為の金も必要!! 稼ぎ出すぞ!!!」

 これが地味にキツかったんだ。築六十年の借家とはいえ、庭付き駐車場付き戸建てを借りる為に、結構郊外に引っ込んだから。そのせいで買い物とか移動がメッチャ不便になったんだよ。

「車も、中古だと維持費がクッソ高くって節約の意味があんまりないしな! ハイブリッドカーが欲しい!!!」

 それでガソリン代とメンテ費を浮かす!!!


「何故俺は自動車免許が不要なんだ?」

 金髪王子ハルトがキョトンとした。

「お前に殺人凶器を渡すつもりはない!!!」

「俺はマニュアルがある事は完璧に出来るようになるぞ?」

「運転テクニックは上手くっても、常時秒単位でファジーに変わる交通状況に対応出来ねぇだろ!! そこが一番重要なトコじゃ!!! 毎度人いたり事故起こされたんじゃワリに合わんわ!!!」

 自転車でも若干ヒヤヒヤしてんのに!!

 なるほど、と納得した顔をする金髪王子ハルト。……あ、自覚あったんだ。


「俺は……」

白茄子エグプは節約レシピ開発ね。育ち盛り三人がいる家庭のエンゲル係数下げるの頑張って! 必要な物は全部買い揃えよう。

 冷蔵庫は大容量のものにする。中古でも省エネのヤツでいいヤツにするよ。必要なら個別で冷凍庫も増やす。

 洗濯機はドラム式に変えるわ。水道代がエゲツないから節水命。ついでに風呂水使えるヤツにする。

 掃除機は買い替えた所だけれど、トルネード式のを買い足す。ハイパワーで時間短縮させよう。

 エアコンも省エネのヤツに買い替え。扇風機も併用するよ。

 トイレとかも風呂場、水回りのヤツは節水とか他の機能あるヤツにしたいなぁ。そこは借家オーナーに相談するわ」

 そう流れるように説明すると、白茄子エグプは『助かるギョリュ』と笑顔になった。


「そうと決まれば! 明日の日曜日は生活環境を整える買い物に行くよ!!

 節約してても生活クオリティは維持しないと、コスパが悪くなるからね!

 みんな! 自立目指して頑張るぞ!!!」

 私がそう叫んで拳を天に突き上げたが、誰も賛同してくれず。

「オイ! コラ!! 声!!! あげろオラ!!!」

 アタシがすかさずそう四人へと厳しい声を向けると


「「「「自立目指して頑張るぞー」」」」

 四人が、まぁそれぞれヤル気や熱意はバラバラだったけれど、アタシと同じように拳を上へと上げた。


 明日から忙しくなるぞ!

 仕事ももっと給料アップを目指さないとな。

 でも、仕事に追われて人生を枯らせたくない! 乙女ゲームも変わらずやり続ける!!


 アタシは決意を新たにし、明日からの新しい生活を想像して──


 ……なんか既に、ちょっと疲れを感じるのだった。



『ディザイア学園』ファンディスク編  了

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