【ディスク3】合コン開催のお知らせ

「合コン?」

「そうです。居酒屋のバイト連中で仲間集めてやるんだそうですが、男の人数足りないので、ハルト殿下はいかがかな、と思いまして」

 ある日の朝ごはんのタイミングで、商人息子ナーシルが、金髪王子ハルトにそう声をかけていた。

 私は新聞を読みながら……耳はそっちにそばだてる。


「合コンとは……確か、未婚の男女の婚活パーティのようなものだな? しかし……」

 金髪王子ハルトは一瞬言い淀む。

 ……『合コン』とか『婚活』ってワード、知ってたんだ。どこでそういうワード仕入れるのかなぁ。スマホ渡してあるから自分で調べてんのかなあ。

 いや、そもそも何を見ればそのワードに辿り着くんだろ。気になる。

「俺にはよし子がいるので、婚活は出来ない」

 そう、金髪王子ハルトはキッパリと断りを入れる。

「俺もそうなんですけど……ホラ、以前、ハルト殿下が俺に忘れた財布を届けてくれたでしょう? あの時、殿下を見た子がいて。どうしても殿下にも出て欲しいと。

 俺も仲間ウチから、お前が出ないと女の子が集まらないから強制なって言われてて」

 商人息子ナーシルは渋々、という声でため息と共にそう吐き出した。

「仕事に支障が出るんで、仲間ウチとは険悪になりたくないんですよ。

 お願い出来ませんか?」

「ふむ……」

 金髪王子ハルトの考え込むかのような吐息。

「ナーシルの仕事の円滑を図る為に必要なら出よう」

「ありがとうございます、殿下」

 お。合コン出るんだ。

 なら──


 アタシはバサリと新聞を下ろし、座卓の向こう側に座っていた金髪王子ハルト商人息子ナーシルの方を見た。

「合コン用の服を用意しないとね」

 アタシは座卓に置かれた湯呑みから、ズズッと緑茶をすすってからそう言った。

 いつも二人が着てるのはリサイクルショップで購入した服だ。勿論、二人ともスタイルは無駄に抜群にいいからそれも別に悪くはないけれど。

 商人息子ナーシルはいつもTシャツ一枚にチノパン。金髪王子ハルトもTシャツにGパン。それで合コンはちょっと心配。

 ここは一つ、必殺『このマネキンの服一式ください』をやってもらわねば。


「……怒らないんだな」

 商人息子ナーシルが、少し意外そうな顔をアタシに向けてきた。

「……? 怒る要素がない」

 合コンに出る事の何処に怒る箇所が?

「よし子。これはあくまでビジネスだ。俺の心には常によし子で満たされている」

「あーハイハイ。分かってる分かってる」

 しかし、何処で『一式下さい』をやろう。セレクトショップでそれやるほどの金はない。

 ファストファッション店で出来ると理想だけど、商人息子ナーシル金髪王子ハルトではタイプが違う。


 が。


 アタシには残念ながらファッションセンスがない。自分で言うのもなんだけど、そもそも服に興味がない。服選ぶのも面倒だから、会社に行く時は常にスーツだし、普段着も同じ物を何着も持ってて着回してる。

 同僚には『ジョブズかよ』と突っ込まれた。


 二人の似合うタイプが違うのはなんとなく理解出来るけど、じゃあ何が似合うのかは分からない。

 ……よし。

「今度の休みに買いに行こう」

 行けば何かあんだろ。車で少し足を伸ばせば、大型モールがあるし。


「えー!! いいなぁ!! ボクも可愛い服が欲しいー!!」

 そこで口を横から挟んできたのはエルフショタスヴェン。座卓に手をついて少し乗り出してきていた。

「じゃあ、スヴェンのも何か買おうか」

 ついでだし、たまにはいいよな。いつも節約生活で、古着ばっかだったし。

「いらない!」

「いらないんかい」

 速攻で拒否したエルフショタスヴェンに思わずツッコミ。

「余計な事にお金使いたくないもん! そこに使うぐらいなら、ウェディングドレスにお金かけたい!」

 ウェディングドレス?! 気が早くね?!

「目一杯可愛いの着たいし!」

「いやお前が着るんかい」

 確かにエルフショタスヴェンのが似合いそうだけどさ。


 そこへ、ちょうど台所から出てきた白茄子エグプ

白茄子エグプは──」

「いらないギョリュ。極力服は着たくないギョリュ」

「だよね」

 知ってた。

「でも、下着とか靴下とか、消耗品は追加で買っておいた方がいいんじゃね?」

「……まぁ、仕方ないギョリュな」

 不満そうだなぁ……そんなに着たくないモンなのか……?


「……よし子は残酷だよなぁ」

 ふと、商人息子ナーシルがそんな言葉を漏らす。

「何が?」

 突然意味不明にディスられた為、アタシはちょっとイラッとして尋ね返した。

「俺やハルト殿下が合コン行くってのに、嫌がるそぶりも見せないんだもんな」

 ……あー。そう言う事?

「もしかして、アタシに『行かないで』とか言わせたり、合コンに対して嫌な顔して欲しくて、わざわざ朝、全員が集まるこの時間にその話したってワケか」

 そうツッコミを入れると、商人息子ナーシルがヒョイっと肩をすくめて見せた。

「いくら多夫一妻が認められてた俺の国でもさ。『誠実』である事は求められるワケよ」

 なんか今日はやけに商人息子ナーシルが突っかかってくる。

 これから出勤して朝イチに客へのプレゼンを控えてるピリピリした身としては、かなりカチンときた。


 何かがアタシの中で更にスーッと冷めていくのを感じる。

 アタシは立ち上がって身なりを整えた。

 そして、向かい側に座る商人息子ナーシルを冷静に見下ろす。

「……アタシはアンタたちに誠実に対応してるつもりだけどね? これでも。

 アタシは思わせぶりな態度は取らないし、最初からキッパリ断ってる。

 生活の面倒を見てるのは、アタシがこの世界に引っ張ってきてしまったという負い目があったから。

 合コンに行くと決めたのはお前らだ。

 アタシがアンタたちの思い通りの反応見せないからって八つ当たりしてくんな。

 お前らだって、アタシの気持ちをずっと無視し続けてんの、忘れんなよ?」

 それだけを告げて、アタシはクルリとヤツらに背中を向けた。


「よし子……マジギレ……」

 後ろから、エルフショタスヴェンのそんな声が聞こえたが無視して、そのまま会社鞄と上着を掴んで家を出て行った。

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