【ディスク2】ファミレスフィーバー
「……戸籍って、何処で買えんのかな……」
「ぶぱっ!!」
私がボソリと呟いたセリフに、向かい側に座る
「とっ……突然非合法な爆弾発言、しないでもらえるギョリュか?」
彼は、テーブルにセッティングされてる紙ナプキンを取って鼻をグシグシと拭いていた。
ここはファミレス。
外はとっぷり暮れていて、窓の外の幹線道路を走る車のランプが綺麗。
あー。外は落ち着くなぁ。家、騒がしいし。
リサイクルショップで、壊れた掃除機の代わりと、秋用のみんなの服を買った帰り。
ついでと思ってファミレスで夕食をとっていた。たまには、五人分の食事を毎日作ってくれる
ちなみに、
中古のボロい自動車に、五人がギュウギュウに詰め込まれて、クッソ暑かったなぁ。
軽自動車買いたかったけど、五人乗りできないから、泣く泣く普通の買ったし。
ああ、ホント金が飛ぶように消えてくわー……キッツイ……
「他の乙女ゲーとかもさ、現実世界持ち帰りエンドとかあって、なんか幸せになりました〜的な事が語られるけど、アレ、嘘だよね」
私は、窓の外を眺めながら、コーヒーをズズッと
「……なんでそう思うギョリュか?」
紙ナプキンでテーブルを拭いていた
ちなみに、今はちゃんと服を着てる。
イケメンだよ。声もいいし。服着てると、マジ最高なのに……語尾がアレって。残念が過ぎる。
「アンタたちが自立した生活送れないからだよ」
私はうーんと伸びをしてから、闇ジュースにキャッキャとはしゃぐ
「今は若いからいいよ? でも、今後何かあっても、アンタたち、健康保険ないから病院にかかったら
それに、仕事の選択肢も狭くてリスクエグいし。
アタシに何かあったら──アンタたちは簡単に、路頭に迷うんだよ」
テーブルに肘をついて、アタシは口をひん曲げた。
「……もう、俺たちをゲームの世界に送り返す事は、諦めたギョリュか?」
「諦め……ては、いないけれど……」
何度か、乙女ゲームを起動させて、ゲーム画面を表示するテレビに
ちなみに、ゲーム本体にも押し付けてみた。
ゲーム本体に
他にも、思いつく方法は全部試してみたけど、ダメだった。
「……アレから半年経ったし。
色々調べたよ? 健康保険入ろうにも、まずは住民票が必要。住民票を作るには戸籍が必要。戸籍を作るには……
一応、就籍許可の審判の事、調べたんだけどさ。まだ、申請してない。悩んでる。本当に戸籍や住民票作ってあげんのが、アンタたちの正解なのかなって」
ボンヤリと、ここ数ヶ月、ずっと悩んでる事が脳裏に浮かぶ。
「戸籍作るってさ。この世界に一生住み続ける覚悟をさせるって事じゃん?
それをアタシがさせるの……なんか、違う気がするんだよね。
アタシ、アンタら全員への責任を、背負う覚悟、まだないのかもしれない」
言いながら、思う。
かもしれない、じゃない。
ないよ。
あるワケねぇ。
「……あるワケねぇよ?!
なんで別に好きでもへったくれもない、ただ顔が良いだけの男四人の責任をアタシが負わなきゃならんねん!!
コレが犬猫なら、喜んで終生飼育の覚悟決めるけどさ! コイツら犬猫じゃないし! 立派な成人男性だし!!
顔が良くても愛玩動物になりゃしねぇ!!」
「よし子、落ち着くギョリュ! 心の絶叫が外に漏れてるギョリュ!」
「コレが落ち着いていられるかァ?! アタシが汗水垂らして稼いで、頑張って貯めてたマンション購入の為の軍資金が、恐ろしい速度で減ってくんだぞ?!
一応責任感じて養ってるけど、もうちょっとそろそろ限界が近いっつーか、なんかもう全部どうでも良くなって全員家から叩き出したくなるんだよ!」
「いや、既に六回程叩き出されたギョリュ」
「一ヶ月に一回のペースだ! 我慢しろ!!」
「確かにちょっと慣れてきたギョリュ」
「なんでこうなった?! ただ乙女ゲームで癒されたかっただけなのにッ?!」
思わず立ち上がって絶叫してしまった瞬間──
その身体をフワリと誰かに抱き締められた。
「よし子。可哀想に……疲れてるんだね。大丈夫。俺はここにいるよ」
「……お前がその疲れの大元だハルト。
それに、勝手に体に触るなと何度言ったら理解すんだよ」
抱き締めてきた
「よし子への愛が溢れてて。それを押し留めるには、よし子を抱き締めるしかないんだ」
「お前の気持ちはお前ん中だけで解決しろ。アタシの身体を使って解消すんじゃねぇよ。指切り落とすぞ」
「ははっ。照れる顔も可愛いね」
「会話できない上に完全なるセクハラ思考ッ……! マジ胃が溶けるッ……!!」
アタシと
それを、ベリッと剥がしてくれたのは
「ハルト殿下。いい加減にしないと、ホントに指切り落とされますよ」
一応、王太子だった
つか、唯一マトモに対応してくれる
「多夫一妻なんだから、ちゃんと順番は守ってくださらないと。曜日的には、今日は俺です」
……ああ、一瞬でも
「む? でも、この国は一夫一婦制だろう? 多夫一妻は無理なんじゃないか?」
「どうせ俺たちには戸籍がありません。結婚制度も利用しない。なら、事実婚でいいでしょう」
「なるほど!」
そう、
そういうトコだけこの国について詳しくなってんじゃねぇよ……ッ!!
「えー! ボクは嫌! よし子を独占したーい! アホ王子とよし子を共有なんかしたくなーい! 自分好みに調教したーい!」
「……スヴェン……そういう事はファミレスで声高々に言うモンじゃないギョリュ……」
プリプリ怒る
「裸族にそんな事言われたくなーい」
「裸族じゃないギョリュ! 裸族とは、服を着る習慣が
ああもうやめて。イケメンイケボでアホみたいな
確かに最初に叫び出したのはアタシだけど。
今は
ああもうッ!!
「いー加減にしろやお前らァ!!!」
アタシが机を叩いて四人を鎮めたが。
「お客様。お食事がお済みでしたら、とっとと──ご退店いただけませんか?」
このファミレスの店長と思しき初老の男性が、額にこれでもかってほどの青筋を浮かせ、引き攣った笑顔を顔に貼り付け伝票をアタシに向かってヒラつかせていた。
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