『ディザイア学園』ファンディスク編
【ディスク1】それぞれの日常
ボカンッ!!!
家の片隅から、何かが爆発したかのような音が響き、家の
自分の部屋で仕事をしていたアタシは、部屋を飛び出して音のした方へと走って行った。
音の出所と
「今度は何したハルトォ!!」
誰の仕業、などと考えるまでもなく、アタシは犯人の名前を叫ぶ。
すると煙の向こうから、変な場所に穴が開いた掃除機を引きずりながら、
「爆弾が仕込まれていたようだ」
頭から
「掃除機に爆弾なんか仕込まれてるワケねぇだろ!! 何吸い込んだんだよ!」
「何も。ただ、
「ただ使っただけで掃除機爆発させるとか! どういう方向に才能使ってんだよ! お前、ゲームじゃ成績優秀、運動神経抜群の学園生徒会長だったんだろ?! お前の学園大丈夫だったんかッ?!」
「勉強は出来た。スポーツも問題ない。教科書やマニュアルがあるものを、その通りに再現させる事など。フッ。
「無駄才能!! マニュアルない事は1mmも出来ないって事か! カッコつけて言う事じゃねぇよ?!」
「そんなに褒められると……照れるな」
「褒めてねぇ!!」
疲れる!
よくある『同棲すると
「……ただでさえさ、お前らの為に築六十年の借家に引っ越して結構な金額飛んでったのによ……掃除機買い替えなきゃいけないのか……勘弁しろよ……」
アタシは、本気で頭痛を感じて額を押さえる。
そんなアタシにスッと近寄ってきた
「愛があれば……大丈夫だよ、よし子」
そう優しい声と共にフンワリと両手を広げ、アタシを優しく抱きしめ──
ようとしたので、その顎をガッと掴んで動きを止めさせる。
「愛で腹が膨れるかッ……ウチのエンゲル係数爆上げしてる育ち盛りのクセによォ……」
「愛ぎゃ
ちょっと涙目になってきていたので、アタシは
「今の音は何だギョリュ?」
二階から洗濯カゴを抱えて降りてきたのは、流れるような
彼は慌てた様子で──
「
アタシは、全裸で洗濯カゴで局部を隠す
「洗濯機を回すついでに着てた服も洗濯したギョリュ。大丈夫。誰も見てないギョリュ」
「見てても誰もツッコめないだろうがッ!! 築六十年の家のベランダで、全裸のマッチョが洗濯物干してるとか!! 回覧板の順番飛ばされたらお前のせいだぞ!!!」
「服は着る習慣がないから落ち着かないギョリュ」
「せめてパンツ
「よし子が買ってきたのはボクサーパンツってヤツだギョリュ。あの締め付けは嫌いだギョリュ」
「じゃあトランクス買って来るから、それまでボクサーで我慢しろ!!」
「仕方ないギョリュね」
そう呟いて洗濯カゴをそこに置き、渋々といった顔で
なんで……私が妥協してもらった感じにならなきゃいけないんだよ……なんか凄ぇ納得いかない。
「よし子ー。大丈夫ー?」
そう、縁側の開いた窓から顔を出したのは、とんがった耳に黄緑の髪を三つ編みにした、可愛らしい十五・六歳の少年の姿をしたエルフのスヴェンだった。
泥だらけの軍手を外して、よっこいしょと縁側へと腰掛ける。
「ダイジョウブじゃない……高血圧で
私は一気に疲れを感じて、大きくため息をつく。
「ホラ。今、家庭菜園からキュウリとナス、トマト収穫したよ! コレ食べて元気出して?」
「お言葉に甘えて……ありがとう、スヴェン」
私は
そしてそれに思いっきり
「……何?」
「何でもないっ。早く。早く食べて。ホラ。もっと大きく口開けて。それでそのキュウリに思いっきりムシャぶりついて」
「……」
アタシは食欲をゼロにされ、キュウリをザルへと戻した。
「なんで食べてくれないの? ボクの、キュウリ。頑張って作ったのに」
「今更キュルンと
「アレ? バレた? うーん。やっぱり顔に出ちゃうね。未経験だからこそかなぁ。ドキドキしちゃうんだよね」
「……」
見た目少年だけど、中身オッサンかよ……
ホント、胃が痛い……
「美味しそうな野菜だな! 俺も一つ頂こう!!」
そう言って、
「ハルト! ハルトはお金払って! 一個百円!!」
ムーっと頬を膨らませた
「何?! 俺から金を取るのか?!」
「当たり前でしょ?! 家庭菜園で頑張って作ってるのはボクだよ?! 対価は必要でしょ?!」
「よし子からは取らないのに?!」
「よし子は日々、ボクたちの為に社畜として神経すり減らして社会に踏み潰されてグチャグチャにされてくれてるからいいのっ!!」
……言い方……。
「それに! そんな感じで毎日疲弊した顔を見せてくれるから、ボクはそれで満足なの!」
ドSかよ
「俺だって頑張ってるぞ!」
「掃除機爆発させた人が何言ってんの?! 頑張った事が評価されんのは幼児までだよ?! 結果で示しなよ! ハルトは幼児なの?!」
「俺は立派な十八歳児だぞ!」
「十八歳児って! 自分で言ってて恥ずかしくないの?!」
言い合いを始めてしまった
しかし、止めに入るほどの気力がもうない。
アタシは頭を抱えて自分の膝へと顔を埋めた。
「あーハイハイそこまでー」
二人の言い合いを止めたのは、もう一人の声だった。
銀髪を緩く結んで肩に流し、褐色の肌に少し垂れ目のチャラそうな雰囲気をさせた大商人の息子──ナーシル。
「今日は深夜バイトあるから、昼間は寝させてくれよ。部屋まで声聞こえてきてたわ。ウルサイよ」
二人の近づいていた顔をガッと引き離し、
「あー! ナーシル! 一個二百円!!」
「地味に値上げすんなよ……」
「毎度ありー♪」
受け取った
「スヴェン……ナーシルから金取るの止めなよ。役立たずのハルトと違って、ナーシルは居酒屋とコンビニバイトで稼いでくれてるんだから」
「サラリと俺へのディスりを混ぜたよし子。好きだ。愛してる」
「しかも、結構な金額だよ? せめてまけてあげて」
「無視も可憐で素敵だよ、よし子」
「でもー。僕も男の
「勿論、それも感謝してる。家庭菜園やってくれてるし、家計簿の計算までしてくれて。ホントありがとう、スヴェン」
「えへへ」
「……殿下を無視すんの、可哀想だから、それぐらいにしてやってくんないかな……」
アタシと
それで顔を上げるが、
むしろ通用してくれよ……なんでホント何も出来ないのに、そんなにへこたれないのか意味分からんて。
さっき掃除機爆発させたの、もう忘れた?
アレ片付けんの……面倒臭いなぁ……
もう、勘弁してくれよ……
私は再度、頭を抱えて自分の膝に突っ伏した。
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