【イベント5】エンディング
気がつくと、リビングのテーブルに突っ伏していた。
先程まで取り込まれていた乙女ゲームの、普通のスタート画面がテレビに大写しになっていた。
「戻って──来れた?」
アタシは周りをキョロキョロして状況を伺う。
ここは確かにアタシの部屋だ。本当の、現実の、アタシの部屋。築二十年、若干ちょっと古びて来た、それでも居心地の良い1LDKのアパートの一室。
慌ててテーブルの上にあったスマホを手にして日付と時間を確認した。
ゲームのスイッチを入れた時間から、一分程しか経過していなかった。
──あれは、夢だったの?
まぁ、夢でもなんでも構わない。
ここが現実の世界であるのならそれで充分。
良かった、これで寝たら明日からまた仕事──日常に戻れる。
ホント、変な夢を見てたよなぁ。
ド忙しい仕事してんのに、平日夜に乙女ゲームなんてするもんじゃないなー。悪夢だった。
なんかホント疲れたわ。物理的に疲れたわ。喉がツッコミ倒した時みたいに枯れてる気がするけど気のせいだ。空気乾燥してんのかな?
気のせい気のせい。だって一分しか経ってないし。
私はゲームのスイッチをOFFにしてテレビを消す。
リビングの電気も消して寝室の扉を開けた。
真っ暗な寝室の灯りはつけずそのまま、疲れてダルい身体をベッドに投げた。
贅沢だとは思ったけど、奮発して買ったダブルベッドに。
ホントは犬猫飼って一緒に寝たかったから奮発したんだけど、平日十数時間家を空けるし、その間狭い1LDKの家に押し込めるのも可哀想だなぁと思って飼わなかった。
……でも、ペット、欲しいなぁ。癒されたいなぁ。
乙女ゲームでも精神的に多少癒されるけど、やっぱり物理の温もりが欲しいし……
いや。私の個人的なそんな我儘で、命を気軽に扱うワケにはイカンしな。我慢しよ。
横になると、自然と瞼が重くなってくる。アタシはそのまま目を瞑って、今までの夢を全部忘れようとして──
「今日が記念すべき初夜だギョリュね。流石に少し緊張するギョリュ」
物凄く変な語尾の渋くてダンディな声がすぐ側から聞こえた。
「ぎゃあああああ!」
思わず私は身体を捻ってその声のした方から離れる。ベッドから見事、転げ落ちた。
「なっ……何?!」
ベッドの
薄暗い寝室に、確かに異様な存在感を放つソレになんとか目を凝らした。
「なんで?! なんでここに居るの?!」
よーく見ると、ベッドに肘をついて優雅に横になる全裸の元・
なんなんだよその姿! マジでそんなローマ彫刻見た事ある気がするぞ!! そうそう、ちょうどピンポイントな所はシーツで隠して──って、違う!!
「あれは夢だ!! 夢だったんだ!! 夢であってくれよなんでだよォ!!」
アタシはバンバンとベッドを叩いて抗議する。
しかし、全く気にしてないような素振りで、元・
無駄な絵になる姿だな、オイ。
「夢じゃないギョリュ。ほら、俺は確かにここに存在してるギョリュよ」
なんか乙女ゲームでよく聞くワードを、そのイケボと残念語尾で甘く囁いた元・
たので、その手を
「なんでここにいるんだよ
ここは現実世界だよね?!
世知辛い二十一世紀日本だよね?!
間違いないよね?!」
「間違いないギョリュ。令和の日本の、よし子の小汚いアパートの寝室だギョリュ」
「微妙に言い返しにくいディスり方すんな! 古いけど綺麗にしとるわ!!」
「一人暮らしなのにダブルベッドなのは、俺の為に用意したギョリュか?」
「そんなワケねぇだろ!!」
「照れる必要ないギョリュ」
「照れてねェ!!」
これは! 間違いない! あの!
なのにここはアタシの家。
どういう事?!
「ここが現実だとして! じゃあなんでアンタがここにいんだよ?!」
「そりゃ、お前がクリアしたのが、隠しキャラ攻略の『全員お持ち帰りエンド』だったからだギョリュ」
「え」
今、何か、不穏なワードが聞こえたぞ?
全員お持ち帰りエンドって言った?
その瞬間、パチリと寝室の灯りがつけられた。
「全員穴兄弟になるのはこの際仕方ない。次は俺だから。体力は残しといてくれると嬉しい」
寝室の入り口の所──電灯のスイッチの所には、キラリと白い歯列を覗かせて笑う金髪碧眼の若造がいた。
「穴兄弟とか言うなよ。ま、俺の国だと一夫多妻、多夫一妻、多夫多妻当たり前だったし。俺も全然構わないんだけとさ」
寝室の隅には、銀髪褐色垂れ目の男が。
「あ……あの、ボクは歳は百歳超えてるんだけど、初めてなので優しくしてくれると嬉しいな……」
その横に、線の細い耳のとんがった一見美少女のような少年が佇んでいた。
「良かったギョリュな。これで、乙女ゲーム愛好家の夢が叶ったギョリュよ。二次元から三次元への、全員お持ち帰りエンドだギョリュ。男は選びたい放題、曜日ごとに担当決めするギョリュか?」
ベッドから全裸姿のまま起き上がって、その均整のとれた筋肉と、さっきまで折角隠されていたそれ以外を惜しげもなく披露する元・
アタシはさっきまで口をパクパクさせていたが、なんとか腰に力を入れて立ち上がる。
そして
「全員願い下げじゃ!! ゲームの世界に帰れッ!!!」
そう、全身全霊の力をこめて、その場にいる全員にそう怒鳴りつけるのだった。
『ディザイア学園』編 了
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