【イベント4】ザマァイベント
「さてと」
王宮の中を歩きながら、アタシはとある場所を目指していた。
途中、侍女や衛兵に見つかったりしたけれど、それは想定内。
それに、
「現時点で処刑も追放も実施前のアタシはまだ伯爵令嬢。そのアタシに気安く手を触れようと?」
と、ハッタリかましたら逃げてった。
みんなメンタル弱ェなぁ。
勿論それを流すはずもなく、正座させて説教してんのに、
ただ、アタシも最近慣れてきて、
そんな事を考えていたら、いつの間にか目的の場所に辿り着いていた。
それは、細かい細工の入った重厚な扉の前。
さてどうしたもんか。
アタシなんぞに蹴破れるとは思えない。
テコンドーを習い始めたと言ってもまだ全然だし。板割るぐらいの蹴りの鋭さは身についたけど、こういう蹴破り系は体重が物を言うからなぁ。
うーん。王弟殿下を置いてきてしまったのは失敗だったかなぁ。結構ガタイが良かったから、彼ならこの扉蹴破れたかも。
でもなぁ。
正直、あの手の男はお腹いっぱいなんだよなぁ。顔面偏差値天元突破イケメンは家にゴロゴロしてるし、自分に酔ってるあの感じがまたなんとも気持ち悪い。
どうでもいいけど、画面越しで見ると全然平気なのに、三次元でリアルに鑑賞すると、胸焼けしそうになるのはなんでなのかなぁ。
本来、イケメンに囲まれてるって幸せな事だと思うんだけど。見慣れちゃったから、中身のアラに目が向くんかなぁ。
三次元で考えると、攻略対象キャラたちってクセが強すぎて……ああ、なるほどな? 見た目の方じゃなくって、性格の方に胸焼けしてんのか。今気づいたわ。
……ホントどうでも良かったそんな事。
とにかく、自分で出来る事をしないとな。
まずは取り敢えず、ドアノブをそっと手にしてゆっくりと回す。
まぁ当然鍵がかかって──
……なかった。
なんて無用心。
まぁ、アタシにとっては好都合。
どうせ人払いだけして、
アタシはゆっくりと音がしないように扉を開けて、その中へと滑り込む。
そして、何やら音がする方へとスタスタと歩いて行った。
そしたら。
やっぱり。思った通り。
王太子殿下の寝室のベッドの上で、なんか盛り上がってる二人がいた。
「ちょいとゴメンね。邪魔するよ」
声をかけないと気がつかれなさそうだったから、結構大声で二人に声をかける。
すると
「うわぁ!」
「きゃああああ!」
プラチナ王子がベッドから転がり落ち、その下にいた黒髪の女の子がシーツを引き上げて身体を隠した。
「これからって時にゴメンね。確認しときたい事があってさ」
アタシは仁王立ちして腕組みして問いかける。
ヨロヨロとベッドに手をかけて起き上がったプラチナ王子は、顔を真っ赤にして口をパクパクしていた。
「伯爵令嬢との婚約は政略結婚。アンタはさ、それを
「わっ……分かってる! この少女は清らかなる聖女! 聖女を未来の国母にする事は、伯爵家と手を切る事と比較できないほど重要な事だ!」
やっと声が出るようになったのか、アタシの言葉に反論してくるプラチナ王子。
「清らかな聖女様ねぇ……」
アタシはチラリと、ベッドの上の少女を見た。
「まぁ、アンタがそう言うならそうなんでしょうよ。そこについて、アタシがわざわざ
誰が何人と寝てようと、それはそいつらの問題であって、アタシには関係ないしね。
そう、アタシには、関係ないんだ。
「それより! どうやって地下牢から出た?! 衛兵は何をしている! と、とにかく出て行け!」
王太子はベッドの脇に姿を消してなんかモゾモゾやってる。ああ、服着てるのか。
「うん。出てくよ。大丈夫、すぐ迎えが来るだろうから」
アタシはニッコリと笑ってプラチナ王子と黒髪少女に視線を這わせた。
アタシの言葉通り、離れた場所からバタバタという複数の足音が聞こえてくる。
その音を聞きつつ、アタシはポケットから煙草を取り出して火をつけた。
「王太子殿下! ご無事ですか?! 今ペイシェント伯爵令嬢が──」
その足音の主達が、部屋へと入ってきてアタシの後ろへと辿り着く。
「ジャストタイミングじゃん。さすが、騎士団長息子と宰相息子だね」
アタシは、深く吸い込んだ煙を吐き出しつつ、その足音の主達に声をかけた。
赤毛騎士と眼鏡インテリたちは、アタシ──のその先に居る、半裸のプラチナ王子とシーツに包まる黒髪少女を凝視していた。
彼らの顔が
あー、やっぱりぃ? こういうシチュエーションにご対面すると、怒りよりまずショックよね?
分かる分かる。アタシも過去、浮気野郎の浮気現場に出くわした事あるし。
あの野郎、アタシが仕事忙しいのにかこつけて、アタシの家に浮気相手連れ込んでやがった。
帰れないかと思ってた所、なんとか終電に滑り込めたので、重い体を引きずって家についてみりゃよ。まさに真っ最中で。
──ああ見たくもないモン見せられたわ。
しかも野郎、アタシのベッドで致してやがったし。
速攻で全寝具捨てたったわ。
嫌な事を思い出し、アタシの
アタシはその感情のまま口を開いた。
「あーあ。残念だったね。アンタたちが心を寄せて大切にしていた清楚可憐な聖女様は、とうとう王子のお手つきになっちゃった。
……ま、これが初めてなのかどうかは、知らないけどね?
将来どんな約束してたか知らないけどさ、その約束、これでも果たされるのかなぁ? どうなんだろう」
その時、その言葉を発した時のアタシは、さぞかし底意地の悪い、凶悪な顔をしていただろうな。
その筈よ。だっておもっクソ悪意が
──ああやっぱアタシって、狂ってんのかも。
まぁ、こちとら無駄に顔がいいのに戸籍もない四人の成人男性の面倒を、この細腕一本でみてんだよ。生活全般、他必要な物全部与えて養ってんだよ。
好きでもなく、可愛くもへったくれもない奴らをな。
狂わないと生きていけない。
これはどういう事だと、黒髪少女やプラチナ王子に詰め寄る二人と、少女の悲鳴のような言い訳と、プラチナ王子の開き直った
後から到着した衛兵や侍女たちも右往左往。
アタシはその隙に、ベッド脇に打ち捨てられていた聖女様の洋服の胸元から、大きな深紅の宝石を盗み取る。
そして、こっそりと部屋から出て行った。
そうそう、コレこれ。
これさえあれば──
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