第10話
3. やってきた冬
やがて風が冷たくなって、ある日雪が降った。私と黒ちゃんは綺麗だねって喜んでたけど、冬を越した大人達は、挨拶して南と北に分かれて行ったの。
私たちは中程さんと一緒に南に向かった。
「どうして二つに分かれるの?北に行く人はどこへ行くの」
私が聞くと、中程さんはこう言った。
「あの人達はパートナーを見つけられなかったんだ。だから、生まれたところへ帰るんだよ。さぁ、僕の中に入って。冬は長い、冬は満月が6回もあるから、たくさんお話ししようね」
私が上、黒ちゃんが下になって、その上に中程さんが逆さになって覆い被さった。
中は窮屈だけど、とっても暖かかった。外でシンシンと雪が降っていても、私たちは守られて安全だった。
初めの満月は夏の思い出話ですぎた。外は見えなかったけど、だんだん積もる雪の冷たい影が中程さんの下の方から上がっていくのが分かった。
二番目の満月が過ぎる頃、中程さんはため息をつくようになった。
「北の方でまた星が生まれた。みんな天に帰っていく。おや、あれは紅か?」
紅さんは中程さんと同じ年に生まれた大人のカップで、冬の初めに北に向かって歩いて行った人だった。パートナーを見つけることができなかったから。
「お別れを言いにきたの。あなたは私たちを作った人の名前と、生まれる前の記憶を探し回っていたわね。あの人の名前は忘れてしまったけど、生まれる前の記憶を一つだけ思い出したから。
『人はただ歩き回る影法師、哀れな役者だ。出番の時だけ舞台の上で見栄を切って喚いてる。そして後は消えてなくなる』思い出したのは、それだけ。
そして私は一人で死んでいく役なのね」そういうと、紅さんは消えてしまったの。
中程さんはため息をついて、涙が一筋カップの内側を流れて落ちていった。
「紅さんどうしたの?」
静かになった訳がわからなくて、私が聞くと中程さんは答えた。
「紅は北の山で死んだ。カップは、冬の冷たさに耐えられないと割れてしまうんだ」
「紅さんお星様になったの?」
私が聞くと、中程さんが取っ手を回してうなずいた。
「そうだよ。生まれたところへ帰ったのさ。あれは紅の影だよ。体を残して、心だけで最後に会いに来てくれたんだ」
そうしているうちに、もう雪はどんどん降り積もって、三番目の満月が過ぎた頃、中程さんは完全に雪で埋まり、中は真っ暗になった。
4. 中程さんの昔話
「ねえ、中程さん何かお話ししてよ。そうだ、紅さんの言ってた生まれる前の記憶って何のこと? どうしてそんなこと調べてたの」
退屈した私はそう言って中程さんに頼んだの。
「二人とも産まれた時のこと覚えてるかい。たくさん泣いただろう? 僕たちを作ってくれた、大好きなあの人とのお別れだったから」
「覚えてる! 産まれた時、あの人とのお別れが嫌で俺もすごく泣いたんだ。
そうしたら中程さんが見つけてくれた。
でもさぁ、不思議なんだ。紅さんも言ってたけど、あの人の名前忘れちゃって思い出せないんだよ」黒ちゃんが言った。
「黒ちゃんもなの?私もよ。あんなに大好きだったのになんで忘れちゃったのかな」
「みんなそうなんだよ、誰もあの人の名前を覚えていない。きっと覚えていたらあの人の事ばかり考えて、他の何も見えなくなってしまうからなんだろうね。でも、二つの同じ心を持つものが、心を合わせて名前を呼べば、どんな願いも叶えてくれると言われているんだ。
心は二つに割れることも、二つが一つとなることもできるんだ。不思議だよね」
「名前もわかんないのに、どうやって呼ぶのさぁ?」
黒ちゃんが聞くと、中程さんは答えた。
「二つの心が完全に一つになった時、名前を思い出せると言われている。でも、正しい願いじゃないと叶えてくれないんだそうだよ。そして願いを叶えたものはまだ誰もいない。僕も紅と何度もやってみたけどダメだった」
「正しい願いって何?」
私が聞くと、中程さんは暫く考えてこう言った。
「我々はどこから来たのか、我々は何者か。我々はどこへ行くのか」
「なんだよ、ナゾナゾか?さっぱりわかんねえ」
黒ちゃんは、体を半分回して怒ってしまった。
「僕にもわからない。でもこの事を考えると、必ずいつもこの言葉が心に浮かぶ。きっと大事なことなんだと思う。君たちはどう? 思い出せるかい」
中程さんが期待しているのはわかったけど……。
「だめ、全然覚えてない」私はそう言うしかなかった。
「俺もだめだな」黒ちゃんがうなった。
「でも叶えてもらうお願いは沢山あるぞ。まず冬はナシにして、いつでも夏だけにしてもらう。こんな窮屈なの俺もう飽きたよ! それでお月様がいつも満月になりますように。そうしたら夜もずっと踊れるからいいぞ。それからもっと上手く踊れるようになって……」
それからはみんなで、ずっとお願いを言い合って過ごしたわ。
四回目の満月が来た頃、黒ちゃんが去年の冬の話を聞きたがった。冬には飽き飽きして、いつ終わるのか知りたかったからだと思う。
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