第45話 昔の出会い

 翌日の午前に、ソフト会社のロビーで鈴木さんに会った。年配の60歳くらいで白髪頭の年相応な感じにみえる。年齢が離れていて最初は緊張したけれど、気さくな人とわかって話しやすかった。


「佐野君から聞いていると思います。ナクユが舞台のオンラインゲームです。この会社で開発していると聞きました。いくつか教えてほしい内容があります」

 私から話を切り出した。

「公にできない部分もあるね。でも話せる範囲で答えるよ」


「オンラインゲームの概要を教えて頂けますか」

「電脳パズル空間ナクユが正式名称で、パズルを解いて自由に楽しむゲームでね。20年以上前に偶然発見した技術を応用したゲームだ。何の技術かは企業秘密だよ。詳細の説明は勘弁してほしい」


「私の元にナクユのジュエリーが届きましたが、誰が送ったかわかりますか」

「佐野君に聞いたので調べたけれど、宝石を送った名簿に並戸さんの名前はなかったよ。宝石を持っていたら見せてほしい」


 鞄からナクユのジュエリーを取り出してテーブルの上に置いた。鈴木さんはナクユのジュエリーを手にとって、裏側や光に透かして確認している。調べ終わったみたいで、ノートパソコンのキーボードを叩き始めた。


「シリアル番号が書いてあって誰の持ち物かわかる。安藤さんに渡した宝石だよ」

「もしかしてパズルクリエーターの安藤先生ですか」

 思わず聞き返した。


「よく知っているね。パズルの監修をしてもらっている、安藤さんで間違いない」

「どうして私が持っているのかな。安藤先生とはほとんど面識がないです」

「備考欄に何か書いてあるね。安藤さんから連絡があったようで、参加者を並戸さんに変更したみたいだよ」


 ナクユと安藤先生が繋がった。私が考えた漢字のオリジナルパズルを安藤先生が出題したのは、安藤先生が佐野君の作成支援ソフトをみた可能性が大きい。綾音ちゃんに話せば安藤先生に会えるかもしれない。


「安藤先生の知り合いがいますので、私から聞いてみます。次の質問になります。ナクユで私はパズルを解きましたが、特別な課題とは何ですか」

「ナクユは子供しか遊べないから、大人も遊べるようにパズルを作ったね。それが特別な課題になるよ。開発関連者の大人に試してもらっているけれど、プログラムを調整中で全ての大人は入れない。残念ながら私も入れなかったよ」


「襲われて危険な場面もありました。ヲンや鎖も演出ですか」

 襲われたと聞いて鈴木さんは首をかしげた。鈴木さんはノートパソコンに何かを打ち込んで数分間調べていた。操作が終わると私へ視線を向ける。


「大前提として人間を襲わない設計になっているよ。調べたけれど該当するキャラクター名はなかったね。もっと詳しく教えてほしい」

「ナクユのキャラクターと異なったのは2種類いました。七色に変化する球体と暗黒の空間です。アイとヲンと呼び合っていました。姿は――」

 言葉の塔で起こった事件は話さずに、アイとヲンのみを説明した。


「アイはナクユを管理するAIだね。ナクユでルールの管理やバグの排除をおこなっている。ヲンはナクユにはいないけれど、開発中のAIがヲンという名前だね。あとで開発担当者に聞いてみるよ」


「アイはナクユを管理しているのですね。教えてください。アイが管理する上で次の変更は可能ですか」

 イメージを紙に書いて鈴木さんへ説明する。鈴木さんは理解してくれて、開発担当者へ伝えると約束してくれた。開発中のヲンが重要な鍵を握っている。開発担当者から回答が来るまで進捗は無理みたい。残りの不明点は安藤先生に聞くしかない。


 もうひとつだけ確認したかった。

「シリアル番号で誰の持ち物かわかると聞きました。逆に名前からナクユへ来たかを調査できますか」

「フルネームがわかれば調べられるよ」


「知り合いが20年前に遊んでいました。名前は黒木桐頼です」

 鈴木さんは画面に目を向けて、すぐに調べてくれた。

「名前があったよ。最初のβ版だね」


「仕事関係の人でナクユのジュエリーを持っていました。実際に来て遊んでいたのですね。黒木さんの話は本当だとわかりました。疑問のひとつが解決できました」

 聞きたい質問は全て終わったので、次は綾音ちゃんに安藤先生と会えないかお願いする。鈴木さんはノートパソコンを閉じたから、私のほうに顔を向けた。


「私からもひとつ聞きたい質問があってね。並戸さんの両親を教えてほしい」

 唐突な内容で、面接でもないのに両親に関する質問だった。鈴木さんはいろいろと教えてくれて、話しても何か減るわけでもない。

「私の両親ですが――」


 驚く事実がわかった。鈴木さんが両親を知っていた。行方不明前に勤めていた会社で、そのときの上司が鈴木さんだったみたい。

「懐かしい話が聞けたよ」


「両親を知っている人に会えて嬉しいです。小さい頃でうろ覚えですが、違う会社名の気がしました。鈴木さんは転職したのですか」

「数年前に社名が変わってね。今と同じ会社だよ。先ほど話したヲンの原型は並戸さんの両親が開発していた。娘さんと一緒にパズルで遊びたいと話していたよ」

「両親はナクユと関係があったのですね。私も一緒に遊びたかったです」


 両親の話しをいろいろと聞いて、小さい頃の記憶と重ね合わせた。話が膨らんで予定の時間を大幅に過ぎた。鈴木さんにお礼を言ってソフト会社をあとにする。

 家に帰ると綾音ちゃんへ連絡を入れて、佐野君と鈴木さんとの内容を話した。安藤先生と会えるように設定をお願いすると、快く引き受けてくれた。


 ロクヨちゃんにも鈴木さんとの内容を話した。黒木さんが昔来ていたことも本当だと説明した。ナクユでの新情報はなくて、キリリキくんに何かあったとの噂もなかった。一歩だけ前進して、少しだけキリリキくんに近づけた感じがする。

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