第46話 救出作戦
鈴木さんと会った数日後に東京都内で綾音ちゃんと合流して、安藤先生と約束した喫茶店へ向かう。安藤先生に直接会うのは初めてで、私が来るのを安藤先生には告げていない。理由をつけて来ない可能性をなくしたかった。
喫茶店に到着して私が名乗ると、安藤先生が一瞬驚いた表情を見せた。でもすぐに元の表情に戻る。簡単な自己紹介が終わってみると、安藤先生は私を知っていた。若手四天王だから覚えていたのかもしれない。
本来はパズルの話題で盛り上がるメンバーだったけれど、今日はすぐに本題から入った。私はナクユについて聞く。
「ナクユを舞台にしたオンラインゲームがあります。パズルで遊べる世界ですが、安藤先生がパズルを監修していると聞きました」
「最近は忙しくて詳しく覚えていないが、家に戻って調べればわかる。ゲームは滅多にやらないが、まさか監修したかを聞くために俺を呼んだのかい」
安藤先生は淡々と答えている。
「だます形となり申し訳ありませんが、私には大事な内容です。ナクユは子供がパズルで遊ぶ世界でいろいろなパズルがあります。パズルの監修を安藤先生がしているとソフト会社の人から聞きました。必要があれば契約書の取り寄せも可能です」
意図的に強気な姿勢に出た。キリリキくんがかかっているから、相手が安藤先生でも妥協はできない。
「今の話しで思い出した。オンラインゲームの名前はうろ覚えだった。監修とは名ばかりで目を通すだけの簡単な仕事で忘れていた」
安藤先生は明らかにナクユを避けている。オンラインゲームの監修は別に悪い仕事ではない。私にナクユのジュエリーを送ったので隠しているのかもしれない。パズルと同様に理詰めが必要だった。
「私の家にナクユのジュエリーが送られてソフト会社の人に聞きましたら、安藤先生に渡した宝石だそうです。宝石固有のシリアル番号で確認しました」
ナクユのジュエリーをテーブルの上に置いて、安藤先生を見つめた。
「以前わたしは安藤先生から聞きました。宝石でパズルの世界に行ける話しです。その世界がナクユと思っています」
綾音ちゃんの援護射撃は心強かった。安藤先生は目を逸らして、そのまま首をかしげた。ナクユのジュエリーをじっと見つめている。ただ何も話そうとしない。
「安藤先生が発表した漢字のオリジナルパズルを見ましたが、私が考えたパズルと同じでした。知り合いの手違いでナクユで作成支援ソフトが使われました。ナクユのパズルを参考にしたのですか。ソフト会社に頼めばログインの履歴を確認できます」
再度安藤先生を見つめた。キリリキくんを早く助けたいから一歩も引けない。安藤先生が顔を向けてくれたけれど、目が泳いでいて視線が定まっていない。急に安藤先生はテーブルに両手をおいて、テーブルに額がつくほど頭を下げた。
「ほんの出来心だった。最近はオリジナルパズルが思い浮かばなかった。よさそうなパズルを目にして思わず借用した。申し訳ない」
「安藤先生ほどの人が信じられません。私は半信半疑でした。ほかのパズルも流用しているのですか」
「俺は昔パズルを作るのが遅くて締め切りに追われていた。ナクユのパズルが目にとまると、悪いとは思いながらひとつ借用した。それが徐々に当たり前となった」
安藤先生はうつむきながら、小さい声で話し始めた。最初の頃は罪悪感があったらしいけれど、時間が経つにつれて気にしなくなったみたい。その頃から名前が売れてきて、後戻りができなくなったらしい。
オリジナルパズルの要望が編集者から増えてきて、要望に合うパズルをナクユで見つけたらしい。それが私のオリジナルパズルだった。全ての情報が繋がる。今後はナクユのパズルを使わないと、安藤先生は約束してくれた。
「安藤先生がわたしに教えてくださいました。読者が楽しめるパズルを作る。その言葉を今でも大事にしています。学校が忙しくても忘れていません」
「菊池さんの期待を裏切って申し訳ない。俺も初心に戻って頑張る」
安藤先生は何度も私に謝った。ソフト会社にも安藤先生から説明してくれる。安藤先生と争うのは止めた。今はキリリキくんの救出を優先させたかった。
「私にナクユのジュエリーが届いて、参加者を私に変更しています。何故ですか」
「ナクユを管理しているプログラムから脅迫された。俺の元にメールが届いて、パズルの流用を脅しのネタにされた」
「もしかして名前はヲンですか。それともアイですか」
「ヲンから参加者の変更を指示された。並戸さんに送る理由は知らされていない」
今までの情報と矛盾はなくて、嘘をついているとも思えなかった。ヲンが何したいのかは不明だったけれど、キリリキくんを助ければわかる。
一通りの話が終わって安藤先生と別れた。
綾音ちゃんにキリリキくん救出の協力をお願いすると、快く引き受けてくれた。黒木さんにも連絡を入れて、ナクユのジュエリーを借りる手はずも整う。あとはロクヨちゃんとの相談で、何時助けに行くか決める必要がある。
キリリキくんを助けに行く日が来た。ヲンの考えはわからないけれど、これ以上は遅らせられない。ナクユの時間は人間の世界よりも早く進むから、1分1秒も無駄にはできない。黒木さんからナクユのジュエリーを借りた。
綾音ちゃんと一緒に南側の未開地帯へ行く。ロクヨちゃんも当然一緒で、黒木さんの提案で視覚系も一緒に同行する。全員で力を合わせてキリリキくんを連れ戻す。
ロクヨちゃんはナクユのルールに逆らえないから、危険があっても対応に限度があった。でも視覚系ならルールを無視できるから、ナクユでは貴重な存在になる。視覚系とは現地で合流する手はずとなった。
私の家に綾音ちゃんを呼んで、ナクユのジュエリーも揃っている。
「綾音ちゃんが先にナクユへ行ってね。すぐに私も向かう」
「1番尊敬する、みーなさんの役に立てて嬉しいです。出現場所から動かないで、みーなさんを待っています」
綾音ちゃんはナクユのジュエリーを取り出して裏技を使う。綾音ちゃんの手からナクユのジュエリーが離れると、綾音ちゃんはうつぶせとなった。ナクユへ行けたみたいで次は私が行く番だった。
「綾音ちゃんをすぐに見つけないとね。私たちも向かいましょう」
ナクユのジュエリーを手にとった。
「ナクユへ行くにゃ。キリリキが待っているにゃ」
ロクヨちゃんの目が赤く光った。体の力を抜いて、キリリキくんを助けるためにナクユへ向かう。
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