第43話 終わりの始まり

 閉じた目を開けると、壁一面には見慣れた白黒のマス目がある。キリリキくんの部屋と分かると、ほっとした。周囲を見渡すと、ロクヨちゃんが私を見つめている。

「キリリキがいないにゃ。私が前もって話しておけばよかったにゃ」


「ロクヨちゃんは悪くないよ。それに鎖は私を狙っていたから、キリリキくんは私の身代わりになったのよ」

「にゃんこちゃんは精一杯頑張っていました」


 ロクヨちゃんを引き寄せて抱きしめた。ロクヨちゃんの体が小刻みに震えて、息づかいも荒くなっている。ロクヨちゃんは何か話そうとしたけれど、言葉が出てこないみたい。誰もキリリキくんが捕まるとは予想できなかった。


 ロクヨちゃんが落ち着くまでそのままの姿勢を保った。

「もう大丈夫にゃ。今できる範囲で頑張るにゃ」

 ロクヨちゃんは大きく体を伸ばして、尻尾を左右に振った。

「スカイカス師匠やムサシ国王なら、何かわかるかも知れないよね。そのためにも特別な課題を解決しましょう」


 私たちはスカイカス師匠の家へと向かうと、スカイカス師匠が出迎えてくれた。キリリキくんが捕まったと話すと、部屋の中へ案内される。特別な課題の結果を報告して、スカイカス師匠に交差の辞書を渡した。


「確かにこれじゃ。わしの交差の辞書に間違いない。たくさんの課題を解決したはずじゃ。よく頑張ってくれた」

 スカイカス師匠から課題解決の報酬をもらった。本来は嬉しいはずだけれど喜びの感情が沸かない。頭の中はキリリキくんで溢れていて、スカイカス師匠の話しも頭に残らなかった。


 形式的な話が終わってキリリキくんに話題を切り替えた。今までの出来事を話すとスカイカス師匠が腕を組む。もちろん人間がナクユを作った事実は話さない。

「以前に私を襲った鎖はヲンから生まれたようです。キリリキくんは私の身代わりになりました。ヲンに捕まったあとはわかりません」


 スカイカス師匠は天井を見上げてから、視線を移動して私に向けられる。

「キリリキはきっと無事じゃ。交差の辞書を手に入れるまで諦めないはずじゃ」

「クロスワード国では交差の辞書が重要なのですか」

 スカイカス師匠に聞き返す。


「便利じゃが必修ではない。キリリキは必要以上に交差の辞書をほしがった。何かに取り憑かれている。そう思わせるほどじゃ。ぜひそのまま持っていてほしい」

「交差の辞書を預かっても平気ですか。パズル作成に影響しないでしょうか」

「全てを覚えている。持って行っても大丈夫じゃ。中身を見ても平気じゃ」

「大事に扱います。キリリキくんに渡します」


 交差の辞書を受け受け取ると話が途切れた。キリリキくんの姿が頭をよぎって、次の言葉が思い浮かばない。会話も弾まない。これ以上この場所にいると不安が大きくなりそうで、スカイカス師匠の家をあとにした。


「次はナンバープレース国かな。綾音ちゃんはお城からは無理よね」

「一度訪れた国でないと使えないにゃ」

「わたしはナクユのジュエリーで先に戻ります」


 ほかに方法がないかを考えていると、頭上が明るくなった。目を向けるとアイが出現していた。

「ヲンノ対処ガ、最優先デス。未登録ノ大人ハ、黙認シマス」


「配慮してくれてありがとう。私たちもヲンの対処に協力するから、キリリキくんの居場所を知っていれば教えてほしい」

「彼ハ、南側ノ未開地帯、数エノ塔ニイマス」

 キリリキくんの居場所を告げてくれたから、アイは私たちを助けてくれる存在かもしれない。今はアイを信じるしかなかった。


「今度は南側の未開地帯ね。キリリキくんは無事なのかな」

「今ハ大丈夫。デモ、時間ハナイデス」

「キリリキくんを助けたいのよ。私たちは何をすればよいか教えてほしい」

「ナンバープレース国ノ、ムサシ国王ニ、会ウノデス」

 次の言葉を出す前に景色が揺らいで、移動が始まった。


 目を開けると壁には数字の模様が描かれている。

「ナンバープレース国にゃ。私の部屋にゃ」

 今度はナンバープレース国に運んでくれた。綾音ちゃんも一緒に来られたので、お城へと向かう。前と同じ部屋に行くとムサシ国王が椅子に座っていた。


「戻ってきたのだにゃ。特別な課題が終わったのかにゃ」

「無事に解決しましたにゃ。これが王家の秘宝で、珍しいナンプレですにゃ」

「美奈殿もご苦労であったにゃ。特別な課題の報酬は別の部屋にあるにゃ。好きな品物を選ぶとよいにゃ」


 ムサシ国王にお礼を言った。特別な課題の達成感をかみしめる時間も惜しくて、一刻も早く数えの塔に行く必要がある。ムサシ国王に今までの出来事を説明する。ナクユは人間に作られた情報も、全てを包み隠さず話した。


「南側の未開地帯へ行ってキリリキくんを助けたいです。ムサシ国王が知っているとアイに聞きました。教えてください」

「アイに会った覚えがあるにゃ。課題を提供する人間の大人と一緒にいたにゃ。それで俺と会うようにと言ったのだにゃ」


「昔はナクユにも大人が来ていたのですか」

 黒木さんの言葉を思い出して聞いた。

「人間の子供を喜ばすには人間の大人が詳しいからにゃ。悲しいナンバークロス国の事件があったにゃ。それ以来は人間の大人が来なくなったにゃ」


 物知り老婆が大人を恨んでいる事件と、同じかもしれない。詳しく聞きたいけれど今はキリリキくんを助けるのが優先だった。

「南側の未開地帯へはどのように行くのですか」


「見えない翼の指輪を指にはめるにゃ。次に呪文を唱えるにゃ。南側の未開地帯へ行けるにゃ。数えの塔はこの前の地図に描かれているにゃ」

 取り出した地図で数えの塔の位置を確認した。指輪で到着する場所はムサシ国王が教えてくれて、数えの塔からは距離があると分かる。


「見えない翼の指輪を入手したいです。課題を解決するのですか」

「本来は課題を解決すると手に入るにゃ。だが課題が完成する前に人間の大人がいなくなったにゃ。今は俺の手元にあるにゃ」


 部屋の扉が開くと、ぬいぐるみが小さな箱を持ってきた。小さな箱の中身は立体の翼がある指輪だった。ムサシ国王から呪文を教わって、数えの塔に行く手段を手に入れる。キリリキくんを助ける道が見えてきた。

 見えない翼の指輪をムサシ国王から受け取って、お礼を言ってナクユを去った。

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