第41話 特別な課題の解決
言葉の塔の中は明るくて、色彩も灰色から色のある世界に戻った。目が慣れるまでは苦労しそうね。
「何もない。天井もないぞ。殺風景だ」
キリリキくんの言葉通りで床と壁以外は何もなかった。灰色の世界が曇り空に見えて、壁は複数の色で縞模様になっている。
「本当に何もないよね。次の課題か宝箱でもあると思ったかな。王家の本も変化しないから、何処かに手掛かりがあるはずよ」
「床か壁に手掛かりがあるのかにゃ」
「その可能性はあるから手分けして調べましょう」
私の声に全員が近くの壁を調べ始めた。綾音ちゃんも私と別の壁へ向かう。
「天井から何か降ってくるにゃ」
壁を調べているとロクヨちゃんの声が聞こえた。天井を見上げると箱がふたつ降りてくる。ゆっくりとした速度で音を立てずに床の上で止まった。箱の大きさは両手で持てるほどで、蓋つきの箱は別段変わった様子はなかった。
私たちはふたつの箱を取り囲む。
「箱を開ける以外に手掛かりはなさそうね」
「感覚的によいと思うぞ。並戸が開けてくれ」
右側にある箱の側面に両手をかけて、ゆっくりと持ち上げる。女性でも簡単に持てる重さで、箱の中には1冊の本が入っていた。
「スカイカス師匠が持っていた交差の辞書だ。汚れ具合がそっくりだぞ」
キリリキくんが興奮している。奪うように交差の辞書を手に取って中身を確認している。両手で交差の辞書を天にかざした。よほど嬉しかったみたい。
「特別な課題が解決できてよかったね」
「並戸のおかげだ。感覚ではなく並戸はよく頑張ったぞ」
キリリキくんの興奮している声が私にも伝わってくる。
「交差の辞書は大事なものよね。でもできれば中身を見たいかな」
「取り戻してくれた。今日は特別だぞ。大事に扱ってくれ」
渡された交差の辞書を開くと、文字数ごとに単語がびっしりと書かれていた。確定文字の位置違いでも調べられるみたいで、検索システムに似ている。
開いている頁と同じ頁が頭の中に浮かんだ。
「私が持っている辞書に似ているかな。でも気のせいよね」
「滅多にないものだ。感覚的に思い過ごしだと思うぞ」
交差の辞書をキリリキくんへ返して、キリリキくんの特別な課題は完了した。左側の箱も開けると中には1枚の紙が入っている。ナンプレの問題だった。
「これが王家の秘宝みたいよ」
紙をロクヨちゃんへ渡す。
「無事に特別な課題が解決できたにゃ。王家の秘宝も手に入って嬉しいにゃ。これも美奈さんのおかげにゃ」
ロクヨちゃんは飛び跳ねながら踊り出すと、尻尾が波を打ち曲線を描く。緩急が付いた動きは見ていて心地よかった。ロクヨちゃんは片足で回転して、最後は両手を広げてお辞儀する。
「にゃんこちゃん素晴らしいです。動画に撮っておきたかったです。私もナンプレを見てみたいです」
「普通サイズのナンプレにゃ。でも珍しいナンプレで合っているにゃ」
ロクヨちゃんは綾音ちゃんに紙を渡した。横ではキリリキくんが交差の辞書を大事に抱えている。
「ヒントの数字が18個です。たしかに珍しいナンプレです」
「普通のナンプレは25個から30個前後で、最小数は17個よね。20個以下を作るのは難しいけれど、黒木さんも18個のナンプレを作っていたかな」
「ヒントの数字が少なければ、問題が難しいとは限らないです。ナンプレは作っても解いても面白いです」
キリリキくんとロクヨちゃんの特別な課題が解決した。スカイカス師匠とムサシ国王に会えば終わりになるのかな。
「上空に何かいるぞ。あれは何だ」
大声を上げたキリリキくんは天井を指さす。灰色の空から真っ白な球体が降りてきて、3メートルくらいの高さで止まった。大きさはバレーボールくらいで、球体の内部が七色に光り出していた。
「私ハ、アイ。特別ナ課題ノ完了ヲ、確認シマシタ」
七色に光る球体からで人工的な女性の声だった。名前も女性らしかった。球体の光が強弱していて、まるで話しているみたい。
「依頼主ニ届ケレバ、報酬ヲ入手デキマス。私ガ、国ヘ送リマス」
アイの正体は何か分からなくて、特別な課題を出しているぬいぐるみと同じかも不明だった。でもどことなく特別な雰囲気がある。
特別な課題の終わりがみえて、ナクユへ来てからの出来事が頭の中を駆け巡る。パズルを作って解いて楽しんだ。後半は危険が多くて緊張もして、特に渓谷のパズルは心臓に悪かった。思い出がいっぱい溢れてくる。
「キリリキくんとロクヨちゃん、一緒に旅ができて楽しかったよ」
「並戸と進められた。感覚的に嬉しかったぞ」
「美奈さんと一緒に挑戦できたにゃ。言葉の塔まで来られたにゃ」
「スカイカス師匠とムサシ国王に報告しないとね」
クロスワード国とナンバープレース国へ戻るだけとなって、キリリキくんとロクヨちゃんの顔を見た。これで最後になると思うと寂しい気持ちになった。
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