第39話 無駄な?ルール
1本道を進んだけれど言葉の塔は見当たらなかった。景色にも変化はなくて、移動の途中では軽快な指輪の効果が切れた。
「言葉の塔はまだみたいだ。この道であっているのか。感覚的にわからないぞ」
キリリキくんが聞いてくる。
「脇道はなかったから合っていると思うよ。それにしても殺風景で歩いた距離がわかりにくいよね。綾音ちゃんは疲れてはいないかな」
「まだ大丈夫です。見た目と異なって歩きやすい気候です」
「もう少しだけ進みましょう。何か変化があるかも知れない」
しばらく進むと両側が切り立つ崖となって、突き当たりには洞窟がある。電車が通れるほどの大きな洞窟で奥を覗いた。灰色の世界は変わらないけれど、周囲を認識できるほどの明るさがある。
「感覚的にこの洞窟が怪しいぞ。この先に言葉の塔があると助かるぞ」
「進めそうな場所はほかにないから、この洞窟に気をつけて進むね」
洞窟へ足を踏み入れた。壁や天井の表面はでこぼこしているけれど、足元は平らで歩きやすかった。5分くらい歩くと分岐点が現れて右と左に奥へ続く穴がある。広さは充分で両方とも人が通れる大きさだった。
「わかれるよ、わかれるよ」
紙飛行機のぬいぐるみが現れた。渓谷で会ったぬいぐるみと同じ姿みたい。
「2組にわかれて進むのかな。それとも別の何かをわけるのかもね」
「右と左にパズルがあるよ、右と左にパズルがあるよ」
「両方でパズルを解くようね。わかれるのは右と左の穴かな」
「その通りだよ、その通りだよ」
紙飛行機のぬいぐるみが私の質問に答えてくれた。私と綾音ちゃんが別々の穴に行くけれど、どちらに入るかは見ただけでは分からない。
「私は左に行くけれど、連絡を取るためにキリリキくんとロクヨちゃんを別々にするよ。キリリキくんは私と一緒ね」
「並戸は俺に任せろ。ロクヨは菊池を頼むぞ」
「そのつもりにゃ。キリリキも、ちゃんと連絡をよこすにゃ」
私とキリリキくんは左の穴へと進んだ。道は右や左へと曲がりくねっていて、方向感覚を失いそうだった。分岐点はなかったので道なりに奥へと向かう。綾音ちゃんとロクヨちゃんは上り下りが多いみたい。
開けた場所にでると目の前に沼が広がっている。中央の島にはひときわ目立つ塔が建っていた。
「初めて建物を見つけたよね。言葉の塔だと助かるかな」
「合っているよ」
紙飛行機のぬいぐるみだった。私の頭上を旋回しているけれど、今までと異なって全体は黄色のみね。大きさも一回り小さかった。探していた言葉の塔が見つかったから、あと少しで特別な課題が解決できる。
「中央の島まではどのように行くのかな」
「待ってよ」
紙飛行機のぬいぐるみに従って、キリリキくんと沼の畔で待った。言葉の塔は円柱の形をしていて、表面は文字と数字がらせん状に交わっている。全体が金色をしていて、灰色の世界に馴染んでいなかった。
「ロクヨも沼に出たようだぞ」
言葉の塔の反対側に人影が見えた。綾音ちゃんとロクヨちゃんで、反対側とは沼で分断されていて合流は無理みたい。
「説明だよ」
紙飛行機のぬいぐるみが話し出した。空中に画面が出現して、課題のルールが表示される。
「無駄の多い文章ね。ルールは10項目あるかな。1番上のルールはある意味重要よね。答えに関係なければ相手と話してもよい。直接的な答えを言っては駄目かな」
ふたつ目以降は変わっていた。地図は二つで浮島の位置は異なる。交互に問題を解く。六種のパズルがランダムに出題される。見づらければ画面の色を変えられる。ここまでが半分のルールだった。
「6つ目のルールは時間だ。全部を三時間以内に解く。並戸は大丈夫か」
キリリキくんが聞いてくる。
「私と綾音ちゃんなら時間は気にしなくて平気よ。それよりも7つ目のルールが意味不明かな。五回はつねに答えをチェックする。1回で充分よ」
8つ目以降はルールらしかった。地図の浮島は正解で一つ指定できる。相手側に浮島が出現する。浮島は重要で四方に橋が出現する。ルールが少し凝っていたから、あとからルールを追加した感じに思えた。
「油断は大敵だ。正解には感覚も重要だぞ」
キリリキくんも言葉に頷いた。相手は特別な課題だから油断できない。
パズルに正解すれば言葉の塔にたどり着ける。
私と綾音ちゃんへ交互にパズルが出題されて、正解なら地図上の浮島を指定する。浮島は相手側に出現するから、どの浮島を選ぶかが重要で、言葉の塔に到着するまでの出題数が異なってくる。浮島は消えないから楽な気分で挑戦できる。
制限時間は3時間で、普通に解けば時間は余るけれど安心はできない。ほかにルールはないのでパズルを解くしかない。綾音ちゃんにも負けないよういっぱい解く。
「私が最初に解くから問題をお願いね」
紙飛行機のぬいぐるみに宣言した。
画面上部に時計が現れて、画面にはパズルが出題されて時計の針が動き出す。最初の問題はスケルトンで6文字の言葉はひとつしかない。入る場所が確定できて、6文字を足がかりに次々と言葉を埋めていく。私には簡単なパズルだった。
問題ごとの時間指定はなくて、小さいサイズなので5分程度で解き終わった。
「正解だよ」
紙飛行機のぬいぐるみが話すと画面が変わった。
画面を覆うように沼の輪郭が描かれていて、左右に黄色と紫色のマークがある。私と綾音ちゃんがいる位置みたいで、中央には塔の絵があった。複数の浮島は表示が薄暗くて、綾音ちゃんが渡れる浮島はまばらに存在している。
この中から浮島を選ぶみたいで、綾音ちゃんに1番近い浮島を触った。明るい茶色へと変化した。
「ロクヨからだ。浮島が現れて次の問題も出たようだ」
順調に1問目が終わって、次は綾音ちゃんの番だった。
しばらくすると浮島が出現した。浮島に渡る橋は頑丈で安心して渡れる。浮島に入ると空中に画面が現れた。紙飛行機のぬいぐるみは最初の位置から動かなかった。
「パズルを解いて浮島を渡る。その繰り返しね」
出題された問題に挑戦して、私と綾音ちゃんが交互にパズルを解く。変わったパズルはなくて私と綾音ちゃんなら余裕で解けた。ちょっと物足りなさを感じた。
次々と浮島が出現して、綾音ちゃんへ普通に声が届く距離まで近づいた。目の前には言葉の塔が大きく見えて、選択していない浮島は残りひとつになった。
「あと1問で中央の島に渡れそうね」
「慌てずに解きました。順調すぎて怖いくらいです」
キリリキくんとロクヨちゃんを通さずに会話できるので意思疎通がしやすい。
「私の番ね。すぐ問題を解くから待っていてね」
出題されたのは間違い探しで、絵は湖に映った風景だった。
3本の木が目を惹いて色鮮やかな数羽の鳥が空や木の上にいた。湖の周辺には高さの異なる草が生い茂っている。上下に視線を移動させて間違いを探した。色や向きが異なって、鳥が花に変わった場所もある。簡単な問題で5分とかからなかった。
答えは正解で浮島を選ぶ画面に変わった。残されたひとつの浮島にさわると沼の中から浮島が現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます