第38話 焦りは禁物

 綾音ちゃんへ応えるように私も手を振り返す。

「問題だよ、問題だよ」

 頭上から声が聞こえたので見上げると、紙飛行機が旋回している。近くまで降りてきたのは、迷路でできた紙飛行機のぬいぐるみだった。右側は黄色で左側は紫色で表面は紙ではなくて金属の光沢をしている。


「パズルを出してくれるのよね。どのような問題かな」

「出題するよ、出題するよ」

 象のぬいぐるみと同様みたいで空間に画面が出現する。最初の問題は記号を使ったオリジナルパズルで、時間は20分とナンプレに比べ長めだった。


「オリジナルパズルは難しそうだ。並戸は解けそうか」

 キリリキくんが聞いてきた。

「記号パズルは理詰めで解けるから平気よ」

 今日の最初がオリジナルパズルで、私に対する挑戦みたいで燃えてくる。


 ルールと例題からパズルの特徴を理解すると、既存パズルの変則で把握しやすかった。パズルを解き始める。最初は確定部分に記号を埋めて、仮定が増えるとルールを確認した。知らないパズルはルールの把握が重要で、順調に記号を埋め終わった。


「最後のほうは簡単になったかな。これで完成よ」

 答えは正解で綾音ちゃんとロクヨちゃんが橋に乗った。次の問題はルールの把握に戸惑った。ルールが複雑だとパズルを解く前に悩むので面白みが半減する。この問題は時間が少しかかったけれど無事に解けた。


「3問目だよ、3問目だよ」

 紙飛行機のぬいぐるみが叫んで次の問題が表示されと、画面に釘付けとなった。

「間違いない。私が考えたオリジナルパズルよ。何故?」


 漢字のオリジナルパズルが出題された。安藤先生も作っていたパズルで、ナクユにも同じパズルがある。

 頭の中が真っ白になって、さすがの私でも理解に苦しんだ。心臓の鼓動も早くなった。私が考えたパズルは誰でも思いつく程度なのか、それとも何か秘密でもあるのかもしれない。


「1分間も黙っているぞ。問題が難しいのか」

 我に変えるとキリリキくんが私の服を引っ張っていた。

「何でもないよ。時間内には解けるから、心配しなくて平気よ」

 平然とした態度を心掛けて、キリリキくんに答える。


 パズルが同じ理由を考えても仕方ない。今は無事に綾音ちゃんとロクヨちゃんを北側の未開地帯へ渡すのが最優先事項だった。キリリキくんに感謝して両手を広げて深呼吸する。ルールは把握しているから、解き始めると時間はかからなかった。


 4問目も無事に解き終わって、綾音ちゃんとロクヨちゃんの姿が近くに見えた。

「あと1問です。頑張ってください」

 綾音ちゃんとロクヨちゃんへ手を振った。あと1問解けば課題が終わる。

「最後の問題だよ、最後の問題だよ」


 画面に映された問題は閃き系パズルで、上下左右は似た配置だった。表示された地図の右上に方角を示す記号があって上が北側みたい。ある意味で1番厄介なパズルだけれど解く時間は1時間もある。解けなければ出現した橋が全て消えてしまう。


 理詰めで解けるパズルなら高難易度でも解けるけれど、閃き系パズルは運要素も必要とされる。今は確実に解きたいから、紙飛行機のぬいぐるみに聞いた。

「問題を飛ばすのは可能かな。他のパズルで挑戦したい」


「無理だよ、無理だよ」

 淡い期待はなくなってこれが最後の問題となった。パズルの問題は犯人から宝石を守るもので、犯行予告から狙われる建物を当てる。建物は全部で10箇所あった。

「答えを間違えても終わりよね」


「その通り、その通り」

 慎重に答える必要があった。閃き系パズルは消去法が使いにくいから攻略方法もない。手掛かりとなるヒントが重要で、若手四天王の名にかけて解いてみせる。

 ヒントは犯行予告と地図のみなので、読み方を変えてみる。地図を回転させたけれど、気になる点はなかった。有力なヒントはまだ見つからない。


 1番古い橋が灰色になって消えた。目に見えて変化が起こると心に余裕がなくなってくる。早解きの経験はあるけれど違う重圧がかかっていた。さらに橋の一部が消えると橋が気になった。なかなかパズルに集中できない。


 時間のみが過ぎて、綾音ちゃんとロクヨちゃんが乗っている橋のみになった。

「並戸は何をしている。時間がないぞ」

「手掛かりが見つからないのよ。暗号や地図が対称に近いから、何か意味があると思っている。何処にヒントが隠れているのかな」


 不自然な対称性だったので90度ずつ回転させた。重ね合わせもしたけれど、意味のある言葉にはならない。

「みーなさんを信じています。諦めないで下さい」

「オリジナルパズルは得意だから、安心して待っていてね」


 意識して元気よく答えたけれど、声とは裏腹にパズルの解答が見えない。閃き系パズルは残り1分でも解けるから、時間との勝負には慣れている。手掛かりらしい部分を見つけたけれど、まだ答えにたどり着けない。


 当てずっぽうでは10パーセントの確率なので、最後の手段にしか使えない。

「最後の橋が灰色に変化したぞ」

「わかっている。私だって真剣に考えているのよ」

 キリリキくんに強く言い返した。八つ当たりとはわかっている。


「俺なら感覚で答えるぞ。並戸も試したらどうだ」

「感覚って言われても無理よ。……カンカク。そうよ間隔よ。答えが浮かんだ」

「本当か? 早く言わないと時間がないぞ」


「答えはこの建物よ」

 急いで画面上の建物を指さした。

「正解だよ、正解だよ」

「早く渡って、橋が消えそうよ」


 綾音ちゃんとロクヨちゃんが北側の未開地帯に飛び乗った。直後に橋が消える。今頃になって足が震えてきて、その場に座りこんだ。綾音ちゃんが近くに来たので、座りながらふたりで抱き合った。


「解くまで時間がかかってごめんね。綾音ちゃんが無事でよかった」

「みーなさんなら解けると信じていました。にゃんこちゃんも一緒でしたので、怖くはなかったです」


 パズルを解くのは大好きだけれど、誰かが犠牲となる課題は嫌いよ。やっと足の震えが収まって鼓動も正常に戻った。辺りを見渡す余裕ができると、紙飛行機のぬいぐるみは姿を消していた。

 前方に目をむけると奥へ続く道が1本あった。言葉の塔はこの先にあるのかな。

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