第37話 パズルで作る橋

 特別な大人から逃げて20分ほど経過したころに、前方をみるとぬいぐるみが立っている。緑色の大きな象のぬいぐるみだった。

 大きな右耳は文字で左耳は数字で作られていて、長い鼻は文字と数字がらせん状に重なり合っている。目が鋭くてちょっと怖い感じだった。でも困難な先にはパズルがあるから、私が率先して進めていく。


「言葉の塔を探しているのよ。何処にあるか知っているかな」

 象のぬいぐるみに話しかけた。

「北にまっすぐ進むぞ。言葉の塔に着けるぞ。課題を解決するぞ。北側の未開地帯に入れるぞ。それ以外は無理だぞ」


 お腹に響く低音で見た目と同じく音量も大きかった。今まで何度も課題を解決してきたから、大抵のパズルでは驚かない。

「北側の未開地帯へ渡りたいのよ。課題のパズルは何処に出題されるのかな」


「おれが出題するぞ。この場所で解いてもらうぞ。一定時間内に解くぞ。橋の一部が現れるぞ。5問連続で正解するぞ。橋が繋がるぞ。向こう岸に渡れるぞ」

「パズルを解けば橋が現れるのかな。すぐにでも挑戦したい」

 北側の未開地帯に行くから難しい課題かと思ったけれど、パズルを解くだけならうれしい。


「橋の一部は一定時間で消えるぞ。最大は3つしか同時に出せないぞ。4つ目を出現させるぞ。1番古い橋がなくなるぞ。注意が必要だぞ」

 やはり特別な課題で、単純に問題を解くだけではないみたい。

「ちょっと待ってよ。パズルを連続で間違えば渓谷に落ちるじゃない」

「1問でも間違えれば終了だぞ。慎重に解くのだぞ」


 心理的要素がある課題は初めてだったけれど、困難なほど力が沸く。正解が5回で橋を渡れるけれど一定時間で橋の一部が消える。不正解でも渓谷に落ちてしまう。橋の数は最大で3つだから、岸に戻れない状態もある。


 課題へ取り組む前に疑問が沸いた。綾音ちゃんはどのように思ったのかな。

「この場所でパズルを解くけれど、パズルを解く人はいつ橋を渡るのかな」

 綾音ちゃんへ聞いた。


「渡った人がパズルを解くのでしょうか。もうひとつ考えられます。ここで解いた人は最後に象のぬいぐるみが送ってくれるです」

「送ってくれるは特別な課題では考えにくいかな。最低でもふたりがパズルを解くと考えるのが安全ではあるかもね」


「解いた人が渡れない可能性もあります」

 ルールの適切な把握が必要だから、象のぬいぐるみに確認したい。視線を像のぬいぐるみに向けた。


「パズルはこの場所で解くのよね。解いた人は北側の未開地帯へどう渡るのかな」

「向こう岸でもパズルが出題されるぞ。渡った人がパズルを解くぞ。あとのルールは同じだぞ」

「渓谷の両側で出題されるのね。パズルの種類は違うのかな」

 どのようなパズルが出題されるのかが気になった。


「おれの出題は既存パズルだぞ。向こう岸はオリジナルパズルだぞ」

「誰がどちらで解くかを考えさせてね」

「じっくり考えるのだぞ。決まれば声をかけて欲しいぞ」

 視線を綾音ちゃんたちに戻した。


「こちら側でパズルを解く人と、北側の未開地帯でも解く人が必要よね」

「勘が鋭い少女の言うとおりだ。パズルが得意な大人がもうひとり必要なわけだ」

「私と綾音ちゃんでパズルを解くけれど、綾音ちゃんはどちらで解きたいかな」

 綾音ちゃんもパズルを解く実力はあるけれど、特別な課題は初めてだった。私はどちらでも平気なので、綾音ちゃんに好きなほうを優先させた。


「慣れている既存パズルにしたいです」

「こちら側のパズルをお願いするね。私は北側の未開地帯でパズルを解くね」

「お願いがあります。にゃんこちゃんと一緒でもよいですか」


「菊池さんと一緒にゃ。北側の未開地帯へ渡るにゃ」

 綾音ちゃんは嬉しそうにロクヨちゃんを抱きしめると、ロクヨちゃんも喜んだ。パズルを解く体制が整ったので、象のぬいぐるみへ特別な課題に挑戦と伝える。


「開始するぞ。答えるのはひとりだぞ」

 目線の高さに画面が出現したけれど、真っ黒で何も映っていない。画面が明るくなるとパズルが出題された。最初はナンプレで画面上部に時計が表示されている。問題を解く時間は15分以内だった。


 綾音ちゃんに極度な緊張感が見られないのは、世界パズル競技大会で慣れているからと思う。画面上を触ってパズルを解き出すと5分以内に全部の数字が埋まる。

「正解だぞ。橋を出現させるぞ」


 象のぬいぐるみが鼻を高く上げると、虹色に輝く橋が現れた。私は慎重に1歩だけ踏み出す。虹色の橋は固い地面で、両足を乗せても壊れる雰囲気はなかった。

「綾音ちゃんは慌てなくて平気だからね。いつも通りで問題ないよ」


 橋の中央まで移動して、キリリキくんと一緒に綾音ちゃんに全てを託した。

 2問目はクロスワードで綾音ちゃんには簡単みたいで、迷わずに文字を記入していた。さすがは若手四天王のひとりで見ていて安心感がある。


 3問目の問題は見えないけれど、待っていると橋の一部が現れる。正解したようで渓谷の真ん中まで進めた。渓谷を見渡すと底が深くて何も見えなくて、底があるかは不明だった。橋の幅が広くて風もないのが救いね。


 4問目も正解すると、最初に出現した橋が灰色へと変化した。徐々に色が薄くなって、灰色になってから1分後くらいに消えた。

 綾音ちゃんは順調にパズルを解いて、時間をかけずに北側の未開地帯へ渡れた。対岸をみると、綾音ちゃんが両手を大きく振っていた。

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