第34話 綾音ちゃんの決意

 昼食の時間帯から少しずれていたからか、並ばずにお店の中へ入れた。4人用の席に案内されて向かい合って座る。ほかから見られないように、横の椅子へキリリキくんとロクヨちゃんを出現させた。


 パスタや飲み物を注文して、おいしくパスタを頂いた。店内も空いてきたので、このまま雑談へと入る。ミネラルショーの話題からパズルの話題へと変わった。

「今月号も見たけれど綾音ちゃんのパズルは難易度が高かったよね。味わいながら解けたかな。安藤先生のオリジナルパズルもあったけれど、綾音ちゃんは見たかな」


「取り上げられたのは知っています。時間がなくてまだ解いていないです」

「いつ頃に考えたパズルなのか、何か聞いてはいないかな」

「知りません。でもどうしたのですか。安藤先生のパズルを聞くのは珍しいです」

 不思議そうな顔で私に聞き返す。


「オリジナルパズルだからね。安藤先生の作成方法を知りたかったのよ。いろいろと勉強になるからね」

 あらかじめ聞かれると思って無難な回答を考えておいた。

「勉強熱心でわたしも見習いたいです。でもみーなさんはこの前から少し変です。安藤先生と何かあったのですか」


「気のせいよ。今までと変わりないかな」

「わたしを誰だと思っているのですか。みーなさんを1番尊敬しているのです。みーなさんの些細な違いも見逃しません」


 綾音ちゃんは前のめりになって私の顔をじっと見つめる。視線が合った綾音ちゃんは真剣な表情だった。綾音ちゃんから質問されるとは予想外だった。綾音ちゃんとはパズルの話をよくするけれど、ほかのパズルクリエーターは滅多に話題としない。


 正直に話すべきか隠すべきか迷った。ほかの表現でごまかす手もある。

 視線を外すと、キリリキくんとロクヨちゃんの姿が目に入る。キリリキくんは椅子の上で動き回っていて、ロクヨちゃんは私を見ている。私自身の決心がついて、綾音ちゃんへ顔を向けた。


「唐突だけれど夢の国を信じるかな」

 綾音ちゃんの瞳が大きくなって瞬きの回数も増えた。驚いて当然よね。

「安藤先生と関係があるのですか」


「今のところは関係がないと思う。綾音ちゃんが夢の国を信じるか知りたい」

「まだ意味が理解できないです。わたしがパズルの世界を話しましたが、宝石とパズルの世界が関連しているのですか」


 すぐに確信へ近づいた。綾音ちゃんは世界パズル競技大会で優勝していて、頭の回転も早い。私も負けてはいられない。綾音ちゃんに信じてもらうため、どのように説明するかを考える。

「パズルの世界が存在したら行ってみたいかな」

「興味はあります。でもみーなさんから非現実的な話が聞けるとは珍しいです」


「嘘をついても意味がないから本当の理由を話すね。あり得ない内容だから、信じるかは綾音ちゃんに任せる」

 綾音ちゃんの顔色をみたけれど笑う気配はない。私の話を真面目に聞いている。何処から説明するか考えていると、綾音ちゃんが先に口を開いた。


「みーなさんは宝石を気にしていました。気になって安藤先生に聞くと、酔った席での嘘と答えました。インターネットは偶然とも言われましたけれど、みーなさんも安藤先生も何かを隠しています。わたしは真実が知りたいです」


 綾音ちゃんも気になっていたみたいで、正直に話すほうが納得してもらえそう。

「パズルの世界に私は行っているのよ。ナクユと呼ばれている世界ね。ナクユは電脳空間でナクユのジュエリーを使って行くのよ」


 今までの体験を包み隠さずに話した。ナクユのジュエリーとナクユの概要も説明する。各国の特別な課題をパズルで解決して、これから言葉の塔に向かう。パズルが得意な大人と一緒に向かう必要と、キリリキくんやロクヨちゃんの存在も話した。


 崩壊現象と黒木さんは説明から省く。キリリキくんがいるからで、人間が作った世界という表現も使わなかった。

 綾音ちゃんは黙って聞いていて、頭の中で整理しているみたい。綾音ちゃんの答えを待った。キリリキくんとロクヨちゃんはテーブルの縁に手をかけている。顔だけを覗かせて綾音ちゃんの表情を確認していた。


「みーなさんは嘘をつきません。でも今の科学技術なら可能かは判断できません。実際にその世界をみれば納得できると思います」

「連れて行けるか確認するね。これから独り言をするけれど気にしないでね」


「パズルのぬいぐるみが近くにいるのですか」

「そうよ。綾音ちゃんもナクユに来れば見られるよ」

 横を向いてキリリキくんとロクヨちゃんへ聞いた。綾音ちゃんの目には私が椅子に話しかけている、変な姿に映ると思う。


「ナクユのジュエリーで綾音ちゃんはナクユへ行けるかな」

 小声でキリリキくんとロクヨちゃんへ聞く。

「無理だぞ。ナクユのジュエリーではひとりしか連れて行けない。それに並戸が持っているナクユのジュエリーは特別だ。特別な大人しかいけない」


「ほかのナクユのジュエリーでも駄目にゃ。人間の大人はナクユへ行けないにゃ」

 私の代わりに行ければと思ったけれど、簡単な話ではないみたい。残る可能性はひとつしかない。私は特別な大人以外がナクユへ行く方法を知っている。


「黒木さんは裏技でナクユへ来たよね。その方法なら綾音ちゃんも行けるかな」

「可能性はあるにゃ。試してみる価値はあるにゃ」

「大人の黒木がナクユへ来ている。感覚的にできそうだ」

 綾音ちゃんへ話す内容が決まったので姿勢を戻した。


「私が持っているナクユのジュエリーでは無理と思うけれど、ほかの方法なら行けそうよ。家に帰って調べる必要があるから、少しだけ時間をもらえるかな」

「いつでも構いません。早くパズルの世界を見てみたいです」


「綾音ちゃんなら楽しめるよ。私は特別な課題に挑戦しているから、ナクユへ行けたら手伝ってくれるかな」

「私からお願いしたいくらいです。1番尊敬しているみーなさんと、一緒にパズルを解きたいです。この内容はふたりだけの秘密ですか。嬉しいです」


 思った以上に綾音ちゃんが興味を示してくれた。非現実的で拒否されるとも考えたけれど、前向きに反応してくれて助かった。

 黒木さんが持っているナクユのジュエリーで、綾音ちゃんでも裏技を使えるかがナクユへ行ける鍵だった。成功すれば北側の未開地帯へ進めるから、次の課題は黒木さんの説得ね。無理となれば振り出しに戻ってしまう。

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