第33話 綾音ちゃんとお出かけ

 綾音ちゃんとは、近くの市で開催されるミネラルショーへ行って遊ぶ。前のミネラルショーに比べると規模は小さいみたいだけれど、見て回るのが楽しいみたい。

「今日は綾音ちゃんに会うから、うまくナクユの話ができるようにするね」


 家を出る前に、リビングでキリリキくんとロクヨちゃんへ説明する。

「期待しているにゃ」

「感覚的にうまくいくと思っているぞ」

「ふたりの期待に応えられるように頑張るね」


 出かける準備ができたので家を出た。地元の駅で待ち合わせて、私の自動車で会場まで移動する。駅に向かう自動車の窓からは、梅雨前の時季で天候がよかったので山もよく見えた。忘れずにナクユのジュエリーも持ってきた。


 前日までキリリキくんとロクヨちゃんと話し合った。綾音ちゃんをナクユに誘う妙案は思いつかなかったけれど、綾音ちゃんはナクユの噂を聞いている。そこから突破口を見つけるしかない。


 電車が到着したので改札口で綾音ちゃんを待つ。スーツ姿の男性が通り過ぎたあとに、階段を上ってくる綾音ちゃんの姿があった。

「ここまで来てくれてありがとう。電車に乗っている時間は長かったかな」

「1番尊敬している、みーなさんの誘いなら何処へでも行けます。嬉しくて時間は気にならなかったです」


「私に気を使わなくて平気よ。無理な場合は言ってね」

 駅前に止めた自動車まで綾音ちゃんを案内する。混む時間帯は自動車を止めるのも大変だけれど、この時間帯は直前に来ても余裕だった。綾音ちゃんを助手席に乗せて自動車を走らせた。


 後部座席にはキリリキくんとロクヨちゃんがいる。人目のない場所では綾音ちゃんの話を聞いてもらう手はずとなっていた。

「みーなさんは運転ができるのですか。私は免許を考えていませんでした」


「県内では自動車が必修よ。買い物でも遊びへ行くにも、自動車がないと移動手段が乏しいかな。お店の駐車場は広いから止めるのは楽よ」

「わたしには難しそうです。ここは観光地が多くてドライブも楽しそうです」

「今の季節は山へのドライブもよいかもね。温泉も多いよ。今度一緒にドライブにでも行く?」


「絶対に行きたいので約束です。もちろんふたりきりで、今から楽しみです」

 隣で綾音ちゃんが喜んでいる。よほど嬉しいみたいで、私も綾音ちゃんと会うのは楽しみでもあった。川を渡ると橋の上からも山がよく見える。


「紅葉のドライブも捨てがたいよね。考えておくね」

「周囲に山が多いので自然が豊かと感じます」

「田舎だからね。ミネラルショーの開催場所は知っているから、30分ほどで着くと思うかな」


「みーなさんの地元まで来て、ミネラルショーで申し訳ないです。でもめったに来られない場所で行ってみたかったのです」

 謝る綾音ちゃんへ笑顔で応える。

「気にしなくて平気よ。私も宝石を眺めるのは楽しいしね」

 話をしている間に目的地へついた。


 チケットを買って会場の中へ入ると、狭いながらも人は多かった。

「みーなさんは、どこかみたいお店はありますか」

「とくにはないけれど、珍しい宝石はみたいかな」


「レアストーンと呼ばれる稀少な宝石もあります。見てみますか」

 綾音ちゃんが私の顔を覗き込んできた。レアというくらいだから、きっと珍しいはずよね。笑顔を見せる綾音ちゃんは私の言葉を待っているみたい。


「ぜひ案内してもらえるかな」

「わかりました。ここから1番近いお店に行きます」

 私の腕を取って綾音ちゃんが歩き出す。

「綾音ちゃんが知っているお店かな」

 即答だったので聞いてみた。


「事前にフロアマップを見てきました。お店の特徴は覚えています」

「すごい暗記力ね。それでどのような宝石なのかな」

「見てからのお楽しみです。レアストーンといっても、正真正銘のレアな宝石はめったに出展されません。普通よりも珍しいくらいと思ってください」


「それでも楽しみよ。パズル作りの情報で誕生石くらいは調べているけれど、実物はあまり見ないからね」

 話しているうちに綾音ちゃんが立ち止まった。


「このお店です。トラピッチェエメラルドという珍しい宝石です」

 綾音ちゃんが宝石の入っているケースを指さした。ケースの中を見ると、エメラルド色をした宝石がある。よくみると中央から外側へ延びた6つの黒い筋があった。


「模様が6分割されていて面白いルースね。トラピッチェはどのような意味かな」

 横にいる綾音ちゃんへ聞く。

「サトウキビなどを作るときに使われる歯車が由来です。宝石の中には見た目からとった名称や、人や地域に関連した名前もあります」


 宝石に関する知識を惜しみなく教えてくれる。趣味で好きなのもあるけれど、綾音ちゃんの記憶力のすごさには驚いた。

 綾音ちゃんの話を聞きながら、いろいろなお店を回る。気がつくといつの間にか午後1時をだいぶ過ぎていた。


「昼食にしましょうか。綾音ちゃんは何が食べたいかな」

「みーなさんが選んでくれたお店なら、何処でも平気です」

 地元ではないけれど、近くにイタリアンレストランがあったのを思い出す。


「パスタやピザとかでも大丈夫かな」

「問題ないです。どのようなお店か楽しみです」

 綾音ちゃんも平気みたいなので、目的のお店へ自動車を向かわせた。

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