第8章 特別な課題と人間の大人

第32話 気になるパズル

 翌日は9時過ぎに目が覚めたけれど、思っていた以上に疲れている。ベッドで仰向けのままで5分くらい休んだ。いつまでも寝ていられないので、気合いを入れて起き上がった。着替えて窓を開けると、気持ちよい風が入り込んでくる。


 リビングに着くと、キリリキくんとロクヨちゃんが待っていた。

「人間の大人はいないのか。早く探さないと言葉の塔に行けないぞ」

 キリリキくんはすぐにナクユへ行きたいみたいで、私も特別な課題を早く進めたかった。特別な課題のパズルを解くのは今から楽しみでもある。


「思いつくのは今のところ黒木さんのみかな。ナクユも知っているから、特別な課題を理解してくれる」

「黒木さんはパズルが得意かにゃ? 連れて行くのに重要にゃ」

「パズル編集者だから可能性はあると思うよ。パズルを送るときに聞いてみるね」


 最初はキリリキくんとロクヨちゃんにナクユへ連れて行かされた。半ば強引だったけれど、今はパズルも解けて行くのが楽しみになっている。ナクユの世界は好きになってきたから、パズルが得意な大人を早くみつけたい。

 ナクユへ行く前に片付ける仕事があった。締め切りが近いパズル作成と、安藤先生が作ったオリジナルパズルの確認だった。


 本屋でパズル雑誌を買って、寝室で安藤先生のオリジナルパズルを確認する。

「私が考えたオリジナルパズルとやっぱり一緒ね。例題の解き方も考えていた例題に似ているから、気のせいとは違うと思う」


 偶然の一致もあるけれど一緒のルールが気になった。私のオリジナルパズルを知っているのはふたりしかいない。作成支援ソフトを作成した佐野君がひとり目で、もうひとりは編集者の黒木さんだった。黒木さんは時間的に無理と思う。


「佐野君は安藤先生と知り合いかな。今までは話題にも出てこなかった」

 雰囲気から接点はないと思うけれど確認は必要ね。今の時間は中途半端な午後2時で、お店は午後3時まで開いている。佐野君が勤めているうどん屋へ向かった。


 のれんが入口にかかっていて、なんとか間に合った。扉を開けて中に入ると、佐野君が元気な声で迎えてくれる。ほかにお客はいなかった。

「いらっしゃい。今日はどうしたの?」


「仕事をしていたらこの時間になって遅い昼食よ。野菜天ぷらうどんをお願いね。食べたあとに少し時間を取れるかな」

「少しなら平気だよ。食べ終わったら声をかけてよ」


 佐野君は厨房へと姿を消した。麺類は早さが命なので、時間をかけずに野菜天ぷらとうどんが運ばれてきた。野菜天ぷらは揚げたてで美味しくて、衣が薄いから素材の味を感じやすかった。


 食事が終わって目の前の席に佐野君が座った。

「この前の作成支援ソフトは助かったから、お礼を言いたくて来たかな」

「わざわざ来なくても平気だよ。俺のソフトが役に立って嬉しい」


「うどんも食べたかったしね。佐野君自身はパズルを解いたりするのかな」

 今日きた目的のため、パズルに関する話題をだした。

「滅多に解かないよ。パズル雑誌はたまに買って、プログラム作成の参考にする」


「パズルクリエーターの安藤先生を知っているかな。パズル業界では有名な人よ。いろいろなパズルを作っていて、プログラム作成に役立つかもね」

「参考にしてみるよ。買っているパズル雑誌に載っているだろうか」

 佐野君が聞いてきた。


「自分の名前が付いたパズル本もある、安藤丈太郎先生の名前は知っているかな」

 自然な感じで佐野君の顔色を見たけれど、首をかしげる様子はなかった。

「パズルを作る人の名前は見ないから分からないよ」


 言われてみれば確かにその通りだった。安藤先生の名前を聞いても驚いた様子はなくて本当に知らないみたい。安藤先生は綾音ちゃんが同じパズル雑誌で活躍しているから、綾音ちゃんに聞いてみるのもよさそう。

「本屋で売っているから今度探してみてね」

 もう一度作成支援ソフトのお礼を言って、お店をあとにした。


 家に着くと安藤先生の件は保留にした。

 締め切りが近いパズル作成に取りかかる。オリジナルパズルでは別解の確認に時間を費やしたけれど、なにごとも確認が重要だった。夕方過ぎには予定数のパズルが完成して最後に黒木さんへメールを送る。パズルを解くのが得意かも一緒に聞いた。


 綾音ちゃんには遊べないかとメールを出す。安藤先生のパズルは遊びながら聞くのが1番と思う。綾音ちゃんにナクユの件を話す時期はまだ考え中だった。

 今日の予定が終わってリビングでくつろいだ。テーブルの上にはキリリキくんとロクヨちゃんがいる。


「人間の大人は見つかったか。感覚的に特別な課題はあと少しで終わるぞ」

 相変わらずキリリキくんはせっかちだった。ふたつの特別な課題が同じ場所になっていたので、その時点で終わりが近いと私も感じた。


「可能性はふたりね。実際にナクユへ行ける黒木さんとパズルが得意な綾音ちゃんかな。でも綾音ちゃんはナクユを知らないから、説得できるかが課題よ」

「ふたりには聞いたのか? 結果をすぐに知りたいぞ」

 キリリキくんが聞いてくる。


「黒木さんにはメールで聞いているよ。綾音ちゃんには会えないか確認している」

「どちらかがナクユへ行ければよいにゃ。特別な課題が進むにゃ」

 ロクヨちゃんの発言と同時にメールが届いた。綾音ちゃんからで、私の地元で遊びたいみたい。候補日と何がしたいかを聞き返した。


「黒木さんからもメールが届いているかな。確認してみるね」

 仕事のメールはパソコンのメールソフトを使っている。同じパソコンでパズル作成とメールが送れるから便利だった。寝室にはキリリキくんとロクヨちゃんも来て、新着メールを確認すると黒木さんのメールがあった。


「何が書いてあるにゃ。仕事の話しかにゃ。パズルが得意かはわかったかにゃ」

 ロクヨちゃんがのぞき込んでくる。

「仕事で送ったパズルのお礼よ。黒木さんはパズルが得意ではないみたいね」

「黒木だと勘が鋭い少女の話に当てはまらないぞ。残すは菊池のみだ」


「綾音ちゃんはパズルが得意で、パズルクリエーターの中でも優秀ね。問題はナクユを信じてくれるかよね」

 ナクユの説明方法を考える必要があった。綾音ちゃんから返信メールが届いて、何度かのやりとりで遊ぶ日程が決まった。

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