第31話 軽快な指輪の回復

 キリリキくんに案内された場所は町外れだった。川を渡った先にあってキリリキくんの家と反対方向になる。2階建ての1軒家が目立っていて、ぬいぐるみを見かけるのみで子供は見当たらない。


「この建物で課題を受けられるぞ。成功すれば軽快な指輪がまた使える」

 目の前には丸い屋根の建物があった。何かのお店かもしれないけれど、窓にはカーテンが引いてあって中の様子は見えない。


「課題のパズルがあるのよね。すぐに解いて終わりにするね」

「感覚的に並戸なら平気だと思うぞ」

 扉を開けて中に入ると、キリリキくんとロクヨちゃんもあとに続いた。室内は薄暗くて、目が慣れると棚の多さに驚いた。形や色の違う瓶が多く並べてあって、室内を見渡したけれど誰もいない。


「留守なのか気配がないよね。瓶が多いけれど何のお店かな」

「薬品を売っている店だぞ。奥で寝ているはずだ。連れてくるが瓶には触れるな」

 留守ではないようだけれど、店内に誰もいなくて平気なのかな。滅多に子供が来ない場所かも知れない。瓶の中身が薬品だったら、たしかにさわると危険ね。


「ナンバープレース国にも、薬品を売るお店はあるのかな」

「似たようなお店はあるにゃ。薬草の匂いが充満しているにゃ」

「人間の子供も来るのかな」


「中立地帯で課題があると、来る場合もあるにゃ。でも滅多にないにゃ」

「私が解いた課題も該当するのね。同じ難易度なら子供には難しいから、滅多に来ないのも頷ける」


 用事があるときは時間をかけたくないから、中立地帯で課題をしたくない。軽快な指輪の利用価値は大きいけれど、本来は簡単に手に入らない品物と思う。

 キリリキくんが戻ってくると、後ろから太ったぬいぐるみが歩いてくる。スカイカス師匠に近い印象だった。


「楽しみな昼寝を邪魔したのは人間の大人か。ルールだから仕方ない。すぐに始めて終わりにするか」

 ゆっくりとした動作で椅子に座ったあとに、私へ向けて手を差し出した。

「軽快な指輪を渡せば課題が始まるぞ」

 キリリキくんの言葉に従って軽快な指輪を渡す。


 太ったぬいぐるみが明かりを点けて、軽快な指輪を眺め始めた。そのまま動かなくなって、動きも遅く眠ってしまったのか心配になる。言葉をかけようと思った矢先に動き出して、テーブルの引き出しから紙を取り出した。


「この課題を解けば軽快な指輪を使えるようにする。終わったら起こしてくれ。この椅子でひと休みするか」

 太ったぬいぐるみはテーブルに紙を置いて明かりを消した。椅子の奥深くに座り直して眠るように頭をたれた。もう眠ってしまったのかはわからない。


「課題が始まったぞ。並戸なら時間はかからないはずだ」

「この紙に課題が書いてあるのね。どのようなパズルでもすぐに解くよ」

 中身は12×12サイズのクロスワードでヒントは50以上ある。パズルクリエーターとして興味があるヒントもあったけれど、子供が解くには大変だと思った。でも私には気にならないサイズね。


「このサイズは俺も頑張れば作れるぞ。並戸は解けそうか」

「全部のマスを埋め終わると完了みたいね。ヒントも考えられていて解くのが楽しみね。早解きではないから味わって解こうかな。でも時間はかからないよ」

 変則的な解き方は不要でタテとヨコのヒントを交互に読んだ。文字数と交差のマスを意識して記入した。ふたつの答えが浮かんだ場合はマスに小さく文字を書いた。


 順調に文字が埋まって、わかりやすい名詞が多かった。でもヒントが工夫されていたので楽しめた。時間を忘れて答えを考えた。全部のマスに文字が埋まると、答えが合っているのを確認する。


 視線を上げるとキリリキくんとロクヨちゃんの顔が近くにあって、私が解くのを見ていたみたい。

「紙を渡せば課題が解決したかわかるぞ。判断は並戸に任せる」

 太ったぬいぐるみが座っているテーブルに紙を置いた。目をつぶっていて、まだ眠っているのかもしれない。


「解き終わったよ。確認してね」

 声に反応して太ったぬいぐるみが目を開けた。明かりを点けて紙を手に取る。

「答えは合っているか。軽快な指輪を使えるようにする。そこで待っていろ」

 立ち上がると歩き出した。ゆっくりとした足取りで近くの棚まで移動して、棚にあった瓶をふたつ手に取る。両方とも手に乗るくらいの大きさだった。


 元の椅子に座るとテーブルに軽快な指輪を置いた。両手にそれぞれ瓶を持って瓶の口を傾けた。片側の瓶からは緑色の煙がもうひとつの瓶からは青色の煙が現れる。軽快な指輪へ滝のように降り注いで、数秒で煙が消えた。


「不思議な煙ね。いつの間にか宝石の色が青色に戻っている」

「元の状態に戻ったか。これでゆっくり眠れるか。用事が終わったら帰ってくれ」

 私の返事を待たずに太ったぬいぐるみは奥へ消えていった。よほど眠いのか怠け者なのかもしれない。でも無事に軽快な指輪は元に戻った。


「これで完了だぞ。このあとはどうする?」

「もうひとりの大人を探す必要があるよね。時間がかかると思うから、今日はここまでで終わりにするね」

 大人がもうひとり必要でこれ以上は進められない。ナクユをあとにした。

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