第7章 数理系パズルと文字系パズル

第28話 早解き競争

 サムクロス国で目を覚ました。あまり目立ちたくなかったので、中心部から外れた噴水のある公園に移動する。ベンチに座って王家の本を開いた。

「お手頃サイズでルールも普通のサムクロスね。肩慣らしにちょうどよさそうよ」


 次に向かう場所のヒントもあった。最初はパズルを解いて、使われた数字の数から方角を出すみたい。パズルの大きさは9×9と小さくて気軽に楽しめそう。ナクユへ来てパズルを解くのは嬉しい限りね。今日はいっぱいパズルを解きたい。


「美奈さんなら簡単に解けると思うにゃ。頑張るにゃ」

 ロクヨちゃんに応援されながらサムクロスを解き始めた。

 最初は何も考えずに確定する数字を記入したけれど、思ったほど決まる数字は少ない。ロクヨちゃんが私の解き方を見ていたので、視線をむけると笑ってくれた。キリリキくんは離れた芝生の上で遊んでいる。キリリキくんらしかった。


 集中力を高めてからパズルに視線を戻した。未確定なマスがあるので、候補となる数字を小さく書き込んだ。ほかのマスで数字が確定すると一挙にマスが埋まる場合があって、気分が爽快になる瞬間でもあった。


 仮定の数字を増やして確定するマスを探した。サムクロスは久しぶりに解いたからか、思った以上に時間がかかった。それでもほかの人に比べれば充分に早く解いている。最後に合計の数字を調べた。同じ数字がないかも確認して間違いはなかった。


「次の場所よね。北に5、東に12よ。ロクヨちゃんはこれでわかるかな」

「サムクロス国からの距離と思うにゃ。推理パズル国がちょうど当てはまるにゃ」

「北側の未開地帯手前だ。俺はまだ行っていない国だぞ」

 キリリキくんも近くに来ていた。


「私も滅多に行かないにゃ。とても小さな街で何もないにゃ」

「案内をお願いね。次のパズルも楽しみよ」

 サムクロス国の正門から外に出て、推理パズル国へと向かった。


 北に行くので寒くなると思ったけれど、予想に反して気候は変わらなかった。台風など危険な天候を見ていないのは、ナクユが子供向けのためかもしれない。日本の春を思わせる天候が多いので、新緑を目にすると心地よい気分になれる。


 中立地帯を進んでいるとぬいぐるみを見つけた。姿はロクヨちゃんに似ている感じで体は小さかった。木の根元で下を向きながら彷徨いている。

「何かを探しているのかな。無くした物があれば一緒に探すよ」

 困っているのなら助けてあげたかった。小さいぬいぐるみは動きを止める。私のほうを向いた姿はロクヨちゃんよりも幼さを感じた。


「軽快な指輪をなくしたの。お姉ちゃんが来たから見つかる可能性がでてきたの」

 小さいヌイグルミが答えてくれた。

「どのように探すのかな。指輪だから小さいよね」


「並戸は勝手に話を進めるな。課題が発生する。感覚的にわかるだろ」

 キリリキくんだった。

「私とパズルで勝負するの。お姉ちゃんが勝てば軽快な指輪が見つかるの」

「遅かったにゃ。課題が始まったにゃ。美奈さんはパズルを解く必要があるにゃ」


 ロクヨちゃんの言葉で、前に言っていた課題だとわかった。小さいぬいぐるみは紙を私に渡そうとしている。きっと課題のパズルだと思う。寄り道になるけれど相手はパズルだから正々堂々とパズルを解いてみたい。


「少しだけ時間を使うね。私ならすぐ解けるよ」

 小さいぬいぐるみから紙を受け取った。中身を確認するとナンプレで、サイズは大きくて16×16だった。歯ごたえがあって楽しめそう。


「私とどちらが先に解けるかを競争するの。お姉ちゃんが勝てば、軽快な指輪が見つかるの。見つかったらあげるね。軽快な指輪は便利なの」

 パズルに勝てば報酬として軽快な指輪をもらえるので、効果が楽しみだった。ナンプレの早解き勝負なら圧倒的な速さで勝ってみせる。


「私は準備ができたよ。いつでも勝負を受けられる」

「勝負を始めるの。解き終わったら私に見せるの」

 小さいぬいぐるみがパズルを解き始めたので、私も紙面に視線を移した。使う数字の数は多いけれど通常の解き方と変わらない。純粋にパズルを楽しめる。


 数字を順番に確認すると確定できる数字がある。仮定の数字は小さく書き込んでいく。タテとヨコの列に注目して10分を過ぎると半分以上のマスに数字が埋まる。完成が見えてきて埋めた数字に間違いはない。解きながら同時に確認していた。


 15分後に全てのマスに数字が埋まる。私には手頃な難易度で楽しめた。

「終わったから、合っているか確認してね」

 小さいぬいぐるみに紙を渡した。視線を移動させて、小さいぬいぐるみのパズルを覗いた。数字は半分程度が埋まっていたので、早く解きすぎたみたい。でも子供相手なら小さいぬいぐるみも早いと思う。本来は難しい課題みたいね。


「答えは合っているの。お姉ちゃんの足元に軽快な指輪があるの。お姉ちゃんは勝負に勝ったからあげるの。身につけると中立地帯の移動が楽になるの。でも宝石が赤色に変わると普通の移動に戻るの」


 足元に落ちている青い宝石の指輪が軽快な指輪みたい。軽快な指輪を拾って眺めると、透き通るような青色だった。

「喜んでもらうね。さっそく着けてみようかな」

 左手の小指にはめると、ちょうどよいサイズだった。小さいぬいぐるみは手を振って去ったので、これで課題は解決みたい。


「中立地帯で課題に合わない指輪にゃ。移動が楽になるにゃ」

「特別な課題を進めるにはよさそうね。このまま着けて進むよ」

「出発するぞ。遅れた時間は取り戻す」

 キリリキくんはいつも通りにせっかちだった。特別な課題も早く進めたいから、キリリキくんと同じ意見でもある。早く推理パズル国に着いてパズルを解きたい。


 軽快な指輪のおかげみたいで何事もなく推理パズル国へ到着する。ロクヨちゃんが話したとおりで、一目瞭然で小さな街とわかった。

「山間部の街並みを思い出す場所ね。建物の数は10軒程度かな」

「めったに子供も来ない場所にゃ。特別な課題を進めるにゃ」


 門をくぐると、お城と思われる建物が目の前にある。街を取り囲む壁が全て見渡せるほどの広さだった。推理パズル国のぬいぐるみにはまだ出会っていない。隠れられる場所はなさそうだから、道の端にある椅子へ座った。

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