第27話 裏技の確認

 裏技を確認する場所は黒木さんが勤めている編集部の一室となった。テーブルの上ではロクヨちゃんが静かにしている。

「ほかに適当な場所がなかったけれど、ここなら僕が眠っても心配ない」


「概略は昨日説明したとおりです。黒木さんがナクユへ行ってキリリキくんに会ってもらいます。私の確認が取れたら戻ってきて下さい」

「行く前に見て欲しいパズルがあるけれど構わないか? 編集者として気になったパズルがあった」


 私が答える前に他社のパズル雑誌を渡された。綾音ちゃんがパズルを載せているパズル雑誌で、編集者は他社にも目を通しているみたい。

「時間はあるので少しなら平気ですが、どのパズルですか」

「25頁に気になるパズルがあった。僕の見間違いではないと思う」


 言われた通りに頁をめくると、オリジナルパズル発表の文字が目に入った。安藤先生が作った最新オリジナルパズルで、中身を見て息が詰まった。佐野君に作成支援ソフトを頼んで、最近考えた漢字のオリジナルパズルと同じだった。


「私が考えたオリジナルパズルとルールが一緒です。例題も似ています」

「僕も驚いたから、あとで詳しく見ておいてほしい」

 安藤先生と同じパズルを考えた嬉しさはあったけれど、先を越された悔しさが上回ったのは、若手四天王としての誇りかもしれない。すぐにでも確認したいけれど、今は黒木さんの裏技が最優先だった。


「安藤先生のパズルは確認しますので、ほかになければ裏技を教えてください」

「裏技はナクユへ行く宝石を使う。宝石を強くさわると色が変化するけれど、その現象は知っている?」


 黒木さんはナクユのジュエリーを取り出しながら聞いてくる。私が持っているナクユのジュエリーと同じだった。黒木さんがナクユのジュエリーを強くさわると、あざやかな黄色に光り出した。


「七色のどれかに光って、ランダムに色が変わると思います」

「見た目でも楽しめるようにランダムで光るみたいだ。実は意図的に七色以外を出す方法がある。それが裏技だよ」

 黒木さんは奇妙な指の動きをさせながらナクユのジュエリーを強くさわる。今度は白色に光り出した。


「凄いです。七色以外でも光るのですね。ナクユのジュエリーには不思議さを感じますが、白色以外もありますか」

「ほかの色も出せるし、二色を交互に光らせられる。これから裏技を試すけれど、場所はクロスワード国近くにある中立地帯で間違いないかい?」

 黒木さんが確認してきた。


「ナンバークロス国側でお願いします。キリリキくんが近くにいます」

 黒木さんはナクユのジュエリーをおいて、顔を傾けてさわる位置を確認しているみたい。腕を器用に曲げてナクユのジュエリーを手にとった。


 赤色と青色が同時に光り出して次は白色へと変わった。1分くらいの間に何度も色が変化した。ナクユのジュエリーがテーブルに落ちると同時に黒木さんが眠った。

「ナクユへ行ったみたいだから、キリリキくんからの連絡を教えてね」


「探しているにゃ」

 ロクヨちゃんが状況を教えてくれる。

「見つかりそうかな」

「人影を見つけたにゃ。早いにゃ」


 時間がかかるかと思ったけれど、すぐに黒木さんと会えてよかった。

 5分としないうちに黒木さんが起き上がった。酔っているみたいで何もない空間を眺めている。少ししたら違和感がなくなったようで黒木さんがこちらを向いた。


「無事に会えたよ。ほかにも何か試したりはする?」

「裏技の確認ができて、ナクユへ行けるのが嘘ではないとわかりました」

「信じてくれて助かったよ。下手すると仕事に影響が出る」

「今日はもう帰りますので、残りはメールで連絡します」

 調べた範囲で黒木さんは嘘をついていないから、信用しても平気と思う。


 家に着いてから、姿を見せたキリリキくんに状況を聞いた。

「黒木が出現した瞬間は確認できなかった。でも指定地点の近くで見つけたぞ」

「帰りはどうだったかにゃ。裏技を使ったかにゃ」

「感覚的には普通と変わらなかった。ちゃんとナクユのジュエリーが出現した」


 ナクユでも問題はなかったみたいね。キリリキくんの勘は当たりやすいし、黒木さんは裏技でナクユへ行った。ナクユ的には問題かも知れないけれど、私の特別な課題とは関係がなさそう。


「黒木さんの件はこれで終わりにするね。さっそくナクユへ行ってパズルを解きたいかな。ロクヨちゃんの特別な課題を進めましょう」

「楽しみにしていたにゃ。私が美奈さんをナクユへ連れて行くにゃ」

 ナクユのジュエリーを手にとって、強くさわると黄色に輝きだした。光り出す色から視線をあげるとロクヨちゃんの目が赤く光る。私はゆっくりとまぶたを閉じた。

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