第25話 ナクユとゲーム

 黒木さんと会った日の夜にリビングで、キリリキくんとロクヨちゃんと一緒に話し合いを始めた。

「ナクユはオンラインゲームよね。違うゲームで遊んだ経験はあるけれど、ネットワーク上のみよ。ナクユは精神のみが行けるから、最新技術は凄いかな」


「ナクユはナクユだぞ。並戸はたまに難しい言葉を使う。人間の世界でどのように呼ばれているかは知らない。でも俺たちにはそれ以上でもそれ以下でもない」

 キリリキくんとロクヨちゃんはAIだと思う。ナクユの世界以外は学習していないみたいだけれど、自然な受け答えには驚きを隠せない。


「ナクユの話はあとで確認させてもらいたいけれど、まずは黒木さんの問題よ。キリリキくんとロクヨちゃんの感想を聞かせてもらえるかな」

 改めてキリリキくんとロクヨちゃんの顔を見渡した。


「感覚的に嘘はついていないぞ。俺の知らない言葉が多くて、気になる点は20年以上前に来たくらいだ。そんなにも長い期間は人間の子供たちを喜ばせていない」

「特に矛盾はないにゃ。視覚系は特殊な状態で生まれたにゃ。私たちのルールが適用されなかったから、立ち入り禁止地帯に入れたにゃ。美奈さんを助けられたにゃ」


 黒木さんが話した内容で、明らかにおかしな点はなかったみたい。個人的には黒木さんを信じたいけれど、今回の件は慎重に進める必要があった。

「並戸の感想はどうだ? 俺たちよりも黒木に詳しいだろ」

 キリリキくんが聞いてきた。


「返答に困る場面はなかったから嘘はついていないと思う。キリリキくんと同じ疑問はあって、ナクユが昔から存在していたかは確認したい。何か方法はないかな」

「ナクユの時間から逆算するのはどうかにゃ。人間の世界で1日が経過するにゃ。ナクユの世界では24日が経過するにゃ」

 ロクヨちゃんが提案してくれた。


「時間に差があるのを知らなかったぞ。夜があるのも人間の世界で初めて知った」

 ナクユの天候はよく変わるけれど、太陽が沈む姿は見ていない。時刻は全然気にしていなかったから確認が必要と思えた。


「ロクヨちゃん、何か調べる方法はあるかな。私もインターネットで検索してみるけれど、見つかる可能性は低いと思うのよ」

「情報が必要になると思ったにゃ。日中に確認したきたにゃ」


 ロクヨちゃんはナンプレを作っているから、理詰めで進めるのが得意に思えた。キリリキくんとロクヨちゃんの性格は、パズルと関係しているみたい。

「さすがはロクヨちゃん、仕事が早いね。結果はどのようになったのかな」

「まだ頭の中でまとまっていないにゃ。のちほど美奈さんに説明するにゃ」


 ロクヨちゃんにしては珍しくて、普段と異なって歯切れが悪かった。難易度が高いパズルと同じで、試行錯誤があるのかもしれない。

「俺は今すぐ知りたいぞ。感覚的にわかる範囲でかまわない」

 キリリキくんが詰め寄ると、ロクヨちゃんは尻尾を上下に振った。逃げるように歩き出したけれどキリリキくんが先回りする。


「説明が難しいにゃ。キリリキには理解できないにゃ」

「俺なら感覚的にわかるぞ。それとも話せない理由があるのか」

 ロクヨちゃんは迷っているようで、普段では見かけない態度だった。


「仕方ないにゃ。わかったにゃ。ムサシ国王に聞いた話しにゃ。ナユクの時間を人間の世界に換算したにゃ。ナクユは15年前後が1番古い歴史にゃ」

「5年も違うぞ。黒木が間違って覚えていたか、嘘をついていたかだ」


「ナクユもコンピューター上で動いているのよね。バージョンアップなどでナクユが止まって時間がずれた。理由としては考えられると思う」

 コンピューターも機械だから壊れるし、改善や修理でメンテナンスもする。止まらないほうが不自然だった。


「何を言っている。時間が止まるとはあり得ないぞ」

「キリリキの勘違いで、美奈さんが言ったのは違う意味にゃ。人間の世界とナクユの世界で時間換算が異なった時期があったにゃ。それに違いないにゃ」

 念を押す口調に違和感を覚えた。ロクヨちゃんの表情をみると言葉に出さずともわかった。真剣な眼差で私に訴えかけている。


「今と昔では時間換算が異なったのよ。こちらの世界での1日がナクユでも1日の頃があった。20年以上の昔でも辻褄が合うかな」

 ロクヨちゃんに会話をあわせると、視界の隅でロクヨちゃんがお辞儀した。


「感覚的にはよくわからない。でも並戸とロクヨがいうのなら間違いないだろう」

「私は黒木さんの話が本当と思うのよ。崩壊現象を修復するためにナクユへ来ているみたいね。ナクユにとっても悪い話ではなさそうよ」

 意図的に話題を変える。ロクヨちゃんの反応を考えると、キリリキくんにゲームやコンピューターの話は駄目だと思った。


「ナクユの住人から視覚系の情報を聞くにゃ。悪さをしていれば黒木さんが嘘をついているにゃ。悪さをしていなければ信じられるにゃ」

「ナクユの世界に害がなければ問題ないぞ。感覚的には俺も賛成だ」

 私ではナクユの住人から情報を聞き出せないから、キリリキくんとロクヨちゃんが調べる手はずとなった。


「視覚系の情報をお願いね。ロクヨちゃん、ナクユへ戻る前に話はできるかな」

「時間はあるから大丈夫にゃ。どのような内容にゃ」

「俺は必要ないのか。ナクユの情報なら俺も詳しいぞ」

 仲間外れと思ったのか、キリリキくんはすねたようにテーブルへ寝転んだ。


「ムサシ国王の情報を教えて欲しいのよ。キリリキくんも一緒に聞く?」

「ムサシ国王か。俺は先にナクユへ戻るぞ。文字系の国は任せておけ」

 キリリキくんは起き上がって、両手を振ると姿を消した。相当にムサシ国王が苦手みたいね。それとも理詰めが多い数理系全般が苦手なのかもしれない。


「ムサシ国王の何が知りたいにゃ? 私も詳しくは知らないにゃ」

「キリリキくんを帰す口実よ。本当に知りたいのは時間換算の話しね。ロクヨちゃんの態度がおかしかった」

 ロクヨちゃんの顔をじっとみる。


「話を合わせてくれて助かったにゃ。キリリキには話せないにゃ」

 思ったとおりだった。わずかの違いはパズルで鍛えているから、いつもと異なる表情はひとつも見逃さない。


「キリリキくんに何かを隠しているのよね。話せない理由は何かな」

「ナクユがコンピューター上のゲームとキリリキは知らないにゃ。私とムサシ国王以外は知らないにゃ」

 意味を理解するまでロクヨちゃんを凝視した。

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