第24話 思い出の場所

 黒木さんの話が本当か嘘かはいったん保留にした。家に戻ったらキリリキくんとロクヨと一緒に確認できるから、今は多くの質問をしたい。

「裏技の種類もいろいろあると思います。どのような内容か教えてください」


「正規な入口以外から、ナクユに行ける方法を見つけた」

「20年間もナクユに来たのですか。それとも最近になって来ているのですか」

 当初予定した質問と近い内容で、頭の中で同時に複数の処理をしている。パズルを解くのと同じ感じで私なら苦にならない。早解き競争でよく使う技でもあった。


「だいぶ前にナクユがまだ稼働していると知った。普通の方法で行くと強制的に戻されたから裏技を使った。あとで知ったのだが大人は行けなくなっていた」

「子供しか行けないみたいです。昔から大人は無理だったのですか」

「普通にいたと思う。少なくとも昔はナクユで大人を見かけた」


 キリリキくんとロクヨちゃんはおとなしく座っている。直接聞きたい内容があるかもしれないけれど、質問は全て私の担当だった。

 視線を黒木さんに戻して、続きの質問を開始した。


「視覚系がいましたが、一緒にいたぬいぐるみとはどのような関係ですか」

「裏技を使うと背景が入口になって、元あった背景は破片になってしまう。希に破片がキャラクターに変化するけれど、そのほとんどが視覚系になったよ」


「背景が変化するのなら、崩壊現象の原因は裏技ですか」

 黒木さんに崩壊現象が何かを説明したら、雰囲気は伝わったみたい。

「並戸さんが言う崩壊現象は僕もよく知っている。裏技は崩壊現象に似ているけれど別の現象だよ。問題は今発生している崩壊現象で裏技とは別で出現している」


「崩壊現象は複数の種類があるのですか。それとも違う現象ですか」

「詳しくないが厳密には違うはずだ。裏技を使うと背景はなくなるが、時間が経つと元に戻っている。システム側で修復していると思う。裏技をシステム側に見つかりたくないから、ナクユへ着いたらすぐに入口は塞いでいる」


 崩壊現象は破片が消えると元に戻らないから、裏技は似ているけれど別な現象に思えた。崩壊現象の詳細は私もわからないから、ほかの質問で情報を増やしたい。

「大人はナクユで遊べませんが、何の目的でナクユへ来ているのですか」

「今起きている崩壊現象を視覚系と修復しているけれど、それが僕のナクユへ行く理由だよ。ナクユは思い出の場所だから、定期的にナクユへ行っている」


 黒木さんがナクユに行く目的がわかったけれど、複雑な話になってきた。別解があるパズルを修正している感じで、頭の中を整理する。

「視覚系のぬいぐるみですが――」

 30分以上の時間を使って質問したけれど、黒木さんは積極的に答えてくれた。予定していた質問が全部終わったので、今日の目的は果たせた。


「まだ僕の言葉を信用できないと思うから、不明点があればいつでも答えるよ」

「どのような質問にも答えて頂けましたので助かりました。今日はもう質問はありませんが、不明点が出てきたらまた教えてください」


「ほかになければ仕事の話をしても平気かい?」

 私が知りたい内容はもうないので断る理由はなかった。

「聞きたい内容は終わりましたから仕事の話も平気です。ただパズル関連の資料はもってきていないです」


「進捗が知りたいだけだよ。依頼しているオリジナルパズルの手応えはどう?」

「作っている途中ですが、半分程度は完成しました。数日後には送れます」

「順調でよかった。楽しみに待っているよ」


 パズル作成は順調で佐野君が作った作成支援ソフトが役に立っている。今考えている漢字のオリジナルパズルが頭に浮かんだ。黒木さんの言葉も一緒に思い出した。

「変わったパズルを探していましたよね」

 今度は私のほうから質問した。


「企画のひとつで考えているけれど、思いついたパズルでもある?」

「漢字を使った新たなオリジナルパズルがあります」

「すごく興味がある。オリジナルパズルは喉から手が出るほどほしいから、ルールや雰囲気だけでも説明してほしい」


 鞄からペンとノートを取り出して、ルールから説明を始めた。黒木さんから質問を何度から受けて、なるべく分かりやすいように答える。黒木さんの顔色をうかがうとパズルへの印象はよさそうだった。

 仕事の話も終わったので、黒木さんを駅へと送った。

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