第23話 ナクユへ行く方法
ナクユのジュエリーを鞄にしまって自動車で駅へ向かった。キリリキくんとロクヨちゃんには姿を消してもらう。午後1時半頃になると時刻通りに電車が到着した。
「わざわざありがとう。知っている内容は何でも話すよ」
挨拶が終わると黒木さんが答えてくれた。
「自動車で移動しますので、到着したら質問させてください」
駅前で黒木さんを自動車に乗せて、橋を渡って市街地を通り抜けた。静かで知人に会いにくい山付近にあるカフェへ向かう。会話はなくて雑音のみが聞こえる。
大学を過ぎると両側に山並みが迫って濃い緑が目を癒やした。道路と川の間には田んぼが多くあって、街中よりも涼しく感じる。
20分ほどで目的のカフェに着いた。先着は女性2人の1組だけで、ほかの人から目立たない席に座る。注文したコーヒーがくると、すぐに本題へと入った。
「黒木さんがナクユにいて、いろいろな意味で驚きました。どうしてナクユにいたのか教えてほしいです」
黒木さんの目をじっとみつめる。
「突然で戸惑ったと思うけれど僕も驚いたよ。ナクユは特殊な世界だから嘘をついても意味がない。知っている情報は何でも話すよ」
真剣な表情で黒木さんも答えてくれた。
「詳細を聞く前にひとつ確認させてください。ナクユに来た人間は、ナクユの住人を認識できます。念のために試してもよいですか」
「別に構わないよ。こちらの世界でキャラクターが見られるには貴重な体験だ」
黒木さんはぬいぐるみをキャラクターと呼んでいた。鞄の中でナクユのジュエリーを握ると、キリリキくんとロクヨちゃんがテーブルの上に出現する。あらかじめ座る位置も決めておいた。
「住人を出しました。ぬいぐるみはいくつ見えますか」
「実際よりも小さくて確かにぬいぐるみみたいだ。全部で2体いるね」
黒木さんの視線は、キリリキくんとロクヨちゃんの位置で止まる。当てずっぽうではないようにみえるけれど、念のためにもうひとつ確認した。
「ぬいぐるみが何をしているのか、教えてください」
「両方とも座っている。あっ、クロスワードのキャラクターが動いた」
間違いない。黒木さんは確実に姿をとらえている。
「確かに見えていますね。初めてナクユへ行った人に会いました。クロスワードがキリリキくんで、ナンバープレースがロクヨちゃんです」
キリリキくんは大げさな挨拶で、ロクヨちゃんはおしとやかな挨拶だった。黒木さんは挨拶の動きに驚いたみたい。キリリキくんとロクヨちゃんを眺めてから、遅れて右手を挙げて答えた。
「キャラクターは動けて、実際に見られるとは思わなかった。技術進歩は凄い」
「仕組みは私にもわかりませんが、触るのは無理みたいです」
黒木さんはキリリキくんとロクヨちゃんの姿を再度見ていた。最初は私も同じで何度も確認したのを思い出す。
「時代は進んでいる。それで僕に聞きたい内容は何だろうか」
「知りたい情報はいっぱいありますが、最初の質問はあの場所にいた理由です」
「異変を感じて向かったら、並戸さんがいるとは思わなかった」
「ナクユにはどのように来たのですか」
1番重要な質問を聞いた。特別な大人以外は来られないはずだから、最大の謎は黒木さんがナクユに来られた理由だった。
「わかりやすく言うと裏技を使ったよ。子供の頃にプレーヤーとして、ナクユに参加していたときに裏技を見つけた」
ナクユは最近できたと思っていたから、昔からナクユがあったのには驚いた。本当かどうかは、あとでキリリキくんとロクヨちゃんに確認したい。次に聞く質問は、当初の質問か初めて聞いた裏技かで迷った。
「子供の頃に参加していたのですか。ナクユはいつ頃からあるのですか」
時系列が整理もしやすいと思って、ナクユの始まりから聞いた。
「僕の参加は20年以上も前だよ。ネット上でゲーム好きが集まる場所があって、そこでオンラインゲームのβ版募集があった。当選したら宝石が送られてきて、ネックレスになった宝石を使うとナクユに行けたよ」
黒木さんがもっているナクユのジュエリーは、私と変わらないみたい。
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