第19話 物知り老婆とパズル

 課題に集中したかったので静かな場所を探してもらった。キリリキくんが見つけてくれた場所は、街の外れにある古びた建物だった。

「使われていない建物だ。誰も来ないはずだから、頑張って考えてくれ」


 以前はこの場所で子供たちにパズルを出題していたみたい。今は他の場所に変わったとキリリキくんが話してくれた。

 広い部屋だったで歩きながら考えを巡らした。河川敷でのジョギングに雰囲気をまねてみる。オリジナルパズルの案出しには体を動かすのが、昔からの癖だった。


「左に文字系を右に数理系を作って、中央で結合させれば形になる。2種類を使う意味が薄くなって、納得はできないかな」

 頭の中で文字と数字や記号をまき散らしながら、適当に組み合わせてパズルの形になるか想像する。オリジナルパズルは既存パズルの延長上が多かった。


 種類が異なるパズルの組み合わせは経験が少なかったけれど、過去の作品で課題に該当するパズルはあった。そのパズルを使うと課題に負ける気がしたので、新たに作って堂々と課題を解決したい。

「まだ課題はできないのか。早くしないとスケルトン国へ行けないぞ」

「慌てても仕方ないにゃ。オリジナルパズルは作るのが難しいにゃ」


 ロクヨちゃんは心得ている。少し考えた程度では思い浮かばない。オリジナルパズルは簡単に作れないから重宝される。でも今考えているのは私で、若手四天王の名にかけて止まるわけにはいかない。

「私に任せれば平気よ。おぼろげながら頭の中に浮かんでいるかな」

「交差の辞書がかかっている。期待しているぞ」


 天井へ顔を向けて目もつぶった。慌てないのが大事で、ゆっくりと首を回して頭の中を空っぽにする。電脳空間でも肩こりはあるか分からないけれど、少しだけ頭の中がすっきりしてきた。


 今度は目を開けたままで首を回す。キリリキくんは床に寝ていて、ロクヨちゃんは立ったまま、おとなしくしていた。キリリキくんは飽きてきたのか寝たままで転がり出した。


 対照的なキリリキくんとロクヨちゃんで、動くキリリクくんと止まっているロクヨちゃんが重なる。頭の中に鮮明な画像が浮かんだ。

「それよ。キリリキくん、ロクヨちゃん。オリジナルパズルができた」


 タテとヨコの列を考えて、文字系と数理系のパズルを各列に当てはめる。交差するマスには共通する数字を入れれば、両方を使う意味がある。水が溢れだしたように案が押し寄せてきた。


「課題のパズルができたのか。並戸もやればできる。感覚的に見直したぞ」

 キリリキくんは立ち上がって私の元へ駆け寄る。ロクヨちゃんも近くに来た。

「詳細は詰める必要があるけれど、理屈的には作れる」

 ルールや解き方を説明するために、7×7のマスで簡単な例題を作った。


「基本はクロスワードとサムクロスよ。タテがクロスワードで、ヨコがサムクロスのルールになる。このままのルールでは不十分で、タテと交差しないヨコのマスが問題になるかな。入る数字が未確定になりやすいのよ」

 キリリキくんとロクヨちゃんが理解するまで待った。


「ふたつ以上あると未確定になりやすいにゃ」

「感覚的に別解を作りやすいと思うぞ。もちろん俺なら別解は作らない」

 現状のルールを把握してくれたので、続きを説明した。


「ひとつだけルールを追加するのよ。ヨコの列には区切りごとに、左から小さい数字を入れる。この追加ルールで別解を避けられる」

「さすがは美奈さんにゃ。短時間でオリジナルパズルを作ったにゃ。凄いにゃ」

 ロクヨちゃんが感心してくれた。


「例えばタテが一石二鳥で、2がヨコと交差する。ヨコは3マスでヒントが8。ヨコは1と2と5の順番で確定となるのよ。パズルクリエーターとしては気になる部分があるけれど、短時間で考えた割には上出来かな。このパズルで勝負する」

「物知り老婆の課題にはあっていそうだ。並戸がよいのなら俺は構わないぞ」

 キリリキくんは私に一任してくれて、中身には口を出さなかった。


 物知り老婆の前に立ってオリジナルパズルのルールを説明した。物知り老婆は例題を見ている。オリジナルパズルが採用されるかを待っている感じだった。自分自身で納得したパズルなので却下は考えていない。


 物知り老婆が立ち上がると、何も言わずに奥の部屋へ消えた。床を叩く杖の音が小さくなって聞こえなくなる。何処に行ったのか私にはわからない。

 キリリキくんとロクヨちゃんをみると、神妙な顔つきで奥の部屋をみていた。声をかけるかどうか迷っていると杖を叩く音が聞こえてくる。戻ってきたみたい。


 物知り老婆は小さな袋を持っていて、ゆっくりとした足取りで私の前に来た。

「欠点があるパズルかの。でも答えは成立している。これを渡すかの」

 持ってきた小さな袋を手渡された。口が紐で縛ってあるので、紐をほどいて中身を確認する。大きめのペンダントで、青空を思い出す宝石が目を惹いた。


「ささやかな自由のペンダントかの。これを身に着けておく。ナンバークロス国を通過できるかの」

 ささやかな自由のペンダントを身につけた。これでスケルトン国へ行ける。でもパズルクリエーターとして課題が残っていた。


「今回のパズルは何処がいけないのでしょうか。解く側を喜ばせたいので、改善するための参考にしたいです」

「よい心掛けかの。タテの答えは四字熟語が多いかの。ヨコの答えも簡単になる。悩む場所が少なくて解き味が半減するかの」


 物知り老婆の理由は理解できた。作っている時点で感じていて、数字が入る単語は四字熟語が真っ先に思い浮かぶ。最初は四字熟語から当てはめてしまうから、結果として四字熟語が多くなる。


「解く側を楽しませる。今以上に心掛けて頑張ります」

「わたしゃ人間の大人が嫌いかの。ただお前さんなら希望がもてるかの」

 無事に課題が解決できた。物知り老婆の家をあとにした。

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