第5章 オリジナルパズルと視覚系

第18話 特別な大人

 自然と目が開いてナクユへ来るのに慣れてきた。キリリキくんとロクヨちゃんも落ち着いて待っていた。体を動かしても違和感はなくて普段通りに対応できる。

「スケルトン国へはナンバークロス国を通る必要がある。ナンバークロス国では目立ちたくない。素早く通過するぞ」

 私が目覚めたのがわかってキリリキくんが話しかけてきた。


「隠れる必要でもあるのかな。ナンバークロス国には秘密があるの?」

 ナンバークロスはナンクロとも呼ばれているパズルで、クロスワードに似ているマス目があった。マスには小さい数字が書いてあって同じ数字には同じ文字が入る。単語を埋めるけれど、同じ数字を多く使う単語が解く上で重要だった。


「東門から外に出る。ナンバークロス国を目指すぞ」

 キリリクくんは質問に答えてくれない。話せない理由があるのかもしれない。代わりに右手を挙げて進みだしたので、出発の合図みたい。ナンバークロス国へ実際に行って確かめるのが早そう。


 家を出て通りを進むと道幅があって歩きやすい。中央広場の方向へ歩いて、中央広場では東西南北へ道が延びている。中央広場の中心には噴水があって虹色に輝く水が鮮やかだった。キリリキくんは中央広場から東側の道へ向かった。


「なんでママはだめなの。わたしはママがいないとパズルを楽しめないよ」

「大人は来られないのです。ルールのため諦めてください。ナクユは人間の子供が楽しむ世界です」


 噴水の反対側から女の子の叫び声が聞こえたので、女の子が見える位置まで移動する。女の子は小学生くらいで、ぬいぐるみを引張ながら泣いていた。

「でもあっちには、お姉ちゃんがいるよ。それならママも来られるでしょ」


 女の子が私に向かって指さした。直感的に見られては駄目だと思ったので、急いで路地を曲がる。女の子の声が聞こえなくなったので止まった。

「私はナクユに来ているよね。でも大人は来られない。どういう理由かな」


「ナクユは人間の子供のみを楽しませるにゃ。人間の大人は来られないにゃ」

「並戸は特別な大人だ。だからナクユに来られるぞ」

「どうして私だけ普通に来られるのよ。特別な大人ではなくて私は普通の大人よ」

 特別という意味が分からないから聞き返した。


「ルールで許されているにゃ。それ以上は私にもわからないにゃ」

「並戸は感覚的にナクユへ来られる。それでいいじゃないか。東門が見えたぞ」

 キリリキくんとロクヨちゃんは私が来られるのに疑問を思ってない。


 キリリキくんは交差の辞書を探すのが優先らしくて、先頭を切って歩いている。私は気になって仕方なかった。パズルで半分のみのヒントを見ている気分で、全部のヒントを見て理由を知りたかった。


「やっぱり私だけはおかしい。先ほどは女の子がいたよね。お母さんも一緒に来ることができれば女の子も喜ぶよ」

「美奈さんは特別な課題で来ているにゃ。ルールは変更できないにゃ」


 ロクヨちゃんでも無理なら、いくら聞いても答えにたどり着けないと思った。でも謎のまま残すつもりはないから、謎解きは次回の楽しみにする。最後には解決してみせる。今日は特別な課題に集中して、いっぱいパズルを解きたい。


 街の外を順調に進んだけれど、今日は崩壊現象に合わなかった。何事もなくナンバークロス国へ到着した。

 正門を通り過ぎると街中では初めて見るぬいぐるみが歩いていた。お腹には数字と対応するヒントが書いてあって、背中にはマス目が書かれている。姿はキリリキくんと同じ雰囲気で、ロボットや機械を想像させた。


 パズルの特長を反映したぬいぐるみみたいで、街を見れば何のパズルかわかる。文字系と理数系でも特徴が異なるのか知りたい。

「ナンバークロス国は通過するだけだが、国を出る許可が必要だ。少し歩くぞ」

 キリリキくんは迷わず進む。町並みはクロスワード国と似ていた。


「街の大きさはクロスワード国に比べ半分以下ね。何か特徴があるのかな」

「クロスワード国は人間の子供が始めに訪れる国だ。色々な場所が揃っているぞ。前にも話したがナクユで1番大きい国だ」


 誇らしげに話すキリリキくんは歩き方も堂々と見えた。文字系の国だからかロクヨちゃんは口数が少ない。相手の国に来ると静かになるみたい。

 素朴な建物の前にくると、そのまま中へ入った。部屋の奥には杖を手に持ったぬいぐるみがいて、大きな椅子に座ってうたた寝をしている。


「物知り老婆に話がある。この国を通りたい」

 先頭を切ってキリリキくんが話を進めている。今日は何だか頼もしい。

「キリリキが来るとは珍しいの。通過だけなら城に行けばよい」

「人間の大人を連れてきた。ここで課題を解きたい」


 杖を叩く音が響いた。物知り老婆は顔を上げて私に視線を向けた。珍しいものを見るように私を凝視している。

「難しいの。ナンバークロス国は人間の大人を恨んでいるからの。今でも無残な実験の光景が目に浮かぶ」


「並戸は俺たちを助ける大人だ。物知り老婆は人間の大人を見る目があるはずだ」

 沈黙が続いた。私が原因で間違いないけれど、下手に説明すると複雑になると思った。ここはキリリキくんに頑張ってもらうしかない。


 物知り老婆が杖を使ってゆっくりと立ち上がって、私たちに向かって歩き出す。足取りは思ったよりもしっかりしている。キリリキくんの耳元で物知り老婆がささやいたけれど、何を話しているのか聞き取れなかった。


 キリリキくんが頷くと、物知り老婆は元の位置へ戻っていく。椅子に座ると物知り老婆は杖で床を叩いた。

「わたしゃ人間の大人を許していない。だがルールなら仕方ないの。課題を解けば次の国に行ける方法がある」


「俺ができるのもここまでだ。課題は並戸に任せたぞ」

 キリリキくんが両手で表現したので素直に従った。物知り老婆へ近づくと、私の足音のみが周囲に響く。物知り老婆の前で止まった。


「課題をだすかの。文字系と数理系のパズルを作ってもらおうかの」

「クロスワードとナンプレなど、ふたつのパズルを作るのですか」

「違うかの。ひとつのパズルに文字系と数理系の要素を入れる。例えばナンクロとナンプレの要素を取り入れる。新しいパズルかの」


 文字を使いながら数字か記号を組み合わせるオリジナルパズルを作るみたい。作るのが困難で挑戦的な課題だけれど、オリジナルパズルで遅れを取るつもりはない。逆に燃えてきた。


「納得いくまで考えたいです。少し時間を頂けますか」

「気が済むまで考えてくれ。いつでもこの家にいるからの」

 私たちは物知り老婆の家をあとにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る