第17話 噂のでどころ

 綾音ちゃんに会うため東京へ行った。

 パズルで相談があると説明したけれど本当の理由は別にある。綾音ちゃんが話していた宝石とパズルの真相で、宝石を使って行く世界が知りたかった。鞄の中にはナクユのジュエリーがあって、なくさないよう厳重にしまってある。


 午後2時に待ち合わせて一緒に喫茶店へ向かう。注文したケーキと飲み物がテーブルの上に出そろったあとに、パズルの話から切り出した。

「相談というかパズルの雑談かな。近くにパズル好きがいないからね」

「1番尊敬している、みーなさんから誘ってくれるのは貴重です。お話しができて嬉しいです。学校と異なってパズルも心置きなく話せます」


 年は離れていても会話が弾むので、同じ趣味があると盛り上がる。最新のパズル事情から話して、解いて楽しいパズルの情報交換もおこなった。綾音ちゃんはいろいろなパズルに挑戦していて、作り側の視点に話題が移った。

「難易度の調整は如何しているかな。得意なパズルほど難易度が高くなりやすい経験は、綾音ちゃんもあるかな」


「気分が乗っているとよくあります。解きパターンが決まるパズルでも同じです。いろいろなパターンをヒントに使うと、結果として高難易度になります」

 綾音ちゃんも私と同じみたいで、頷きながら答えてくれた。

「大きいパズルも難しくなりやすいよね。解く側はヒントを見逃しやすいから、作る側の想定よりも難易度が上がるかな」


「途中で破綻すると難易度の調整が難しいです。何問か作ってから難易度を確認しています。余分に問題を作る場合もあります」

 私は昔からパズルを作っているから、大きいパズルでも破綻せずに作れる。でも綾音ちゃんは慣れていないみたい。このへんは経験が必要な部分だった。


「面倒なパズルも作る途中で破綻しやすいから、気をつけてね。特に最後の最後で失敗すると精神的なダメージが1番大きいかな」

「何度も経験しています。慣れてみます。ちょっとお手洗いに行ってきます」

 綾音ちゃんが席を立って奥へ消えていった。


 私はこのときを待っていた。綾音ちゃんがいない今しかなかった。ナクユのジュエリーを鞄の中で握るとテーブルの上にロクヨちゃんが姿をみせる。

 事前の話し合いで決めていて、ナクユのジュエリーを握るのが合図だった。ロクヨちゃんが出現して、ぬいぐるみに見えるようテーブルの上で座る。そのまま動かなかった。キリリキくんを出さなかったのは、勝手に動き出す心配があるからね。


 綾音ちゃんが戻ってきて椅子を引いて腰を下ろす。いまのところ驚いた様子はなくて、綾音ちゃんはオレンジジュースに口をつけた。

「この前のミネラルショーだけれど――」

 私から話を切り出したけれど変わった反応はなかった。綾音ちゃんには、ロクヨちゃんが見えていないと思う。


 綾音ちゃんの反応でロクヨちゃんの行動を決めていた。ロクヨちゃんが両手を使い立ち上がって、テーブルの上を歩き出す。綾音ちゃんの視線はロクヨちゃんに向いていない。ミネラルショーで見つけたお気に入りのルースを語っている。

 綾音ちゃんはナクユと関係がないみたいで、これが演技なら大女優になれる。


 ロクヨちゃんが姿を消して、ひとつ目の確認が終わった。もうひとつ確認したい内容があって、宝石を使って行くパズルの世界だった。

「ミネラルショーで思い出したかな。パズルの世界がある話をしたよね。実際にあれば私も行ってみたいけれど、何処で聞いた話なのかな」


「宝石とパズルはインターネットで見つけました。子供の発言で小説の真似事だと思っています。あのあと家に帰って調べましたが、中身は削除されていました。みーなさんと一緒に遊べなくて残念です。ミーナさんと2人だけの世界に憧れます」


 綾音ちゃんが残念がっている。今は無理だと思うけれど、私も綾音ちゃんと一緒にナクユへ行ってパズルを解きたかった。

「今はないのね。私も調べてみたいけれど、どのように検索したのかな」


「パズル編集部の懇親会で安藤先生に教えてもらいました。酔っていたので嘘かと思いましたが、実際にみつけたときは驚きました」

 綾音ちゃんと安藤先生は同じパズル雑誌に掲載している。綾音ちゃんではなくて安藤先生が鍵を握っていそう。


「パズルの世界は面白そうね。非常に興味があるから安藤先生に会えないかな」

「みーなさんが誰かに会いたいとは珍しいです。わたしは、いつでも1番尊敬している、みーなさんに会いたいです。安藤先生とは懇親会で会う機会はありますから、事前に話せば平気だと思います。宝石とパズルの世界に何かあるのですか」


「体を動かすパズルなら面白いと思ったのよ。ところで話は変わるけれど――」

 当初の目的は果たせたから、私から話題を変えた。残りは綾音ちゃんとお喋りして2人で楽しい時間を過ごした。


 暗くなる前に東京から家へ戻って、さきほど夕食を済ませた。

 寝室に入って仕事の準備を始めるとパソコンに新着メールが届いていた。

 佐野君からで、お願いしていた新しい作成支援ソフトについてだった。予想よりも早く完成したみたいで、試作版だけれど漢字のオリジナルパズルが作れる。お礼のメールを打ったあとに仕事へ取りかかった。


 2時間後には予定の仕事が終わってリビングへ移動した。テーブルの上にはキリリキくんがいて、腕をぐるぐる回して元気よく動き回っている。これからキリリキくんの国へ行くから、よほどうれしいみたい。


「最初にクロスワード国を出る。次にスケルトン国へ向かうぞ。俺の特別な課題もいっぱい進めるぞ」

「今度の課題はどのようなパズルかな。通常ルールでも変則ルールでも、どちらのパズルでも今から楽しみね」


「俺の準備ができている。ナクユのジュエリーを手にとれ。ナクユへ行くぞ」

 パズルが私を待っている。

 はやる気持ちを抑えてナクユのジュエリーを手にとると、キリリキくんの目が赤く光った。ナクユへと旅だった。

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