第14話 崩壊現象

 ナクユは子供たちを楽しませるけれど、崩壊現象という厄介な問題があった。

「立ち入り禁止地帯へ間違って入ると怖いね。見た目でわかるのかな」

 私自身も注意が必要と思って聞いた。


「立て看板があるからわかるぞ。近くに行けば俺たちには見える。人間の子供たちには見えないから中へ入れてしまう。そのために立て看板が置いてある」

「崩壊現象以外にも立ち入り禁止地帯はあるにゃ。多くは人間の子供たちにとって危険はないにゃ。でも近づかないのが無難にゃ」


 キリリキくんとロクヨちゃんは入れないみたいだから、立て看板には注意する必要があった。間違って入ると面倒になりそう。

「土地が消えるって怖いよね。崩壊現象はどうして起こるのかな」

「崩壊現象の現場には視覚系が姿を見せている。俺は視覚系が犯人だと思うぞ」

 キリリキくんが答えてくれた。


「ナクユにはパズルの分類がいくつあるのかな」

「基本は数理系と文字系のみで同じ分類の国同士が近くにあるにゃ。両方とも人間の子供たちを喜ばせているにゃ。どちらが多く喜ばせるかを競っているにゃ」


「東に文字系の国が西に数理系の国がある。1番大きな国は俺がいるクロスワード国だぞ。中央には中立国があって、国の名前は文字と数理国だ」

「人間の子供たちが最初に目指すのは中立国にゃ。北側と南側には未開地帯があるにゃ。人間の子供たちは行く必要がないにゃ」


 ナクユの世界観がわかってきた。思ったよりも色々な国があって、全部の国を回るのは大変そう。最初から文字系と数理系の国に行ける子供はいないようで、徐々に範囲が広がっていろいろなパズルを楽しめる。長く遊べる仕組みに感じた。


 文字系と数理系の国で競っているけれど、キリリキくんは捕まっていない。戦争はしていないみたいで、争いは嫌いだから一安心ね。

「視覚系には迷路や間違い探しパズルがあるよね。何処の国に属しているのかな。北側と南側の未開地帯に住んでいるのかな」


「視覚系は住む場所を転々としていて、国は持っていないにゃ。視覚系がいつ頃から出現したかはわからないにゃ」

「彼らはルールを守らない。人間の子供たちも喜ばせない。悪い奴らだ」

 何処の世界にも悪者はいるみたいで、視覚系にあったら逃げるのがよさそう。


 視界の端で動くものが見えた。視線を向けると景色が滲んでいた。水彩画に水をこぼした感じで瞬く間ににじんだ場所が崩れ落ちる。残った部分は銀色の無機質な状態となった。


「景色がおかしい。私の精神が疲れているのかな」

 ロクヨちゃんも気づいたみたい。同じ場所を凝視していた。

「あれが崩壊現象にゃ。大変な事態になったにゃ。危険な現象にゃ」


「俺は初めて見た。もっと近くに行かないか」

「駄目にゃ。門番も近づくなと言ったにゃ。危ないにゃ」

「崩壊現象は言葉通りで、崩壊して景色がなくなっている。景色の一部が削り取られているみたいで、たしかに危険な現象よ」


「行くぞ。今なら崩壊現象を止められる。迷っている暇はないぞ」

 誰の確認もせずにキリリキくんが走り出した。

「待ってにゃ。本当に行くかにゃ。危険な場所にゃ」


 ロクヨちゃんがキリリキくんに叫んだ。でもキリリキくんは止まる気配がない。ロクヨちゃんと顔を見合わせた。私とロクヨちゃんも走り出した。

「私たちも行くから、ひとりで動かないでよ」


 キリリキくんは止まらなかった。走るのが速かった。私も足は速いけれどなかなか追いつけない。肩で息をしながら追っているとキリリキくんが立ち止まった。崩壊現象の現場が目の前に現れた。


 息を整えて状況を確認した。家ほどの大きな穴が開いていた。建物なら3階くらいの高さまで、銀色で該当している部分の景色が消えている。元の景色と思われる破片が近くに転がっていた。


「勝手に先へ行かないでにゃ。追いつくのが大変にゃ」

 遅れて到着したロクヨちゃんがキリリキくんに詰め寄った。

「視覚系の姿と人間の姿も見たぞ。やっぱり犯人は視覚系に間違いない」


「子供たちがいたの? 私が来たときには誰もいなかったよ」

「感覚的に大人だ。何故か大人がいた。でも今は崩壊現象が先だぞ」

 キリリキくんは崩壊現象を見つめている。


「崩壊現象をどうするにゃ? 門番が来るまでは時間がかかるにゃ」

「破片はまだ消えていない。本来の位置に合わせれば元に戻せるぞ」

「直したいにゃ。立ち入り禁止地帯にしたくないにゃ」

 破片は地面に散らばっていて、透明になりつつあった。


「時間がない。並戸も手伝ってくれ」

「言われなくても手伝うよ。ジグソーパズルの要領で平気かな」

「感覚的に正解だぞ。時間との勝負だ。手分けして進める」


 すぐに体を動かした。破片は冷たくて、薄い割には曲がる気配はなくて硬い。破片は軽くて運ぶのは楽だった。

 ジグソーパズルと同じく外周側から始める。地面に破片を合わせると空中も埋まって変な感覚だった。体を動かすのは好きなので、往復するのは苦にならない。


 ロクヨちゃんは破片を表向きにしながら、天と地の向きも揃えていた。キリリキくんは感覚的に破片を埋め込んでいる。勘が鋭いのか、半分以上も合っていた。

「残りはあと数枚よ。透明感が増してきた」

 ふたりに向かって現状を説明する。


 キリリキくんとロクヨちゃんは協力しながら作業している。埋め込む範囲が狭くなってきたので、考える要素は減ってきた。最後まで駆け回って破片を埋め込む。

「崩壊現象が止まったにゃ。美奈さんとキリリキがいて助かったにゃ」


「景色が消えるのは怖い。崩壊現象が各国で起きているのなら確かに脅威よ」

 慌ただしい時間が過ぎた。

 休憩を取ってから崩壊現象の現場をあとにする。道中は何も起きなくて無事にサムクロス国へ到着した。人気のない場所で王家の本を開いた。


「次の課題が出現したよ。でも崩壊現象で時間を使ったから今日はここまでね。元の世界にはどのようにして戻るのかな」

 最初に来たときは強制的に戻されたので、本来の戻り方を知らない。特定の場所に行くかもしれないけれど、簡単な方法ならうれしい。


「頭の中にナクユのジュエリーを思い浮かべるにゃ。手の中にナクユのジュエリーが現れるにゃ。握ったまま人間の世界を考えるにゃ。およそ30秒で戻れるにゃ」

「ナクユに来るにも戻るにもナクユのジュエリーが必要だ。大事な宝石だぞ」

「どこにいても元の世界に戻れるのね。さっそく試してみる」


 説明された通りに試すと、手の中に重さを感じてナクユのジュエリーが現れる。急に出現した感じだった。自分の部屋を思い浮かべる。ナクユへ来たときと同じで睡魔が襲ってきたので、そのまま眠りについた。

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