第13話 変則ナンプレ

 ロクヨちゃんの家に戻ってくると、すぐに王家の本を開いて最初の課題に目を通した。待ちに待ったパズルを解く時間がおとずれる。

「普通サイズが2つ、斜めに重なっている変則ナンプレね。普通と異なって数字の見方が大事なパズルかな。解き味を楽しめそう」


 ヒントの数字は線対称に配置されていた。ナンプレのヒントは対称配置する問題が多いけれど、文字や絵の配置もある。

 今回はパズルを解くだけではなくて、数字と文字を対応させた表があった。マス目には小さくAからEまでのアルファベットが書かれている。対応表の文字を順番に読むみたい。


「面白そうなナンプレにゃ。美奈さんは解けそうかにゃ?」

「若手四天王に解けないパズルはないよ。すぐに解くから任せてね」

 この瞬間を待っていた。精神を集中させて変則ナンプレを解き始める。


 1から順番に確定する数字を埋めていくと、時間をかけずに埋めやすい部分が終わる。変則ナンプレ部分を攻略するために交差しない3×3の9マスに着目した。対となる3マスは順不同で同じ数字が入る。初心者が迷いやすい部分でもあった。


 徐々に数字が決まっていって、交差している部分が早めに埋まった。仮定で書いた数字も確定に変わる。半分以上の数字が埋まると先が見えてきた。タテヨコにある列との消去法で数字を確定していくと、完成が近づいたので自然と手が早く動く。


 全ての数字が埋まって間違いがないかを確認する。ナクユに来て最初のパズルで充分に堪能できた。最後に対応する文字を並べる。

「解き終わったよ。難易度も手頃で面白かった」


「効率よく数字を埋めていたにゃ。感心するにゃ。私も見習うにゃ」

 ロクヨちゃんが近くで見ていたみたいで、集中していて気づかなかった。パズルクリエーターの凄さを見せられたと思う。


「並べ替えた文字はサムクロスだから次に出題されるパズルかな。でも次の頁には何も表示されていない」

 サムクロスはクロスワードに似たマス目があるパズルでマス目には数字が入る。ヒントは連続のマスに入る数字の合計で、連続するマスには全て違う数字が入る。


「サムクロス国だと思うにゃ。近くにある国のひとつにゃ」

 ロクヨちゃんが教えてくれた。

「数理系の国同士で移動するのか。そろそろ文字系の国に行ってみないか」

 キリリキくんは乗り気ではないみたいでだから、文字系と数理系で居心地が違うのかもしれない。


「もっとパズルを解きたいから、今日は行ける場所まで進めたいかな。次回は交差の辞書を探すから、それで問題はないよね」

「約束だから仕方ないか。次の国へ行こう」

 キリリキくんも納得してくれた。


「サムクロス国へはどのように行くのかな。国の外に出るには、お城で課題を解決するのよね。次はお城へ行くのかな」

 ロクヨちゃんの言葉を思い出していた。子供が解く最初の課題だった。


「変則ナンプレが解けたから、国の外へ行けるにゃ。一度訪れた国へは、お城にある部屋を使えるにゃ。安全に早く移動できるにゃ」

「私はナンバープレース国とクロスワード国なら、自由に行き来ができるのね。ひとつの国にはいくつの街があるのかな」


「ひとつの街しかないにゃ。国の数は10以上あるにゃ。街の外から少し離れると国境があるにゃ。国と国の間には中立地帯が存在しているにゃ。何処の国にも属していないにゃ」


「いっぱい国があるのね。時間に余裕ができたら色々な国に行ってみたい。沢山のパズルを楽しめそう」

「他になければサムクロス国に行くにゃ。私のあとについて来るにゃ」


 ロクヨちゃんに連れられて移動を始めた。賑わっている道から脇道に外れて、お城から離れる方向へと進む。周囲に街を取り囲む壁が見えたけれど、壁は人の背丈くらいしかない。街を守るためではなくて、街の内外を区別するためかもしれない。


 2体のぬいぐるみが門の両側に立っていて、ぬいぐるみは長い槍を持っている。

「ロクヨかにゃ。何の用事にゃ。今日は来ると聞いていないにゃ」

 長い槍を横に倒した。理由がないと通れないみたい。

「特別な課題をしているにゃ。これからサムクロス国へ行ってくるにゃ」


「最近は崩壊現象が起きているにゃ。気をつけるにゃ。特に立ち入り禁止地帯へは近づいては駄目にゃ」

「まだ崩壊現象は続いているかにゃ。注意するにゃ」

 長い槍が元の位置に戻ったので門を通る。思ったよりも簡単に街を出られた。


 街の外を見渡すと建物はなくて、子供やぬいぐるみの姿も見かけない。草原の中にある道を進んで、青い橋を渡って振り返ると街が小さく見える。視線を前方に戻すと草木が青々と生い茂っていた。吹き抜ける風が心地よかった。


「街の外は静かね。思い切り草原で走り回りたい気分よ」

「人間の子供たちは正門から移動するにゃ。裏門は私たちしか使わないにゃ」

「特別な課題は裏門からでも平気なのね。だから人影が見えないのかな」


「本来は正門同士で国の間を移動するにゃ。正門から出ると街の外でも課題が発生するにゃ。早く移動するために裏門を使ったにゃ」

 街の外でも発生する課題はきっとパズルよね。興味が沸いてきた。


「どの場所でも人間の子供たちを楽しませる。それがナクユだ。街の中と違って変わったパズルも多いぞ」

 やっぱりパズルだった。あとで解きたい。それよりも門番の言葉が気になった。

「たしかナクユは子供向けの電脳空間よね。崩壊現象って何かな」


 崩壊現象は印象の悪い言葉だった。パズルの種類なら嬉しいけれど、気をつけろと言っていたのが心配だった。

「土地の一部が消える現象で、理由は未だに不明にゃ。今は国の外のみで、大きな被害はないにゃ。滅多に発生しないにゃ」


「俺がいる国の周辺でも起きている。崩壊した土地の破片は時間が経つと消えてしまうぞ。消える前に土地の破片を元の位置へ戻せば復活する。通常は発見が遅れて間に合わない。崩壊した土地は危ないから、立ち入り禁止地帯になっている」


「私たちは立ち入り禁止地帯に入れないにゃ。とても厄介にゃ」

 キリリキくんとロクヨちゃんの両方が、崩壊現象を危険と感じている。崩壊現象はナクユ全体の問題みたい。

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