第12話 ムサシ国王

 部屋の中は華やかだった。前方の床が一段高くなっていて、大きなぬいぐるみが椅子に座っている。ムサシ国王と思われて、黄金の王冠を頭に乗せていた。いつの間にかキリリキくんは部屋の隅へ移動している。

「ムサシ国王。お時間を割いて下さり助かりますにゃ。最初の予定よりも遅くなりましたにゃ。無事に美奈さんを連れてきましたにゃ」


「ご苦労であったにゃ。困難な問題だが美奈殿に任せてよいわけだにゃ」

「私自身が見て決めたですにゃ。覚悟はできていますにゃ」

 真剣に向き合っているから、思ったよりも特別な課題は難しいかもしれない。パズルも難易度が高い可能性があるけれど、逆に燃えてくる。


「美奈殿もナンバープレース国によく来てくださったにゃ。久しぶりに大人の人間を見るにゃ。懐かしさを感じるにゃ。王家の秘宝について何か聞いているかにゃ」

「王家の秘宝を探すと聞いています。パズルを解く必要があるとも伺いました」

 国王とどのように接してよいのか分からないので、なるべくていねいに話した。


「城の倉庫から古い王家の本を見つけたにゃ。特別な課題の最後に王家の秘宝が手に入るにゃ。最初の課題は変則ナンプレにゃ。解決できる人間の大人をロクヨに探させていたにゃ。具体的には――」


 ムサシ国王は順序立てて説明してくれたので、特別な課題が明確になった。最初は特殊なナンプレを解くみたいで、オリジナルパズルが得意な私に白羽の矢が立ったのかもしれない。


「実際に見ることは可能ですか? どのようなパズルか知りたいです」

「王家の本はこれにゃ。ルールと最初の課題以外は白紙のままにゃ」

 ロクヨちゃんが王家の本を受け取って、私に渡してくれた。厚みはなくて両手ほどの大きさだった。全体が濃い茶色で表紙には模様が描かれている。文字やパズルは見当たらない。


 表紙をめくると最初に特別な課題の手順が書かれていた。順番通りにパズルを解けば王家の秘宝が手に入るみたいで、ムサシ国王が説明した通りだった。

 でも課題はひとつ目しか載っていなくて、ふたつ目は表示されていなかった。順番に解く必要があるみたい。連続でパズルを解いていくのは面白そうね。


「王家の秘宝を見つけてくれにゃ。にゃにゃ。人間の子供が来たにゃ。俺は移動しなくてはならないにゃ。あとはロクヨに任せたにゃ」

 ムサシ国王の姿が揺らいで消える。席を立っての移動ではなくて、言葉通りに消えた。驚いてロクヨちゃんに顔を向けたけれど、ロクヨちゃんは平然としている。


「本来の仕事に戻ったにゃ。人間の子どもたちに会いへ行ったにゃ」

 私の疑問に気づいたのか、ロクヨちゃんが答えてくれた。

「人間の子供たちが来ると指定場所に戻るぞ。いつも同じ場所で課題を出題する。それが俺たちの仕事だ」


 キリリキくんが会話に参加してきた。ムサシ国王がいなくなったからみたいね。ほっとした表情をしていて、いつものキリリキくんに戻っている。

「キリリキくんとロクヨちゃんもパズルを出題するのかな。やっぱりクロスワードとナンプレを作るのよね」


「昔はパズルを作っていたにゃ。人間の子供たちを喜ばせていたにゃ。今は美奈さんの担当にゃ。ずっと一緒にいられるにゃ」

「強いていえば並戸に課題を解いてもらう。それが俺の仕事だ。パズル作りが下手なわけではないぞ。ちゃんとスカイカス師匠に認めてもらっている」


 後半の言葉に力が入っていたのは、昔作ったクロスワードの出来を気にしているみたい。最初は誰でも初心者で、次に作るパズルを前のパズルよりもよくする。それを心掛けていれば問題ないと思っている。


「パズルを解いても平気かな。私はこの部屋でも構わないよ」

「特別な課題を始められるにゃ。お城にいるとキリリキがかわいそうにゃ。私の家に戻るにゃ。じっくり解けるにゃ」

 王家の本を手にして部屋をあとにした。

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