第3章 ナンプレと崩壊現象

第11話 ナンバープレース国

 目を覚ますと数字の群れが目の前に迫ってきた。焦点を合わせると私の思い過ごしとわかる。辺りを見渡す余裕ができると、数字は壁や天井の模様だった。部屋の中にいるみたいで、立ち上がるとキリリキくんとロクヨちゃんの姿がみえる。


 見知った顔があると安心できる。

「ナクユだよね。この前の部屋とは違う場所かな」

 ロクヨちゃんへ聞いた。

「ナンバープレース国にゃ。ここは私の部屋で落ち着くにゃ」


 ロクヨちゃんが両手を広げて私を歓迎してくれた。部屋の中は質素で壁の数字がランダムに変わって目を惹いた。天井も十分な高さがあるから窮屈さは感じない。

 まだ意識と動きに多少のずれがあるけれど、最初に来たときよりもずれは少なかった。今日中には慣れそうね。


「ロクヨちゃんの困りごとは王家の秘宝よね。冒険へ行くのかな」

「お城に行ってムサシ国王に会うにゃ。王家の秘宝について話を聞くにゃ」

 平然と説明された。簡単にお城へ行けるのかな。


「俺も行くのか。ムサシ国王は苦手だぞ。感覚的に理詰めが凄すぎる」

 キリリキくんは乗り気のしない様子にみえる。

「ここにいても仕方ないにゃ。迷子になられたら逆にややこしくなるにゃ」


 いつもと異なってキリリキくんが静かだった。ムサシ国王に会うのを嫌がっているみたいだけれど、ロクヨちゃんに説得されてキリリキくんも一緒に移動となった。みんなでロクヨちゃんの部屋をあとにする。


 街中はのどかな田舎を思い出させて、遠くには山並みが見える。視界を隠す高い建物は少なくて、時間もゆっくりと流れている感じだった。山が見えると今住んでいる場所を思い出す。ひときわ目を惹く建物が、お城だとすぐにわかった。

 クロスワード国のお城は都庁に近かったけれど、ナンバープレース国のお城は複数の五重塔が集まった雰囲気だった。


 ロクヨちゃんと同じ姿のぬいぐるみがたくさん歩いていて、体格は様々で尻尾の長さや太さが異なっている。初めて見る姿もあった。体全体で絵を表現していて、お絵かきロジックのぬいぐるみかもしれない。別の姿にも目がとまった。


「あそこを歩いているのは人間の子供よね。私以外の人間を初めて見たよ」

 興奮気味にロクヨちゃんへ聞いた。

「夜になると人間の子供が多く来るにゃ。きっとお城へ行くにゃ」


 どこから来たのか知りたい。子供に声をかけるか悩んでいると、ロクヨちゃんに背中を押された。今はパズルを解くのが優先だから次回会えたら話してみたい。お城に近づくと賑わってきた。数人の子供たちがお城から出てくる。


「子供はお城を目指すのよね。お城へは何のために行くのかな」

「最初の課題がお城の中にあるにゃ。ムサシ国王直々に出題するにゃ。解決できると国の外に行けるにゃ」


「行動できる範囲が徐々に増えるのね。1日では遊びきれない広さかな」

 お城の門を通り抜けて敷地の中に入った。建物の頂上を見るには首を傾ける必要があって、10階建てくらいの高さがありそうね。


 子供たちは大きな建物から姿を見せたので、大きな建物にムサシ国王がいるみたいね。ロクヨちゃんは別の入口へ向かう。建物の前にはぬいぐるみがいて、何も聞かれずに建物へ入れた。


 気のせいと思うけれど空気の質が変わる。パズルに近づいた証拠かもしれない。高難易度でも簡単に解いてみせる。

「ここで俺は待っていてもいいぞ。ムサシ国王に会う必要はないからな」

「文字系がお城の中にいると面倒にゃ。嫌がらずに来るにゃ」


 文字系と数理系のパズルはライバル関係かもしれない。キリリキくんは捕まらずにお城へ入れたから、敵対ではなくて競争相手の感じみたいね。

 文字系はクロスワードなどの文字や単語を使うパズルで、理数系はナンプレなどの数字や記号を使うパズルだった。間違い探しのように区分が難しいパズルもある。


 体の動きに違和感がなくなって普段通りに通路を歩ける。次にナクユへ来たら最初から平気かもしれない。目の前に扉があって金色と銀色の数字が目を惹いた。ロクヨちゃんを先頭に中へ入った。

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