第9話 噂か本当か

 お昼もだいぶ過ぎたので、お腹を満たすためにイタリアンレストランへ入った。パスタはおいしくて、今はデザートを目の前にしてパズルの雑談が始まった。

「スケルトンはリストの言葉で、作りやすさが決まるよね。綾音ちゃんは題材選びをどうしているのかな」


「基本は母体数の多い題材を選んでいます。ただ似た言葉が多いと別解になりやすいので、注意して作っています」

「数も大事だよね。この前は数が少ない題材を指定されたのよ。ある意味では作るのに燃えたかな。編集者からの挑戦よね」


 スケルトンといっても動物の骨格ではなくてパズルの種類だった。リストの言葉を同じ個数のマス目に埋めて、言葉が交差するマスには同じ文字を入るパズルね。

「交差が多いほど楽しめます。逆に作る側は大変で、いつも苦労しています」


「何も考えずに作ると修正が大変で、マス目の間隔も空いてしまうよね。文字数の割には全体のマスも大きくなるから、どのパズルも慣れは大事かな」

「何事も経験が必要と思います。以前に編集者から聞きましたけれど、昔は安藤あんどう先生もパズルを作るのが遅かったみたいです」


 安藤丈太郎じょうたろう先生は有名なパズルクリエーターのひとりで、自分の名前がタイトルのパズル本を何冊も出していた。年齢は50歳くらいで、私が生まれる前からパズルを作っている。


「安藤先生は多くのパズルを作っていて、パズルの数は私の何倍にもなるよね」

「ある時期を境にパズル作りが早くなったそうです。慣れや何かのきっかけで克服したと思います」

 綾音ちゃんが、編集者から聞いた続きを教えてくれた。


「慣れは重要よね。不慣れなパズルは作り直しが多くなるかな。綾音ちゃんは苦労するパズルはあるかな」

「オリジナルパズルは別ですが、作るので苦手なパズルはないです。王道のパズルは得意です。解くほうではお絵かきロジックが苦手で、塗りつぶしで苦労します」


 綾音ちゃんもお絵かきロジックは苦労している。答えの絵は楽しみだけれど、塗りつぶす作業は意外と大変だった。

「シャープペンの芯がすぐ減るよね。注意しないと手の側面が真っ黒になって、服に芯の粉がついて大変になった経験もあるかな」


「みーなさんも同じで安心しました。ほかには失敗した経験はありますか」

 逆に綾音ちゃんから質問された。

「パズルを作り始めた頃はいろいろと失敗したよ。当たり前が分かるまでがそうとう大変で、今思い出すとなつかしい思い出かな」


「最初の頃といえば、オパール選びでは苦労しました」

「ミネラルショーでは店員さんと普通に話していたから、今はもう慣れたのかな」

 さきほどのミネラルショーを思い出す。綾音ちゃんと店員さんの会話は私には難しすぎて、半分くらいしか理解できなかった。


「今は好み優先で選んでいます。宝石の価値と好みは別ですから、ほしいルースが安価な場合はうれしいです」

「パズルも宝石も好みが重要かもしれないかな。好みのパズルは人気がなくても、解きたくなるものね」

 綾音ちゃんも同感みたいで頷いてくれた。


「パズルと宝石で思い出しました。両方が関連した面白い話があります」

「私の知らないパズルかな。知りたいから教えてくれる?」

 思わず身を乗り出した。今は昔と違って知らないパズルが増えている。パズルはマイナーだけれど、新しいパズルは次から次へと生まれていた。


「宝石がペンダントに変化して、身につけると不思議な世界に行けます」

 ナクユのジュエリーが頭の中をよぎって、期待から緊張へと変わった。ナクユには子供が行けるから、小さい頃に綾音ちゃんが行ったのかも知れない。


「変わった宝石があるのね。詳しく聞きたいかな」

 平常心を心掛けながら聞いた。

「不思議な世界はパズルで遊べて、住人の見た目もパズルだそうです。色々な種類のパズルがあるそうですが、今では確かめる方法がないです。嘘かも知れません」


「何処で知ったの? 綾音ちゃんは不思議な世界へ行ったのかな」

 早口で甲高い声になったようで、威圧感もあったみたい。綾音ちゃんが身構えている。動きも止めて驚いている。


「如何したのですか。普段のみーなさんと違います」

「ごめんね。パズルと聞いたからね。つい声が大きくなったのよ」

「びっくりしました。知ったのはインターネットで嘘だとは思っています。現実なら行ってみたいです。最新技術を使えば可能でしょうか」

 綾音ちゃんも詳しくは知らないみたい。


「何だか楽しそうな世界ね。実際にあれば私も遊んでみたいかな」

「みーなさんと一緒に遊びたいです。詳しく調べて見ます」

「楽しみにしているね」


 作り笑いするのが精一杯だった。ゲームや小説の題材かもしれないけれど、宝石を使う設定が気になる。イタリアンレストランを出るまで、他の話題は頭に残らなくて宝石のみが頭の中を駆け巡った。

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