第9話 噂か本当か
お昼もだいぶ過ぎたので、お腹を満たすためにイタリアンレストランへ入った。パスタはおいしくて、今はデザートを目の前にしてパズルの雑談が始まった。
「スケルトンはリストの言葉で、作りやすさが決まるよね。綾音ちゃんは題材選びをどうしているのかな」
「基本は母体数の多い題材を選んでいます。ただ似た言葉が多いと別解になりやすいので、注意して作っています」
「数も大事だよね。この前は数が少ない題材を指定されたのよ。ある意味では作るのに燃えたかな。編集者からの挑戦よね」
スケルトンといっても動物の骨格ではなくてパズルの種類だった。リストの言葉を同じ個数のマス目に埋めて、言葉が交差するマスには同じ文字を入るパズルね。
「交差が多いほど楽しめます。逆に作る側は大変で、いつも苦労しています」
「何も考えずに作ると修正が大変で、マス目の間隔も空いてしまうよね。文字数の割には全体のマスも大きくなるから、どのパズルも慣れは大事かな」
「何事も経験が必要と思います。以前に編集者から聞きましたけれど、昔は
安藤
「安藤先生は多くのパズルを作っていて、パズルの数は私の何倍にもなるよね」
「ある時期を境にパズル作りが早くなったそうです。慣れや何かのきっかけで克服したと思います」
綾音ちゃんが、編集者から聞いた続きを教えてくれた。
「慣れは重要よね。不慣れなパズルは作り直しが多くなるかな。綾音ちゃんは苦労するパズルはあるかな」
「オリジナルパズルは別ですが、作るので苦手なパズルはないです。王道のパズルは得意です。解くほうではお絵かきロジックが苦手で、塗りつぶしで苦労します」
綾音ちゃんもお絵かきロジックは苦労している。答えの絵は楽しみだけれど、塗りつぶす作業は意外と大変だった。
「シャープペンの芯がすぐ減るよね。注意しないと手の側面が真っ黒になって、服に芯の粉がついて大変になった経験もあるかな」
「みーなさんも同じで安心しました。ほかには失敗した経験はありますか」
逆に綾音ちゃんから質問された。
「パズルを作り始めた頃はいろいろと失敗したよ。当たり前が分かるまでがそうとう大変で、今思い出すとなつかしい思い出かな」
「最初の頃といえば、オパール選びでは苦労しました」
「ミネラルショーでは店員さんと普通に話していたから、今はもう慣れたのかな」
さきほどのミネラルショーを思い出す。綾音ちゃんと店員さんの会話は私には難しすぎて、半分くらいしか理解できなかった。
「今は好み優先で選んでいます。宝石の価値と好みは別ですから、ほしいルースが安価な場合はうれしいです」
「パズルも宝石も好みが重要かもしれないかな。好みのパズルは人気がなくても、解きたくなるものね」
綾音ちゃんも同感みたいで頷いてくれた。
「パズルと宝石で思い出しました。両方が関連した面白い話があります」
「私の知らないパズルかな。知りたいから教えてくれる?」
思わず身を乗り出した。今は昔と違って知らないパズルが増えている。パズルはマイナーだけれど、新しいパズルは次から次へと生まれていた。
「宝石がペンダントに変化して、身につけると不思議な世界に行けます」
ナクユのジュエリーが頭の中をよぎって、期待から緊張へと変わった。ナクユには子供が行けるから、小さい頃に綾音ちゃんが行ったのかも知れない。
「変わった宝石があるのね。詳しく聞きたいかな」
平常心を心掛けながら聞いた。
「不思議な世界はパズルで遊べて、住人の見た目もパズルだそうです。色々な種類のパズルがあるそうですが、今では確かめる方法がないです。嘘かも知れません」
「何処で知ったの? 綾音ちゃんは不思議な世界へ行ったのかな」
早口で甲高い声になったようで、威圧感もあったみたい。綾音ちゃんが身構えている。動きも止めて驚いている。
「如何したのですか。普段のみーなさんと違います」
「ごめんね。パズルと聞いたからね。つい声が大きくなったのよ」
「びっくりしました。知ったのはインターネットで嘘だとは思っています。現実なら行ってみたいです。最新技術を使えば可能でしょうか」
綾音ちゃんも詳しくは知らないみたい。
「何だか楽しそうな世界ね。実際にあれば私も遊んでみたいかな」
「みーなさんと一緒に遊びたいです。詳しく調べて見ます」
「楽しみにしているね」
作り笑いするのが精一杯だった。ゲームや小説の題材かもしれないけれど、宝石を使う設定が気になる。イタリアンレストランを出るまで、他の話題は頭に残らなくて宝石のみが頭の中を駆け巡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます