第2章 ナクユのジュエリーと謎
第4話 人間の子供
初めてナクユに行ってから数日が過ぎたけれど夢ではなかった。朝からパズルを作っていて、今は休憩でリビングにいる。目の前にはキリリキくんとロクヨちゃんがいて、テーブルの上を歩いている。頭を休めながら目で動きを追った。
「交差の辞書を取り戻す必要がある。早速ナクユへ行くぞ」
キリリキくんが私の前で立ち止まって話し始める。視線が合うとナクユのジュエリーを指さした。せっかちなキリリキくんの性格にも慣れてきた。
ナクユと動くぬいぐるみは現実離れしていて、難解なパズル以上の挑戦ね。パズル関連では負けるつもりはない。ロクヨちゃんの話では、ナクユへ行っても命の危険がない点は一安心だった。
「ナクユの世界をもっと教えてほしいかな。パズルを解けるのは嬉しいけれどナクユの情報が少ないのよ。パズルに集中できない」
「ナクユはナクユだぞ。並戸は感覚でわからないのか。俺ならすぐにわかる」
「戻ってきてからロクヨちゃんに聞いたよ。でも頭の中がすっきりしないかな」
中途半端にヒントを聞かされたパズルに思えた。ルールを把握しないとパズルは楽しめない。この前はパズルを解く前に戻されて消化不良が悩みの種だった。
「もう少し詳しく説明するにゃ。基本的に私たちはパズルを作るにゃ。人間の子供を喜ばせるにゃ。私も昔は――」
ロクヨちゃんが話し出した。負けずにキリリキくんも説明を始めてくれる。
キリリキくんとロクヨちゃんはパズルを作って子供たちを喜ばせていた。人間の子供はナクユに来るけれど、大人は来ないらしい。ぬいぐるみの種類で作るパズルが異なって、キリリキくんはクロスワードでロクヨちゃんはナンバープレースだった。
ナンバープレースは通称ナンプレと呼ばれていて、私が好きなパズルのひとつだった。1から9の数字をルールに従いマスへ埋めるのみだけれど、ヒントの配置で難易度が大きく変化する。解き出すと止まらないほど面白いパズルだった。
「ナクユの世界に子供が行っているのね。この前は見かけなかった」
説明を聞いたのちの感想だった。
「人間の子供が来なければパズルで喜ばせられない。感覚的にわかるだろ」
キリリキくんが当たり前のように答える。
「偶然見かけなかったのかな。私も早くパズルを楽しみたい」
「人間の子供は喜んでくれるにゃ。美奈さんもきっと気に入るにゃ」
ナクユは電脳空間と呼ばれているから最先端技術かもしれない。キリリキくんもロクヨちゃんも詳細は知らなかった。ナクユの世界はこちらの世界と異なる程度の認識みたい。質問に対して自然な受け答えをするので、きっと高性能なAIと思う。
「私もパズルを作るのが好きだから、パズルで喜ばせたい気持ちはわかる。パズルを解く人の笑顔はうれしくて、作ったときの苦労が報われるよね」
昔からパズルを解くのも作るのも好きで、初めて作ったオリジナルパズルを両親がほめてくれたのが凄く嬉しかった。
でも小さい頃に両親は行方不明となって、パズルに関わっていれば両親に会える気がした。気のせいとはわかっているけれど、今もオリジナルパズルを作る理由のひとつでもあった。
「話しは終わりだ。ナクユへ行けば感覚的にわかるぞ」
「今日は疲れているから無理ね。それに次はロクヨちゃんの課題よ」
キリリキくんにたいして答えた。
「そうにゃ。私は何日も待ったにゃ。私の特別な課題もパズルを解くにゃ」
「交差の辞書がないとスカイカス師匠が困るぞ。俺も早く見つけたい」
「キリリキくんの特別な課題も大事よ。でもロクヨちゃんの国へ行く約束でしょ」
「ルールを破るのはよくないか。わかった。次はロクヨの番だな」
キリリキくんもロクヨちゃんも約束事は厳守する性格で、電脳空間から来た影響なのかもしれない。ルールは確実に守ってくれている。
「仕事の目処はできたかな。ナクユの情報も増えたから明日の夜に行くよ。ロクヨちゃんの国を早く見たい」
よほど嬉しかったみたいでロクヨちゃんは片足を軸に回転した。最後に両手を広げて、お辞儀する。尻尾も勢いよく波打っていて、本物の猫と同じ可愛さがあった。
気分転換のために窓を開けて遠くを眺めた。ほとんど雲がなくて遠くの山がよく見える。色鮮やかな山が新緑の時季を表現していた。
県東部に位置する市に住んでいる。近くには川が流れていて、河川敷でのジョギングや散歩でよく通っている。頭の中を空っぽにすると、オリジナルパズルを考えやすい。今の季節は散歩する人も多かった。
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