第19話 王と王





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「以上になります」

疲れきった伯爵が説明を終える


「それでお前は逃げ帰っきたのか。外務大臣が聞いて呆れるな

解任だ!しばらく顔も見たくない!」



伯爵はしょぼくれて帰っていく



「なんてことだ

ライトリアの王たる私が辺境の田舎者に舐められているなんて」

血が出るほど爪を噛む

「陛下...」


「ルミア...すまない見苦しい姿を見せた」


「私がいけないのです。スミカ様ともう一度婚姻など言い出さなければ」


「そんなことはない!なーにこのくらいの事、すぐに解決するさ」


「ああ陛下...



陛下...実は...まだ確定ではないので伝えるべきではないのかもしれませんが...あの...」


「?どうした?」


「子供が出来たかもしれません」


「なんと!そうか、そうか!いやまだ確定ではないのか

しかしあれだな一応身体を休めておきなさい

政務もしばらく休んでいい」



「ふふふ、大丈夫ですよ、侍女たちもいますし無理もしません」


「そうか私が父に、ルミアが母に


フハハハ、フハハハハハッ」


歓喜に震えるグレンだが現実が突き刺さる


カウントをどうするか




もはやプライドを気にしている場合ではない


生まれてくる子供の為にも



「カウントに行くぞ!俺自ら行く!奴らに本物の王の威光を見せつけてやる!!」






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「カウント国騎士団長ファムです。あなた方がグレン陛下の一団である事を証明してください」


「俺だ。俺こそが第48代ライトリア王グレンである!」


「ですからそれを証明して下さいよって言ってるんですよ」


「俺を見ればわかるだろう?この威光!コレが王の威光というものだ!」


「これは困った。前に来た外務大臣の方がマシだ

ん?」


「どうかしたか?俺の迫力に恐れ慄いたか?」


「そちらの腰の剣、拝見しても?手は触れませんので」


「あ?ああこれか

父より受け継いだ物だと」


「はい、確かに確認しました。あなたはグレン陛下本人で間違い無いです

お手数おかけしました


すぐにライル王をお呼びしますのでこちらで少々お待ちください」


関所近くの騎士団の駐屯所に案内される


王を通すには穢らわしい執務室だがしょうがない

椅子に座る

見た目がこんなに地味なのに何故だが座り心地がとてもいい


黙っていると眠ってしまいそうだ


「そこのお前、ファムとか言ったな?伯爵から聞いている

大した剣術らしいな。属性は?」


「風です」


「土ではないのか!それは好都合だ、俺の元に来い

こんな田舎ではつまらんだろう

俺の元に来ればすぐに王国軍将軍にしてやろう

近衞師団に配属でもいいぞ」


見た目は地味だが腕は確からしいしな


「遠慮しておきます」


「は?




俺が、王が直々に誘っているのだぞ!?」


「遠慮しておきます。私はライル様に忠誠を誓っています」




なんと不敬な


カウントの人間は皆不敬過ぎる



「いらっしゃったようです」


ん?


「辺境伯邸からこの関所まではどんなに急いでも2日はかかるはずでは?」


「あ、忘れてた


たまたま近くを視察してたって事で納得して下さい」



よくわからない事を言う





「いやー寒い!冬場は外に出るべきではないねファム!」


「左様ですね、風邪をひかないように気をつけて下さい

陛下


こちらグレン様です」


「あ、ああそうだった独立宣言ぶりかな?今はカウント国国王ライルだ

まあよろしく」


なんだこの男は


あの謁見とはまるで別人ではないか!


口調だけでは無い、自身が滲み出ている



「ラ、ライトリア王グレンだ」


「で、話ってなに?」


「俺はカウントの独立を認めてはいない」


「もはやあなたの許可はいらない、実質的に独立は成され問題なく国として動いている」



「クッ、も、もう意地を張るのは辞めないか?

ライトリアとしては今ならばカウント領を受け入れられる

公爵に陞爵はしてもいい

新法に関しても王である俺が君たち家族に特許状を出そう」


「今は既に王だからねー公爵にされても別にねー

新法に関しては最低でも廃案にしてもらわないとなんとも」



「そうだ!スミカを私の側妃にしてもいい!王族から婚約破棄された傷物の令嬢をもらってやるのだ!

これで何も文句あるまい!?」



「なんだって!?

ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハーッハハハハハ」


「何だ?何がおかしい

俺は真剣だぞ」


「姉様は既に結婚している」


「は?何を言っているんだ?


まだ婚約破棄から半年だぞ?」


「婚約破棄の当日に別の女との結婚を発表した人間に言われたくは無いけどね


姉様は僕が決めた相手と既に結婚済みだ」


「な、ななな何だとおお!?誰だ!どこの貴族だ!?

まさか他国の王族か?」


何故だがとても焦り怒っているグレン


ライルは自分の後ろを指差す


「こいつ」


「は?そいつは騎士団長のファムだろ?俺はそいつにここに案内されたんだ」


「だから、ファムが姉様の夫なんだよ」


「は?そいつはどこの国の王族だ?俺が話をつけて婚約破棄させてやろう

代わりの女も当てがうさ」



「ファム!殺気を抑えて!

グレン殿、ファムは王族ではない」


「ならばどこの貴族だ!ファムなどと言う名前は聞いたことがない!

まさか、庶子か?高位貴族の愛人の子を兵士として預かっていたのか?」


「いいえ、それも違う

ファムのご両親とは僕も心やすくさせて貰ってる

ファムは辺境伯邸から1番近い農家の次男坊


先祖を5代遡っても農家の根っから農家だよ

ド平民さ」


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