第18話 冬を越えると...
実りの秋を超え冬に入る
ライトリア王国には異変が起きていた
明らかに麦や野菜の価格が上がり質が落ちた
古くカビの匂いがする麦で作られた硬いパンにこれまた古く萎びた野菜のスープ
他国から入荷していた香辛料は数十倍の値段になっている
皇国から来ていた塩も在庫が安定しない
噂に聞くとトンカウ商会がいなくなった後に臨時で作った物流ルートが雪で通行不可になったとか
新法が施行され全てを奴隷に任せて楽をしようと思っていたのに対象者は1人もいない
これも噂によればトンカウ商会が暗躍し対象者をカウント国に送ったとか
騙されたレビュラント公爵は数々の横領を暴かれ斬首されたとか
この冬はおそらく越えられるだろう
だが来年はどうだろうか?
大穀倉地帯だったカウント辺境伯領とロッヂ伯爵領を失って物流も安定しないこの国は
自分たちは生きていけるのだろうか?
不安は少しずつ大きくなっていく
そしてそれは貴族も
愚かな王も同様だった
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ライトリア王国 王宮
グレン王寝室
「クソ、どうすればいいんだ」
「陛下...」
悩むグレンを王妃である皇女ルミアは心配する
今この国が抱える問題は主に食糧と物流、辺境の貧国ならばこれが当たり前かこれでも恵まれている方だろう
だが一度栄華を極めたこの国には辛すぎる現実
自分が王になった途端の凋落
下に見ていた辺境伯領が無くなっただけで
しかも元を辿れば自分達の婚姻のゴタゴタから続くこの問題
皇国も似たような状態らしい
これはマズイ
「陛下、スミカ様を側妃に迎えましょう」
「!?し、しかし」
「傷物であるスミカ様を娶ればライル様は陛下に感謝するでしょう。
そして食糧を送らせればいいのです」
「それはそうだろうが...ルミアは平気なのか?私が側妃を迎えても」
「もちろん嫌ですか王国と皇国、何より陛下の為ですから...」
あまりにいじらしく思わずルミアを抱きしめる
「ルミア!すまん、感謝する
こんな王で、夫で申し訳ない
約束しよう
スミカを娶っても奴は後宮に閉じ込めておく
私が愛する女はお前だけだ!」
「ああ、陛下...嬉しいです」
2人はお互いの愛を確認していく...
数時間後、乱れたと衣服を着替え臣下に指示を出す
「元カウント辺境伯領のライルとスミカに召喚状と使者を送れ!
大至急だ!」
数日後
「お前が来いと追い返されました」
「・・・・・!?」
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関所
「ライトリア王国外務大臣サバシ伯爵の一団である!
ライル辺境伯に用がある!誰か案内せい!」
馬車の御者が大声を挙げる
伯爵本人は顔を出さない
「カウント国騎士団長ファムです。
まずはあなた方がライトリア王国のサバシ伯爵の一団だという証明を見せて頂きたい」
「なんだと!たかだか1兵士が無礼な!お前はただ案内すればよい」
「証明が無ければ何も出来ません」
「こいつまだ言うか!?」
一触即発の中馬車の中から声がする
「待て、陛下は大至急と仰せだ
多少の無礼は目を瞑り先を急ごう。そこの兵士、コレが印章だ。証明になるだろう」
「確かに確認しました。
サバシ伯爵、本日のご用件は?」
「畏れ多くもグレン陛下がカウント辺境伯ライルとその姉スミカに召喚状をしたためられた
ワシはその使者を仰せつかった次第である。わかったらさっさと辺境伯邸に案内しろ
先馬を出し2人に清潔にして陛下の使者を迎える準備をさせるのを忘れるな」
「なるほど、そういう事ですか
閣下、我が主君ライル様よりライトリアからの使者または召喚状への返事を既に預かっております
「言いたい事があるならばそちらが来い」
以上です
そして」
ファムは剣を抜く
「な、何だ!使者である私を殺すのか!」
「ここは既にカウント国の領土
王で在られるライル様への不遜な態度、呼び捨て
辺境伯扱い
不敬罪にあたります
私はライル様より法務執行官の役をいただいており裁判無しでの刑の執行が可能です
さて、今すぐライトリア領に戻るのでしたら私でも手を出せなくなりますが...」
「皆のもの出合え!ワシを守れ!」
伯爵の護衛が剣を抜き切りかかる
ファムは護衛の身体では無く剣に向けて一閃
金属同士が打ち合う甲高い音ではなく
虫が前を飛び去ったような空気の音
サクッ
護衛の剣の刀身が地面に落ちる
剣で剣を切ったのだ
「さすがは魔王領の鉄で打った剣ですね、よく切れます」
否、断じてそれだけではない
いくらこちらがなまくらであちらが名刀でもこんなふうには切れない
あいつの技量が高すぎるんだ
「カウント国は既にライトリアから独立し、敵国と認定しております
何故敵国の王の召喚に応じなければならないのです?
早く帰ってグレン陛下に伝えなさい
カウントはあなたの配下ではないとね」
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