第4話
カウント領辺境伯邸
機能性重視な簡素な木製デスクに向かい数通の手紙を認めるライル
「ふう..とりあえずこんなもんかね、誰かいるか!?」
声をかけ終わるか終わらないかのタイミングで執事服をピシッと決め白い口髭を蓄えた高年の男が入室してくる
「失礼いたします」
「早いな!?部屋の外で待っていたのか?影渡でここに帰って来たから誰にも知られていないはずなんだが」
「この屋敷内で起きる事象で私が把握していない事柄はありえません、絶対に」
「ハハハ、敵わないな」
カウント辺境伯邸、家令セラブ
ライルの祖父の時代からの使用人で邸内の全てを仕切っていると言っても過言ではない
魔法なのか勘なのか未知の特殊能力なのか、はたまたそれら全てか、屋敷内の全てを把握しているというのもおそらく事実だろう
「これら手紙を送ってくれ、なるべく急ぎで」
「かしこまりました。
ライル様、私はただの使用人であります。政はわかりませんし過ぎた意見も持ちません。ただ...」
いつもならばこちらから話しかけない限り口を挟む事がない男が、いつもよりも更に数段優しい声色で話す
「ご自愛下さい。ライル様が体調を崩すとスミカ様は悲しみますよ?私達を頼ってください、辺境伯家の為に全てをかけられる人間がこの家にはいます。それだけです」
鼻の奥にツンと小さい刺激が...目が潤むのを感じる
「ね、姉様のこと、誰かに聞いたか?」
涙目のライルの問いに静かに首を横に振る
「いいえ、誰からも聞いていません。しかし、ライル様がそんな顔をするのは必ずスミカ様に良くない事が起きたときですので。
わかりますよ、貴方達が生まれてから毎日、貴方達の顔を見て成長を確認するのが私の一番の楽しみですから
では、失礼いたします」
一礼し扉から出ていく
その姿を眺めながら涙が落ちないように袖で拭い息を整えていると
「若様、親方様から手紙の返事だ」
影から人が現れる
「あ、ああありがとう。どうした?」
手紙を受け渡しながらまじまじと顔を見てくる
「若様泣いてた?」
カーッと顔が熱くなる
「泣いてないよ!泣くわけなっわぐぶ」
突然ギュッ抱擁され頭を撫でられる
「大丈夫、スミカ様は無事だし若様は何にも間違ってない、頑張ってる。大丈夫、大丈夫」
高身長な護衛の胸元、ささやかな膨らみに顔を埋め、鼓動を聞いていると心が落ち着いてくる
まだ14歳の少年なのだ
気がつくと先程落ち着かせた涙が溢れてくる
「いいんだよ、たまには泣いたって若様はそれだけ頑張っているんだから」
思春期の最後のプライドか、声だけは我慢しながら少しの間涙を流し続けるのだった
「ありがとう、落ち着いた。こっちはいいから父様と姉様の護衛に戻ってくれ」
「わかった。じゃあね、無理しないでね若様」
また影にトプんと消えたのを確認し、父からの手紙を読む
「よし、誰か!ファムを呼んでくれ」
数分で二十歳そこそこの青年が入ってくる
黒髪の短髪に端正な顔立ち、一見細身だがよく見れば鍛え上げられているのがわかる絞まった身体
「兵団長ファム、参りました。」
「簡潔に言う。先程王城で王太子が姉様との婚約を破棄し皇女ルミアとの婚姻を発表した」
「はあ!?なぜです!!?スミカ様は大丈夫なのですか!?」
ファムからの問いに答えていくと彼は深く考え込み黙った
そして
「ライル様、誠に勝手ではございますが暇をいただきたいのですが」
「王都に行くんなら許さんよ」
「お願い致します!あの王太子を殺さねば気持ちが収まらないのです」
「ダメだ、お前にはまだまだやってもらわなくちゃいけない事がたくさんある」
「いったい何をすればいいのです!?」
「姉様と結婚して姉様を幸せにしろ」
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